10話 創造主様との対話


 建物内がざわついた。

 クラリスも「大変ですわ!」と声を上げる。

 さぁ陸戦の始まりだね!

 これ以上、戦力を分割するのは私らかなりキツいけどね!


「むしろ、マルティンはよく今まで、神殿の圧力を撥ね除けてくれたね」


 ありがたいことである。

 いきなり全方位から攻められるのはキツい。

 敵を海からの攻撃に限定できていたのは、非常にありがたかった。

 この間に、敵の戦力もかなり削れたしね。


「よし、じゃあ戦略上の要衝を防衛しよう。私も行く」


 まぁ、私って実は戦略とかあんまり詳しくないんだよね!

 だってずっと兵隊だったもん!

 自衛隊でも傭兵団でも!

 こっちに転生してから、一応勉強はしたので、なんとかなると思う。

 たぶん!



 さてローズ公国の要衝とはどこだろうか?

 いくつかあるけど、侵略者が最初に狙いたいのは交通の要衝であるブラレルだろう。

 ブラレルは東の伯爵領の東の果て、国境沿いの街である。

 首都ロージアと同じ男爵領内の街でもある。

 まぁ、ロージアは大公直轄領なので、厳密には男爵領ではないけれど。

 ブラレルは隣の領地との交流や交易が盛んで、大きな街道の出発点でもある。


 要するに、軍事的にも極めて重要な街なのだ。

 ブラレルから北西に延びた街道を行けば港街に出るし、西に延びた街道に沿って進めばいずれロージアに到着する。

 そのブラレルの外、更に国境に近い街道で大きな戦闘が勃発していた。

 ホーリエン領に上陸した神聖連邦軍は、予想通りにブラレルを落としに来たのだ。

 兵力差は軽く10倍。


 あ、でもこっちにはローズ領から義勇兵1000人が合流している。

 義勇兵ってゆーか、普通に派兵だけどね!

 ちなみに、ダブルローズ海軍は今もちょこちょこと、敵の船を攻撃しては逃げるを繰り返している。


 いい感じに損害を与えているけれど、何せ敵の数が多いからねぇ。

 それはそれとして、私は空から戦況を眺めている。

 ローレッタの騎馬鉄砲隊はここでも活躍しているようだ。

 ちなみにローズ領の義勇兵1000人はみんな鉄砲持参だった。

 戦力差は10倍あるけど、鉄砲の数は同じぐらいっていうね。


「あは、楽しそうだね! 私交じっていいかい!?」


 私の隣に浮いているアスラ・リョナが言った。

 今日の見学者である。


「いいわけ、ないよね? 黙って見ててくれるかな?」


 私は引きつった表情で言った。

 この人が交じると、一瞬で戦況が変わってしまう。

 てゆーか、いちいち見に来なくてよくね?


「君の妹、相当、気が強いね!」


 アスラはとっても楽しそうに言った。

 ローレッタは少し無茶なんじゃないか、と思うような機動も平気でやる。

 と、1カ所だけめっちゃ押されている戦線があった。


「神聖騎士団、かな?」


 ローズ陸軍を押している敵の騎士たちは、全員キラキラした銀色の鎧を装備している。

 剣も非常に高価そう。


「ふむ。そのようだね」アスラが言う。「彼らは有象無象の寄せ集めではなく、神殿勢力の専属騎士たちで、全員がユグに命を捧げている。だからまぁ、端的に言って強いよ」


「人間の命なんか、創造主様が欲するとは思えないけどね」

「まったく同意だよミア。ところで、そろそろ君が何かするのかな? このままじゃ、あそこぶち抜かれるよ?」


 アスラはニコニコと本当に楽しそうに言った。

 なんだろう、微妙にうざい。


「10式戦車でも使おうかな」

「ふむ。いい考えだけど、果たして個人利用の範疇に入るかな?」

「それさー、本当なの?」


「どれ?」とアスラ。


「創造主様の話。私が現代兵器を並べたら介入されるかもって」

「信じてないなら、試してみたまえ」


 アスラがニヤッと笑って肩を竦めた。

 それだけで、事実を言っていると分かった。


「よぉし! 何両並べたら怒られるか、やってみよっと!」


 今後のためにも、正確にどの程度のことをしたら介入されるのか知っておきたい。

 私は10式戦車を仮創造して戦線に投入。

 ローズ陸軍は何度も見たことあるので、「ミア様だ! ミア様の援護だぞ!」と一気に士気が上がった。

 反面、神聖騎士たちは10式戦車を知らないので、少し動揺していた。

 砲身が火を噴くと、更に慌てふためいた。


 私は10式戦車の数をどんどんと増やしていく。

 84mm無反動砲や、01式軽対戦車誘導弾のない戦場なら、戦車無双だよね!

 だって敵兵の持ってる武器、剣とか槍がメインだもんね!

 とはいえ、相手が侵略者でも、私は虐殺がしたいわけじゃない。

 少し脅して、逃走してくれたら戦車は消す。

 そして私が5両目の戦車を仮創造した時。


「まったく、いい加減にせんと妾も怒るぞ」


 とっても幼い声が聞こえ、そして私の意識が暗転。



 目覚めたらフワフワした空間にいた。

 足下はまるで雲。

 白くてホワホワで、柔らかくて、温かみすら感じる。

 そしてその空間は薄い桃色だったり、薄い空色だったりして、よく分からない。

 透明感と可愛らしさを両立したような、謎の空間だね。


 明るくて遠くまでよく見えるけど、その空間には何もなかった。

 延々と広い広い永遠が続いているような、そんな変な錯覚に陥る。

 気温は非常に快適で、たぶん裸でも問題ない。

 もちろん、脱いだりしないけれど。


「アスラから聞いていただろうに、なぁんで現代兵器を並べるかのぉ」


 酷く呆れた風な声で、10歳前後の少女が言った。

 身長は私と同じくらいかな。

 2人とも立っているので、目測だけど大きく外れてはいない。


「ははっ、君が創造主様?」

「うむ、妾はユグドラシル・ジュニア! ユグユグとでも呼んでくれれば良いぞ!」


 少女ことユグドラシルことユグユグが胸を張って言った。

 胸はないけどね!

 ユグユグの髪型は右側のサイドアップで、長さはセミロング。

 髪色は浅緑。

 瞳の色も同じ。

 服装はフリフリのワンピースで、色は白。

 全体的に淡い感じの存在である。


「私はミア・ローズだよ」


 言いながら、私は雲に座った。

 あは、やわらかーい!

 ユグユグも私の前に座り込む。


「知っておる。無茶をするから、いつか介入するかもと見ておったからのぉ」

「それは……なんかゴメン!」


 私が謝ると、ユグユグは肩を竦めた。

 私は試しに、魔法を使ってみたが発動しなかった。

 もちろん、害意のない魔法である。


「なんじゃいきなり」


「……万が一ってことがあるからさ」私が言う。「魔法さえ使えたら、逃げられるだろう?」


「この惑星上で、妾から逃げるなど不可能じゃぞ?」


「ああ、そう……」


 これ、怒らせたら割とヤバい感じかもね。

 魔法を封じられたら、私はただのちょっと強い少女である。

 あと、ちょっと可愛い。

 それから、大公。

 それから……。


「おーい、帰ってこぉい」とユグユグ。


 私はコホンと咳払い。


「とりあえず、今後はもう少し気を付けるよ」

「うむ。妾は……というか、どの世界のどの創造主でも同じことじゃが――」


 ユグユグが真面目な表情で言う。

 そっかぁ、惑星の数だけ創造主がいるのかー。


「――進化の流れが変わるほどの介入を受けるのは気に食わん。自然の流れを阻害するような介入は許せん。お主が前世の記憶を持っているのは許す。そんなのは個性の1つに過ぎん。個人的に現代兵器を使うのもまぁ許す。じゃが、今回のはナシじゃ。お主はこの世界の理から完全に外れた」


 あれ、これ、すでにめっちゃ怒ってない?

 私、大丈夫かな?


「そこまで怒ってはおらん」


 ユグユグは私の心を読んだように言った。

 私はすごく驚いた。

 まぁ創造主ならそういうことも、あるか。


「これはあくまで注意に過ぎんよ。あのまま戦車を並べて戦ったら、それはもうこの世界の戦争じゃない。お主がお主個人の敵を大砲で撃とうが銃で撃とうが、ミサイルで木っ端微塵にしようが妾は関知せん」


 それはまた随分と心の広い創造主様である。


「知的生命体は基本的には自由じゃよ。その世界の、その時代の枠の中でなら、何をしてもいい。妾は、というか全ての創造主は、知的生命体の自由進化を阻害してはいけないのじゃ。生きるも死ぬも、滅びるも栄えるも、全て等しくお主らの権利じゃ」


 権利って言葉を、こんなに重いと感じたのは初めて!

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