EX13 《月花》本土に到着


 空の旅、提供はゴジラッシュ。

 ゴジラッシュは思った以上に速度が出るみたい。

 チヌークより速いね。

 イーナの言葉は嘘じゃなかった。

 ゴーグル持って来てて良かった。

 ちなみに、人間が乗る用の鞍みたいなのは装備していない。

 だから私は落ちないよう必死で鱗を掴んでいる。

 グレーテルは慣れているのか、両手離しだけど安定して座っている。

 私は軍服ワンピースにゴーグルを装備して、戦闘背のうを背負っている。


「ミアちゃん、安定しないならお姉さんの膝に座ってもいいですわよ?」


 グレーテルがニッコニコの笑顔で言った。

 あれ?

 これ、座って欲しいのかな?

 私は微笑みを返し、グレーテルの膝の上に移動。

 そして戦闘背のうを身体の前で装備し直す。

 落ちそうで怖かったけど、なんとか移動できた。

 まぁ、落ちたところで私は【全能】だから平気なんだけどね。


「うーん、いい匂いですわね」


 グレーテルがガシッと私をホールドする。

 あ、安定してていいかも!


「ローズ領自慢の香水だよ。売ってあげるよ?」


 これまでのところ、ローズ領の香水は評判がいい。

 大抵、みんな私に寄ってきては良い匂いと褒めてくれる。


「あら? じゃあ、今度購入しようかしら」


 よし、世界中をバラの香りで満たしてやるぜ!

 というのは冗談。

 私はそこまで商魂逞しくない。

 私たちは少し雑談をしながら空の旅を楽しんだ。

 そして。


「ほら、今見えているのが《月花》の本土ですわ」


 グレーテルが地面を指さす。

 ちなみに《月花》は海外領土を1つ持っていて、いずれは全ての大陸に1つずつ海外領土を持ちたいらしい。

 普通なら、なんでそんなに飛び地ばっかり持ちたいの?

 って思うじゃん?

 でもね?

 傭兵国家にはその方が便利なんだよね。

 いつでも、どこでも、速やかに部隊を展開できるように、ってことだからね。

 アスラに領土欲なんかない。

 ただ迅速に戦闘に参加するのが好ましいってだけ。


「おや? あれは蓮華畑かな?」


 濃いピンクが一面に広がっている。

 近寄ると紫と白なんだよね、蓮華って。

 私は結構、好きな花。

 子供の頃、田んぼに蓮華が咲いてる時に、そこで転がって遊んでたなぁ。

 前世の話ね。


「田んぼですわ」

「そっか、田んぼかぁ」

「もうすぐ蓮華を処理して、色々やって、田植えですわ」

「なるほど……って、田んぼ!?」


 私は酷く驚いて顔を上げ、勢い余って後頭部をグレーテルの顎にぶつけた。

 グレーテルが涙目になっている。


「ご、ごめん。田んぼに驚いて……」

「団長様が昔、お米が食べたいって言ってお米村を作りましたのよ」

「お米あるんだね! いいなぁ! お米食べたいなぁ!」


 こっちに転生してから、私はお米を食べていない。


「ふふっ、団長様の言う通りですわね」

「何が?」

「ミアちゃんは蓮華に目が行く。そして田んぼだと知ったら驚いて、お米が食べたいと言い出すって」


 読まれてるぅ!

 私の行動全部読まれてるぅぅ!

 怖いっ!

 アスラ怖い!

 別に私が単純で分かり易いってわけじゃない。

 アスラが頭おかしいのだ。


「ですから、今日の昼食はおにぎりを用意していますわ」

「おにぎりっ!!」


 私の前世のソウルフード!!

 最高すぎる!

 私、《月花》に引っ越そうかな!


「夜はカレーですわ」

「カレー!!」


 自衛隊と言えばカレー!

 海自が有名だけど、陸自のカレーだって美味しかったよ!


「アスラに愛してるって言った方がいいかな?」

「きっと苦笑いしますわね」


 グレーテルが少し肩を竦めた。


「さてミアちゃん、あっちが軍港ですわ」


 ゴジラッシュが方向を変えて、海の方へと移動。


「艦隊……」


 私は息を呑んだ。

 そこには戦列艦がたくさん停泊していた。

 輸送艦らしき艦も見える。

 戦列艦には装甲が施されているので、世界より2歩ぐらい進んでいる。


「うちの自慢の海軍ですわ」グレーテルが誇らし気に言う。「なんせマルクス司令が海軍が好きで好きで」


「って、ちょっと待って、あれ空母!?」


 ひときわ大きな艦は甲板が広く、そこに小型のドラゴンが4匹鎮座している。

 さすがに全通甲板ではない。

 マストと帆がないと艦が進まないしね。


「そうですわよ。さすがミアちゃん。団長様と同じ世界の出身だから、説明しなくても理解してくれて助かりますわ」


 これ《月花》と戦争したら絶対に負けるね。

 少なくとも今は。

 100年で追い付いて、次の100年で追い越すぐらいの長期的な計画を立てないとやり合えない気がする。


「あ、ちなみにミアちゃん」グレーテルが言う。「うちが海軍に力を入れているからと言って、陸軍が弱いわけじゃありませんわよ?」


 ゴジラッシュが内陸の方へと移動。

 陸軍の駐屯地を空から眺めると、たぶん訓練してるんだろうな、って感じ。

 海軍と違って艦隊があるわけじゃないので、少し派手さに欠ける。


「あっちが陸軍ドラゴン空挺団」


 駐屯地の近くに、別の基地があって、そっちにはドラゴンの姿が見えた。

 うん、これは派手だね!

 やっぱうちもドラゴン空挺団取り入れようかなぁ?


「それじゃあ帝都に行きましょうか」


 ゴジラッシュはあっという間に帝都の上空へ。

 そこはかなり発展した街並みだった。

 ハウザクト王国の王都より栄えているように見える。

 人口もかなり多い。

 確か、《月花》は世界中から孤児を集めて訓練して国民にしていたはず。


 ルールは1つ、アスラ・リョナに逆らうな。

 それさえ守れば国民になれる。

 いや、もちろん細々とした法律もあるけどね!

 大まかには、アスラに従えばそれでいい。

 そう、アスラが好むのは『自分のために死ねる人間』ではなく!

 アスラの命令とあらば『アスラでさえも殺せる人間』が好きなのだ。


「この人たち、みんな戦えるの?」と私。


「まぁそれなりに、ですわね。職業軍人に比べたらさほど強くありませんわ」


 まぁそりゃそうか。


「思った以上に活気があるね」

「そうですわね。その辺りは、最初に国家の基盤を作った初代国家運営大臣と、当時は副大臣だったティナの手腕ですわね」


 今の国家運営大臣であるティナ・オータンは2代目だ。


「ちなみに団長様は、ああしろ、こうしろと国家の大枠を決めるだけで、基本は大臣に丸投げですわ」


 ですよねー!

 まぁ、アスラなら別に運営できなくはないと思うけど、致命的な問題があるんだよね。

 アスラは戦争を愛しすぎている。

 私よりも遙かに。


「さて、それじゃあ帝城にご案内ですわ」


 ゴジラッシュがお城の上空へと移動。

 お城もかなり大きい。

 何度も改修を重ねて、今の形になったと《月花》を取材した本に書いてあった。

 元々は滅びた国の古城だったそうだ。

 私たちは帝城のヘリポートならぬドラゴンポートに着陸。

 アスラと赤毛の女性が出迎えてくれた。

 私は立ち上がって戦闘背のうを背負い直してから、ゴジラッシュを降りる。

 そしてゴーグルを頭の方に持っていって、丁寧にスカートの裾を摘まんで挨拶。


「君はかなり令嬢っぽい動作を身に付けたみたいだね」


 アスラは和やかな雰囲気で言った。

 アスラの服装は、ナチスのSSみたいな黒い軍服に同じ色の軍帽。

 めちゃくちゃ似合ってる。


「《月花》へようこそ」赤毛の女性が言う。「国家運営大臣のティナ・オータンですわ」


 ティナは見た目20代の中頃ぐらい。

 可愛らしい顔立ち。

 髪の長さはセミロング。

 服装は白いスーツだけど、スカートがちょっと短い。

 あと、黒いストッキングがちょっとエロい。


「初めまして、わたくしはローズ公国の大公、ミア・ローズですわ」


 やったぜ、丁寧に挨拶できた!

 私も段々と、令嬢って言うか大公っぽくなってきたね。

 ふふっ、私にも威厳ってものが備わりつつあるようだよ。


「おっと、少し遅れてしまったね。ここからは僕がエスコートするよ」


 ラウノ・サクサがドラゴンポートに登場。

 薄い緑の髪がキラキラしている。

 パッと見ると優男風なのだけど、しっかり鍛えていることは前回抱き付いた時に確認済み。

 そしてその顔はまさにご尊顔と呼ぶに相応しい。

 ラウノを見た瞬間、私は駆け出していた。

 そして私はラウノに飛び付いた。


「お久しぶりでぇぇす! 塹壕戦がやってみたいミア・ローズでぇぇす! 一緒に掩体掘りませんかぁぁ!? どっちの掩体が快適か勝負しましょう!!」

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