Extra Story

EX12 訓練中毒者の増殖を確認


 こんにちは、ローレッタ・ローズ小公爵です。

 今日はお姉様がソワソワしています。

 理由は単純で、お姉様は今日、傭兵国家《月花》に視察に行きます。

 招待されたのがお姉様だけなので、あたしも他の誰も同行できません。

 ちなみに、今は4月の頭です。

 お姉様は9歳、あたしは8歳になりました。

 ローズ公国はすっかり安定したので、これから更なる改革を行ったり、新たな産業で盛り上げていきます。

 さてここはローズ公国、大公のお城、上位三名の共同執務室。


「ミア様、そろそろお時間です。屋上に出ましょうか」


 壁掛け時計を確認して、宰相のスヴェン・エーリクが言った。


「そうだね! 《月花》で色々と勉強してくるよ!」


 言葉とは裏腹に、お姉様のお顔は緩んでいます。

 分かり易い!

 はい分かり易い!

 どうせ、あの超絶イケメン、ラウノ・サクサに会えるかもとか考えているに違いありません。

 建国式の舞踏会で、アスラがパートナーとして連れてきた男性です。

 あまりにも容姿が良すぎて、あたしでさえもクラクラしたのは内緒。


 お姉様とスヴェンが席を立ったので、あたしも立ちます。

 お見送りというやつです。

 3人仲良く屋上へと移動。

 四月の空は突き抜けるように高く、そして青く澄んでいて。

 春風が柔らかく流れています。

 暖かさもあるけれど、涼しさも残っている、という感じ。

 さてこの大公城の屋上はすでに改修済みで、現在はヘリポートになっています。

 チヌークやその他、ヘリコプターを離発着させる場所です。


「あ、お姉様、あれですね」


 あたしの視線の先に、ゴジラッシュが見えました。

 ちなみに、国民にはドラゴンが飛ぶけど気にするなとお触れを出しているので問題ありません。


「ふふっ、誰がお迎えなのかな! 誰なのかな!」


 お姉様はルンルン気分です。

 どうかラウノさんじゃありませんように。

 そんなことを願っていると、ゴジラッシュがヘリポートに着陸。

 乗っていたのは女性でした。

 20代の中頃ぐらいの女性で、キノコみたいな髪型をしていますが、顔立ちは悪くありません。


 お姉様を見ると、あからさまに肩を落としていました。

 分かり易い!

 はい分かり易い!

 キノコヘアーの女性がゴジラッシュを降りて、笑顔を浮かべる。


「初めましてですわね」キノコヘアーの女性が言う。「わたしはグレーテル・ブリュームですわ」


「あ、えっと、わたくしはローズ公国大公、ミア・ローズですわ」


 キノコヘアー改めグレーテルが丁寧に言ったからか、お姉様も釣られて丁寧に挨拶。

 お姉様はあまり丁寧に喋るのが得意ではないので、珍しいです。


「小公爵のローレッタです」

「宰相のスヴェンです」


 あたしとスヴェンも一応、挨拶しておく。

 グレーテルはあたしたちにも笑顔を向けました。

 さて、グレーテルは背中に2本の剣を装備していて、黒いローブ姿です。

 ローブの中にも色々な装備があるに違いありません。


「それじゃあ、大公閣下、ゴジラッシュに乗りましょうか」

「実は乗ってみたかったんだよね!」


 グレーテルがエスコートしようと手を差し出す。

 お姉様はその手に気づかず、ノリノリでゴジラッシュに飛び乗りました。

 グレーテルは「あらあら」みたいな表情を浮かべてから、自分もゴジラッシュへ。

 うーん、あたしもドラゴンに乗ってみたいです。

 今度捕まえに行くのもありですね。


「じゃあねローレッタ、スヴェン! あとはヨロシクね!」


 お姉様が楽しそうに手を振って、ゴジラッシュがゆっくりと羽ばたく。

 ある程度の高度に到達してから、ゴジラッシュは力強く羽ばたいて、そのまま飛び去りました。


「ニーナ!」


 あたしが呼ぶと、専属護衛騎士のニーナが戦闘背のうを持って屋上に出てきました。

 あたしは戦闘背のうを受け取り、ゴーグルを取り出して装備。

 それから青ポをホルスターに装備。

 戦闘背のうは背負います。

 ちなみに、あたしの服装は軍服ワンピース。

 これが正装です。


「それでは宰相、あとをお願いしますね」

「はいローレッタ様。久々の帰郷、楽しんでくださいね」


 スヴェンが手を振って、ニーナも手を振る。

 あたしも手を振り返し、それから風の魔法で空へ。

 そしてローズ領の方へと飛びます。

 ゴーグルを装備して、更に速度を上げると、あっという間に海に出ました。

 あー、空を飛ぶのは気持ちいいですね!

 そう、あたしは自分で飛べます!

 でもドラゴンにも乗りたいっ!

 実は今回の帰郷、お姉様には内緒にしています。

 なぜかと言うと、超久しぶりに世界征服機構の集まりがあるから。



 あたしはローズ領の実家で一晩過ごし、翌日は中央のローズ家の屋敷へ移動。

 祖父母と昼食を済ませてから、ハウザクト城へ。

 ハンググライダーで中庭に着地すると、若い近衛兵が槍を向けてきました。

 無礼な人ですね!

 あたしはローズ公国の小公爵ですよ!?

 そう説明しようと思ったけれど、その前に他の近衛兵が「バカ、ローレッタ様だ」とあたしの身分を保証。


「この子があの噂の……」


 槍を下ろして、若い近衛兵が呟いた。

 どんな噂か気になるところですが、まぁいいでしょう。

 さて勝手知ったるハウザクト城。

 あたしはジェイドの部屋を目指してズンズン進みます。

 すれ違った侍女たちが、あたしを見て微笑み、そして挨拶してくれる。

 あたしも和やかに笑みを返す。


 そしてジェイドの部屋に到着すると、もう全員揃っていました。

 ノエル、レックス、ジィエド、アラン、クラリス。

 そしてあたしを入れて全部で6人。

 みんなそれぞれ、あたしに挨拶して、あたしも挨拶を返す。

 世間話を少しして分かったのですが、みんなは時々会っているようですね。

 まぁ、全員中央在住なので、会おうと思えば割と簡単に会えるわけですよ。

 距離的には、ね。


「そういえば、クラリス姫は今年から学園ですよね?」とあたし。

「ええ。もう入学式は済ませましたわ」


 ふむ。ではクラリスが卒業する3年の間に、ローズ公国に冒険者ギルドを誘致しなくてはいけませんね。

 クラリスのための拠点にするのです。

 もちろん、あたしの案ではなくお姉様の案。

 お姉様はちょっとクラリスに甘すぎますね。


「ふっふっふ、姉様が裏から学園を支配する日も近いっ!」

「しませんわよ!?」


 アランの発言に、クラリスがビックリして突っ込む。


「アランよ……」ジェイドが呆れ顔で言う。「俺様たちは王族だから、堂々と表から支配していいんだぞ?」


「いいわけありませんわよ!?」


 クラリスの突っ込みが冴えています。


「学園と言えば」ノエルが言う。「ローズ公国では総合アカデミーという専門的な学園を作ると聞きました」


「そうそう」レックスが言う。「騎士コースとかあるなら、俺も入学したいぞ!」


「ちょっとまだコースとかは決まってないですね。今年中には中身を詰めて、来年から建物の建設に入る予定です」


 土地もだいたい決まってます。

 ちなみに、ローズ公国では全ての土地は大公閣下の所有物です。

 まぁ他の国もそうですけど。

 よって、建てたい場所に何でも建てられます。

 もちろん、そこに誰か住んでいた場合は、新しい家を用意してあげますけど。


「なぁ、それよりローレッタ」ジェイドが言う。「せっかくローレッタがいるんだし、今日はみんなで訓練しないか?」


「いいなそれ!」レックスがノリノリで言う。「あ、いいっすね! 王子!」


「お前もう無理に敬語使わなくていいぞ」ジェイドが苦笑い。「少なくとも、俺様たちだけなら」


「僕も訓練したかったので、ちょうどいいです」


 ノエルも笑顔です。

 ああ、お姉様のせいで訓練中毒者が増殖しているようです。

 まぁ、かく言うあたしも、割と訓練好きなんですよね!

 よぉし!


「ではみんなで外に出ましょうか!」


 あたしもノリノリだった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る