10話 創造主様との対話
建物内がざわついた。
クラリスも「大変ですわ!」と声を上げる。
さぁ陸戦の始まりだね!
これ以上、戦力を分割するのは私らかなりキツいけどね!
「むしろ、マルティンはよく今まで、神殿の圧力を撥ね除けてくれたね」
ありがたいことである。
いきなり全方位から攻められるのはキツい。
敵を海からの攻撃に限定できていたのは、非常にありがたかった。
この間に、敵の戦力もかなり削れたしね。
「よし、じゃあ戦略上の要衝を防衛しよう。私も行く」
まぁ、私って実は戦略とかあんまり詳しくないんだよね!
だってずっと兵隊だったもん!
自衛隊でも傭兵団でも!
こっちに転生してから、一応勉強はしたので、なんとかなると思う。
たぶん!
◇
さてローズ公国の要衝とはどこだろうか?
いくつかあるけど、侵略者が最初に狙いたいのは交通の要衝であるブラレルだろう。
ブラレルは東の伯爵領の東の果て、国境沿いの街である。
首都ロージアと同じ男爵領内の街でもある。
まぁ、ロージアは大公直轄領なので、厳密には男爵領ではないけれど。
ブラレルは隣の領地との交流や交易が盛んで、大きな街道の出発点でもある。
要するに、軍事的にも極めて重要な街なのだ。
ブラレルから北西に延びた街道を行けば港街に出るし、西に延びた街道に沿って進めばいずれロージアに到着する。
そのブラレルの外、更に国境に近い街道で大きな戦闘が勃発していた。
ホーリエン領に上陸した神聖連邦軍は、予想通りにブラレルを落としに来たのだ。
兵力差は軽く10倍。
あ、でもこっちにはローズ領から義勇兵1000人が合流している。
義勇兵ってゆーか、普通に派兵だけどね!
ちなみに、ダブルローズ海軍は今もちょこちょこと、敵の船を攻撃しては逃げるを繰り返している。
いい感じに損害を与えているけれど、何せ敵の数が多いからねぇ。
それはそれとして、私は空から戦況を眺めている。
ローレッタの騎馬鉄砲隊はここでも活躍しているようだ。
ちなみにローズ領の義勇兵1000人はみんな鉄砲持参だった。
戦力差は10倍あるけど、鉄砲の数は同じぐらいっていうね。
「あは、楽しそうだね! 私交じっていいかい!?」
私の隣に浮いているアスラ・リョナが言った。
今日の見学者である。
「いいわけ、ないよね? 黙って見ててくれるかな?」
私は引きつった表情で言った。
この人が交じると、一瞬で戦況が変わってしまう。
てゆーか、いちいち見に来なくてよくね?
「君の妹、相当、気が強いね!」
アスラはとっても楽しそうに言った。
ローレッタは少し無茶なんじゃないか、と思うような機動も平気でやる。
と、1カ所だけめっちゃ押されている戦線があった。
「神聖騎士団、かな?」
ローズ陸軍を押している敵の騎士たちは、全員キラキラした銀色の鎧を装備している。
剣も非常に高価そう。
「ふむ。そのようだね」アスラが言う。「彼らは有象無象の寄せ集めではなく、神殿勢力の専属騎士たちで、全員がユグに命を捧げている。だからまぁ、端的に言って強いよ」
「人間の命なんか、創造主様が欲するとは思えないけどね」
「まったく同意だよミア。ところで、そろそろ君が何かするのかな? このままじゃ、あそこぶち抜かれるよ?」
アスラはニコニコと本当に楽しそうに言った。
なんだろう、微妙にうざい。
「10式戦車でも使おうかな」
「ふむ。いい考えだけど、果たして個人利用の範疇に入るかな?」
「それさー、本当なの?」
「どれ?」とアスラ。
「創造主様の話。私が現代兵器を並べたら介入されるかもって」
「信じてないなら、試してみたまえ」
アスラがニヤッと笑って肩を竦めた。
それだけで、事実を言っていると分かった。
「よぉし! 何両並べたら怒られるか、やってみよっと!」
今後のためにも、正確にどの程度のことをしたら介入されるのか知っておきたい。
私は10式戦車を仮創造して戦線に投入。
ローズ陸軍は何度も見たことあるので、「ミア様だ! ミア様の援護だぞ!」と一気に士気が上がった。
反面、神聖騎士たちは10式戦車を知らないので、少し動揺していた。
砲身が火を噴くと、更に慌てふためいた。
私は10式戦車の数をどんどんと増やしていく。
84mm無反動砲や、01式軽対戦車誘導弾のない戦場なら、戦車無双だよね!
だって敵兵の持ってる武器、剣とか槍がメインだもんね!
とはいえ、相手が侵略者でも、私は虐殺がしたいわけじゃない。
少し脅して、逃走してくれたら戦車は消す。
そして私が5両目の戦車を仮創造した時。
「まったく、いい加減にせんと妾も怒るぞ」
とっても幼い声が聞こえ、そして私の意識が暗転。
◇
目覚めたらフワフワした空間にいた。
足下はまるで雲。
白くてホワホワで、柔らかくて、温かみすら感じる。
そしてその空間は薄い桃色だったり、薄い空色だったりして、よく分からない。
透明感と可愛らしさを両立したような、謎の空間だね。
明るくて遠くまでよく見えるけど、その空間には何もなかった。
延々と広い広い永遠が続いているような、そんな変な錯覚に陥る。
気温は非常に快適で、たぶん裸でも問題ない。
もちろん、脱いだりしないけれど。
「アスラから聞いていただろうに、なぁんで現代兵器を並べるかのぉ」
酷く呆れた風な声で、10歳前後の少女が言った。
身長は私と同じくらいかな。
2人とも立っているので、目測だけど大きく外れてはいない。
「ははっ、君が創造主様?」
「うむ、妾はユグドラシル・ジュニア! ユグユグとでも呼んでくれれば良いぞ!」
少女ことユグドラシルことユグユグが胸を張って言った。
胸はないけどね!
ユグユグの髪型は右側のサイドアップで、長さはセミロング。
髪色は浅緑。
瞳の色も同じ。
服装はフリフリのワンピースで、色は白。
全体的に淡い感じの存在である。
「私はミア・ローズだよ」
言いながら、私は雲に座った。
あは、やわらかーい!
ユグユグも私の前に座り込む。
「知っておる。無茶をするから、いつか介入するかもと見ておったからのぉ」
「それは……なんかゴメン!」
私が謝ると、ユグユグは肩を竦めた。
私は試しに、魔法を使ってみたが発動しなかった。
もちろん、害意のない魔法である。
「なんじゃいきなり」
「……万が一ってことがあるからさ」私が言う。「魔法さえ使えたら、逃げられるだろう?」
「この惑星上で、妾から逃げるなど不可能じゃぞ?」
「ああ、そう……」
これ、怒らせたら割とヤバい感じかもね。
魔法を封じられたら、私はただのちょっと強い少女である。
あと、ちょっと可愛い。
それから、大公。
それから……。
「おーい、帰ってこぉい」とユグユグ。
私はコホンと咳払い。
「とりあえず、今後はもう少し気を付けるよ」
「うむ。妾は……というか、どの世界のどの創造主でも同じことじゃが――」
ユグユグが真面目な表情で言う。
そっかぁ、惑星の数だけ創造主がいるのかー。
「――進化の流れが変わるほどの介入を受けるのは気に食わん。自然の流れを阻害するような介入は許せん。お主が前世の記憶を持っているのは許す。そんなのは個性の1つに過ぎん。個人的に現代兵器を使うのもまぁ許す。じゃが、今回のはナシじゃ。お主はこの世界の理から完全に外れた」
あれ、これ、すでにめっちゃ怒ってない?
私、大丈夫かな?
「そこまで怒ってはおらん」
ユグユグは私の心を読んだように言った。
私はすごく驚いた。
まぁ創造主ならそういうことも、あるか。
「これはあくまで注意に過ぎんよ。あのまま戦車を並べて戦ったら、それはもうこの世界の戦争じゃない。お主がお主個人の敵を大砲で撃とうが銃で撃とうが、ミサイルで木っ端微塵にしようが妾は関知せん」
それはまた随分と心の広い創造主様である。
「知的生命体は基本的には自由じゃよ。その世界の、その時代の枠の中でなら、何をしてもいい。妾は、というか全ての創造主は、知的生命体の自由進化を阻害してはいけないのじゃ。生きるも死ぬも、滅びるも栄えるも、全て等しくお主らの権利じゃ」
権利って言葉を、こんなに重いと感じたのは初めて!
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