8話 ダブルローズ海軍、出撃!


 ヨーナの言葉通り、神殿の使者がやってきた。

 それはもう、めっちゃ偉そうな態度で。

 ちなみに、使者はオードリーと狂信的助祭お兄さんの2人だった。


「金貨が消えたんだけど?」


 開口一番、オードリーはそう言った。

 めっちゃ睨まれてる。

 ここはローズ公国、大公の城、外務省の応接室。

 私たちはソファに座っている。

 前回と同じ配置だ。

 テーブルを挟んで私の対面にオードリーたち。

 私側には私しかいない。

 現在、オードリーたちに対応しているのは私だけだ。

 スヴェンは忙しいし、ローレッタは軍に指示を飛ばしに行った。


「へぇ? なくしたの?」


 私はすっとぼけた。


「このっ! あんたが噂の【全能】で何かしたんでしょマジで! 返しなさいよわたしの金貨!」

「知らないよ? 落としたんじゃない?」


 私は笑顔を浮かべた。

 外交に笑顔は大切だからね。


「ガチでふざけた大公ね……」オードリーは苦々しい表情で言う。「今ならまだ、聖戦を止めることも、できるんだけど?」


「司祭様!」助祭が言う。「止める必要はありません! この国は、この大公は! 我々をバカにしている!」


「ばーか、ばーか」

「このクソガキがぁぁ!」


 助祭が両手でテーブルを叩き、立ち上がる。

 ちょっと手が痛かったよね、今の。


「交渉など必要ありません司祭様! 帰りましょう!」

「……そうね。ガチで滅びかけて反省しなさい。わたしの金貨を消したこと」


 オードリーも立ち上がる。


「なんで帰れると思ったの?」


 私がパチンと指を鳴らすと、ドアの外で待機していた騎士たちが雪崩れ込んできた。

 騎士たちは剣を抜き、構えた。


「なっ!? 我々は使者だぞ!」と助祭。


「知ってる。でも、だから何?」私はニヤッと笑いながら言う。「聖戦するんだろう? だったら、君らを生かして帰す理由がない」


「バカな! 使者を拘束、ましてや殺害するなど聞いたことがない!」


「おめでとう、初体験だね」と私。


「わたしに手を出したら、この国が滅ぶまで神殿は手を緩めないけど? ガチよ?」

「君と肉体関係の大司祭様が怒るから?」


 私が言うと、オードリーが驚いた風に目を丸くした。


「好きでもないジジイと寝るってどんな感じなのかな?」私が言う。「君は若い男の子が好きだろう? 13歳前後の」


「……うざっ……」


 オードリーが私を睨み付ける。

 まぁ全然怖くないけどね。

 正直な話、私はこの世で一番怖い人間はアスラ・リョナだと思ってるんだよね。

 なぜなら、彼女と比べたらみんな可愛く見えるから。

 可愛いというのは内面的な意味で、外見だけならアスラも好み。


「大公閣下、どうします?」


 騎士の1人が言った。


「逮捕したまえ。罪状は私への侮辱罪。2年ぐらい牢屋にぶち込んでおけ」


 まぁ、2人とも殺してもいいようなクソヤローだけれども。

 特にオードリーの方はガチの悪党。

 ちょっと悩んだけど、まぁ牢屋でいいか。

 ポンポン死刑にすると独裁者っぽいし。

 騎士たちが2人を拘束する。


「おのれ大公! この恨みは忘れんぞ!」


 助祭が憤怒の表情で私を見た。

 だから怖くないってば。

 私は肩を竦めた。


「これは君らへの最後のチャンスだよ」私が言う。「己の行いを反省し、更生したまえ」


 私が指で指示をして、騎士たちが2人を連行する。

 1人になった私は、長い息を吐いた。

 更生せず復讐に来るなら、その時は殺そう。

 私はチャンスを与えた。

 大公になって、私はかなり丸くなったなぁ。



「わぁ、大艦隊だ! これが聖なる神の意図だというのか!」


 空中に浮かんだ映像を見ながら、アランが言った。

 ここは戦列艦『ネココ』の船室。

 ネココはローズ公国最初の戦列艦で、2層砲列甲板を備え、64門の大砲を装備している。

 乗組員は約300人。

 人員多すぎっ!

 まぁ、ローズ領で戦列艦を作った時も思ったけど、大砲要員が多すぎるんだよね。

 早く後装式の大砲を開発して貰わないとね。


「アラン、もしも神の意図なら、あたしたちは神を滅ぼしますよ?」


 ローレッタが真面目な表情で言った。

 この船室には私、ローレッタ、アランの3人だけだ。

 ちなみに空中の映像は、私が放ったドローンが映し出した映像。

 現在、ローズ公国の領海に神聖連邦の大艦隊が接近している。


「ローレッタ、怖いぞ」


 アランがちょっと引き気味で言った。


「ふん!」とローレッタ。


 開戦寸前で、ちょっと気が立ってるローレッタ可愛い。


「大艦隊と言ってもさ」私が言う。「大砲を装備した戦列艦はあまり多くないね」


 そう、まだ全ての国に大砲や銃が行き渡っているわけじゃない。


「でも海戦って……普通は移乗攻撃する……よな?」


 アランはやや自信なさげに言った。


「そうだよ。海兵がたくさん乗っていて、船と船をくっ付けて乗り込み、直接対決するのが主流だね。今はまだ」


 私が言った。

 まぁ、移乗攻撃なんてさせないけどね。

 ローズ艦隊はファイア&ムーブメント。

 あるいはヒット&アウェイ。

 ふふっ、艦隊って言っても2隻しか戦列艦ないけどね!

 ちなみにもう一隻の艦名は『イヌヌ』である!

 ネココもイヌヌも、両方とも私が考えた!

 もう次から考えないって決めた!


「お、新しく戦列艦が2隻、現れたぞ」とアラン。


「あれはローズ領の戦列艦だよ。今回合同で練度を高める予定なんだよね」


 ローズ領には戦列艦が3隻あるが、稼働しているのは2隻だけ。

 なぜって?

 人員の休暇をローテーションさせてるから。

 常に1隻は休暇なのだ。

 我が公国でも、ローズ領と同じように3隻の戦列艦を用意してローテーションさせる予定。


「さて、ではそろそろ」ローレッタが私を見る。「あたしが指揮を取り、ローズ海軍の練度向上を目的とした戦闘を開始します。行きましょうアラン」


「おう! オレも将来のために、海戦を学ぶ!」

「え? アランって将来、何になりたいの?」

「軍の司令官か勇者か魔王!」


 なんだその三択は。

 まぁでも、君は軍の司令官が向いてるよ。

 ゲーム本編では革命軍を率いているのだから。


「……魔王ってアスラですよ?」とローレッタ。

「やっぱり魔王は辞める」とアラン。

「勇者だとアスラを倒さないとね」と私。


「勇者も辞める!」


 すごい素直!

 可愛い!


「賢明な判断だね」私は肩を竦めた。「じゃあ、お手並み拝見といこう」


 私が言うと、ローレッタが強く頷き、アランを伴って船室を出た。

 私は見学。

 てゆーか、アランとローレッタってお似合いじゃない?

 美男美女だし。

 2人とも仲いいし。

 くぅぅぅぅ、羨ましい!

 どっちも羨ましい!

 ちなみにアランを迎えに行ったのは私!


 もちろん瞬間移動で。

 そしてハウザクト王国の人はアランがここにいると知らない。

 ジェイドとクラリスは知ってるけどね。

 一応、アランはジェイドと一緒にジェイドの部屋で遊んでいるという設定になっている。

 まぁそれはそれとして、戦況を眺めるとしよう。

 私はテーブルの上にコーヒーとクッキーを創造。

 それからドローン映像を少し大きくした。

 相手の艦隊から、大砲を装備した戦列艦が前に出る。


「ほう。大きいじゃないか」


 出てきた戦列艦は6隻で、そのうち4隻はうちと同じ64門艦。

 だけど残りの2隻は74門艦だった。

 現在の造船技術では、ほぼ限界の大きさ。

 我が国の造船技術をもっと向上させないとね!

 てゆーか、早く蒸気機関か魔力機関が欲しいなぁ。

 どこまで私が介入していいんだろう?

 1回、創造主様に会って話をしてみたいな。

 敵戦列艦隊が舷側を見せようと回頭。


 こちらの4隻も同じように舷側を見せるように移動。

 大砲は横にいっぱいあるからね。

 どちらの艦隊も単縦陣の隊形で動いている。

 ダブルローズ海軍はすでに合流済み。

 敵と味方の艦隊が併走するような形に。

 距離はまだ遠いけど、一応大砲の射程内。

 と、お互いに大砲が火を噴いた。

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