9話 シュローの攻防


 轟音とともに砲弾が飛び、多くの水柱が立つ。

 どちらもクリーンヒットはない。

 併走していた敵艦隊が斜めに切り込むような感じで回頭。

 距離を縮めたいのだろう。

 私はドローンをもう1つ飛ばして、甲板のローレッタを確認。

 合わせて、宙に浮いている映像も1つ増やした。

 ローレッタは第二射の号令をかけたところだった。


 大砲が敵艦隊の近くに着弾する。

 集弾率が割といい。

 もう少し近寄ったら命中するね!

 どうやら、練度は私たちの方が上みたいだね!

 ああ、私も交じりたいなぁ!

 でも今回の海戦の目的って、練度向上なんだよね。

 別に総力戦してるわけでもないし、私が倒しちゃったら、あんまり意味ない。


 つまり今回の私の役目は、前線で兵の士気を上げることだけ。

 実は船室に引きこもる前は演説とかやった。

 さて映像の中では敵艦隊がだいぶ近寄ってきた。

 そして再び同航戦へ。

 壮絶な撃ち合いが始まる。

 お互い、速度を同じぐらいに調節して、どっちかが沈没するか撤退するまで撃ち合うのだ。

 水柱が立ち、船が揺れ、大きな音が響く。


「やった! 命中!」


 こっちの大砲が敵74門艦を直撃。

 更に、ダブルローズ海軍の方が圧倒的に再装填が早いっ!

 ははっ!

 こっちは普段から軍事大国目指して訓練してるからね!

 激しい撃ち合いが続き、平均して向こうが1回撃つ間にこっちは1回半から2回撃てることが分かった。


 更に集弾率も非常に高く、すでに敵74門艦を一隻撃沈した。

 残り5隻の敵艦も、すでにダメージを負っていて、離脱を試みている。

 こちらの被害はローズ領の戦列艦一隻が被弾して中破。

 ケガ人も出ている。

 結果として、敵戦列艦で離脱できたのは1隻のみ。

 残り5隻は撃沈した。


 素晴らしい戦果だね。

 とはいえ、神聖連邦の大艦隊はまだまだ健在。

 旧式の移乗攻撃用軍艦が多いけど、戦列艦だってまだ残っている。

 ローレッタが帰港を指示。

 ダブルローズ海軍が散開し、それぞれの港へと舵を切った。

 中破した艦が少し心配だったけど、航行は可能っぽい。


 ケガ人を助けてあげたい、という気持ちが湧いてくるけど、私は心を鬼にした。

 私に依存させてはいけない。

 衛生兵や軍医の質も上げなくてはいけない。

 防衛力は未来永劫、私が死んだあとも必ず必要になるのだから。


 まぁ、神聖連邦と私たちじゃ戦力に差がありすぎるので、いずれ私の力を使うつもりではあるけれど。

 でもまずは、私抜きでも戦えるようにしないとね。

 さて、神聖連邦の方はローズ公国の沿岸を目指しているようで、こちらには新手を送り込まなかった。

 よし、次は上陸阻止の実戦だね。



 数日後。

 戦争は基本、防衛側の方が有利である。

 でもだいたいの場合、戦力は侵略側の方が上である。

 まぁ、そうでないと侵略しようなんて思わないだろうしね。

 ここはローズ公国の港街シュロー。

 ローズ公国は東西に1つずつ伯爵領があって、シュローは西の伯爵領に属している。

 そして西の伯爵領には3つの男爵領があって、シュローはその最北に位置している。


 ちょこんと半島みたいに突き出してるんだよね。

 シュローには軍港もある。

 というか、現状ローズ公国の軍港はここともう一つしかない。

 さてそのシュローは神聖連邦戦列艦の艦砲射撃に晒されていた。

 まぁすでに住民は避難済み。

 残っているのはローズ陸軍と警察のみ。


「それにしても撃ちますねぇ」


 ローレッタがうんざりした様子で言った。

 ほぼ絶え間なく大砲の弾に飛んでくる。

 ちなみに私たちは軍服ワンピースではなく戦闘服。

 当然、88式鉄帽もかぶっている。

 ローズ陸軍は全員似たような服装である。

 制式化したからね、戦闘服。


「地面が揺れるぞ!」


 アランも戦闘服に鉄帽姿で、少し楽しそう。

 戦闘服姿のアランもカッコいい。

 今日も私はアランを拉致……じゃなくて瞬間移動で連れて来た。

 私たちは沿岸から少し離れてた頑丈な建物内にいる。

 それでも砲撃の音と振動がここまで響いてくるのだ。

 ローズ陸軍も似たような場所に隠れている。


「なんというか、誰もいないのに不毛だねぇ」


 私はやれやれと首を振り、窓から外を見た。

 遠くで煙が立ち上っている。

 ドローンを飛ばし、映像を部屋の中の空宙に映す。

 我が軍の偵察小隊が、最前線で敵艦隊の動きを監視している様子が映った。


「うむ。素晴らしいな!」アランが言う。「あの砲撃の中、逃げることもなく監視している!」


「それが役目だしね」と私。


 敵艦隊の艦砲射撃が終わり、揚陸艦というか、移乗攻撃用の軍艦が前に出る。


「さてアラン、こうなったらもう艦砲射撃はない。なぜだい?」

「味方を巻き込む危険があるから!」

「正解」


 映像の中で、偵察小隊が動いた。

 本部に敵が上陸作戦を開始したと知らせるためだ。


「あたしたちも近寄りましょう!」

「そうだね。ローレッタは騎馬鉄砲小隊の指揮を取ってみたらどうかな?」

「いいですね! 頑張ります!」



 凄まじい矢の雨が降っていた。

 敵艦からの矢と、こっちから撃っている矢である。

 上陸したい敵と、絶対に上陸させたくない私たちの攻防。

 私たちは火矢も積極的に使っている。


「これが対水上戦闘か……おっと」


 アランがヒョイと移動。

 さっきまでアランがいた位置に矢が飛んで来た。

 さすがアラン。

 私が助ける必要はなさそうね。

 ちなみにローレッタは騎馬鉄砲小隊の指揮を取っているので、ここにはいない。

 そして私とアランは倉庫の屋根の上にいる。


 この屋根には、私たち以外にも弓矢小隊がいて、矢を放っている。

 別に私は指揮を取っていない。

 純粋に見学中である。

 敵艦が小舟をいくつも降ろしたけれど、こっちに辿り着けた小舟は少ない。

 辿り着けたとしても、ローレッタの騎馬鉄砲小隊が狙い撃ちにしていて、上陸を阻止している。


 やっぱ鉄砲だよね!!

 敵にも鉄砲隊はいるけれど、みんなが持っているわけじゃない。

 連邦は所詮、連邦なんだよね。

 技術水準も軍事レベルもバラバラ。

 ぶっちゃけ数が多いだけの烏合の衆。

 まったく連携が取れてない上、士気もさほど高くない。


 だって自分たちに直接関係ない戦争だもん。

 神殿のメンツのための戦争に、普通の兵の士気は上がらない。

 反面、私らは国土防衛中なので士気は高い。

 プロパガンダも完璧。

 神殿側の無茶な要求を、毅然とした態度で撥ね除けたのが私。

 そしたら神殿側が力による現状変更を試みた、と。


 だいたい合ってる。

 そして極めつけに、大公の私も前線にいるし、小公爵のローレッタも直接指揮を取ってるから、士気が低いはずがない。

 戦争において、士気はめちゃくちゃ大切。

 システム化された現代ですら大切だった。

 攻め込む側に大義名分が必要な理由の1つだね。


 結局、本日の上陸戦は私らローズ公国が勝った。

 のちに『シュローの攻防』と呼ばれる戦闘である。

 神聖連邦はローズ公国の50倍近い戦力で攻めたにも関わらず、上陸できなかった。

 正確には、上陸した部隊もあったけど、ローレッタ率いる騎馬鉄砲の機動力に撃破されたのだった。



 翌日。

 今日もシュローの攻防が続いていたのだけど、急に敵が引き始めた。

 あー、別の場所が落とされたかなー?

 神聖連邦は何も、シュローからしか上陸していないわけじゃない。

 ここが一番激しい攻撃を受けているというだけ。


 今日の私はローズ陸軍、シュロー防衛隊の司令官たちが集まっている建物にいる。

 ちなみにアランはいなくて、クラリスがいる。

 今日は学園が休みなんだってさ。

 アランを迎えに行ったら、「今日はアタクシ! 絶対アタクシ!」と言って聞かなかったので連れてきた。

 と、伝令が駆け込んでくる。


「大公閣下! 大変です!」


「どこが上陸された?」と私。


「え? いえ、我が軍は抜かれておりません」


 あら?

 強いじゃんローズ軍!


「それじゃあ、どうしたの?」

「ホーリエン王国が神聖連邦に対して領土通過許可を出したようです!」


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