Extra Story

EX08 悪役令嬢は食べ過ぎですっ!


 私はケーキを複製した。

 もちろん【全能】の魔法によるものだ。


「さすがお姉様! ケーキが増えましたね!」


 ローレッタが両手を叩いて喜びを表現した。

 ここはローズ領、ローズ家の屋敷、そのリビング。

 私が複製したケーキはおやつのケーキである。


「創造するよりも、複製する方が魔力の消費が低いんだよね」


 私はキリッとした表情で説明した。


「なるほど! ではお姉様、あたしのケーキも複製してください!」

「うむ。これからは毎日、私たちはケーキを倍の量、食べられ……」

「失礼します」


 セシリアがケーキを1つ、スッと取り上げた。


「食べ過ぎはダメですよー」


 フィリスがニコニコと笑いながら言った。

 セシリアは取り上げたケーキを侍女に渡す。

 侍女はケーキを持ってリビングを出た。

 きっと、私の見ていないところで食べるに違いない。

 ああ、私のケーキがっ!


「ふふっ、何度でも複製するさ!」


 私は【全能】を使ってケーキを連続で複製する。


「すごい! みるみるケーキが増えていますっ!」


 ローレッタは瞳をキラキラと輝かせて言った。


「侍女のみなさんで頂いてください」


 私が複製する側から、セシリアがケーキを取り上げて侍女に渡す。

 くっ、さすがセシリア。

 淀みない動作だね。


「デブになってもいいんですか?」


 酷く、そう、酷く冷めた声でフィリスが言った。

 私は複製の手を止める。


「ふっ、私がデブなはずがない! 毎日ハードに訓練してるからね!」


 言いながらも、少し不安なので自分の二の腕を摘まんでみる。

 柔らかい部分がある。

 そ、そんな……。

 無駄な脂肪が、付いているっ!?

 私はサッとローレッタを見る。

 ローレッタの頬が、以前より少し丸みを帯びている!?

 ローレッタも不安に思ったのか、自分のお腹をさすった。

 そして、酷く驚いたような表情を浮かべた。


「あ、あたしはしばらく、おやつを抜きますね?」


 ローレッタは自分の分のケーキを、ソッと手で押した。

 もちろんケーキそのものを押したのではなく、ケーキが載ったお皿を押したのだけど。


「私も、抜くことにするよ……」

「では、ミア様が複製したケーキは私たちで頂きますね」


 セシリアが嬉しそうに言った。

 ぐぬぬ。



 魔力が1000を超えましたっと。

 私ことミア・ローズ8歳の3月3日のことだった。

 ゲームでは999でカンストだったのだけど、現実では普通にそのまま増え続けた。

 カンストないのかな?

 だとしたら、【全能】最強過ぎてビビるね。

 まぁ、だからと言って、私だけ強くてもあんまり意味はない。


 私が冒険者とかなら、それでもいいのだけど、私は将来の領主様である。

 領地が強くなり、富まなければ意味がない。

 私を主軸に据えた戦略では、いつか破綻する。

 特に戦争では使えない。

 私が死んだらそこで全部が瓦解するような、そんな脆弱な強さは強さじゃない。


「参考にするべきは《月花》ですね、お姉様」


 ローレッタが言った。

 私たちは何度目かの『最強領地計画』の話し合いを行っていた。

 もちろん、我が家のリビングである。

 この話し合いを聞いているのは、私たちローズ姉妹以外だと側仕え2人。

 テーブルにはクッキーとお茶が用意されている。


「そう。《月花》はみんな強い。技術力もある。皇帝であり団長でもあるアスラが死んでも、連中は最強のままだよ」

「あたしたちが目指すのも、そこですね?」

「だね。領地そのものを強化する。だからまぁ、私の存在や魔法はあくまで補助であるべきなんだよね」

「そうですね。たとえば隣領と戦争したとして、お姉様がいれば当然勝てます。でもそれでは、あまり意味がない。あくまでローズ軍の勝利でなければ」


 ローレッタの言葉に、私は強く頷く。

 私は軍を再編するし、訓練計画も渡すし、新しい兵器の設計図だって売る。

 でも、実際に戦争するのは彼らであって領主予定の私ではない。

 てゆーか正直、私主体の戦争なんかアスラには通用しない。

 秒で私が殺されて終わりである。


「一旦、計画の進捗をまとめよう」


 言ってから、私は手元の資料を見る。

 前回の話し合いで決まったことや、各省庁の報告書など、色々な資料だ。


「はい。まず、海軍の許可が降りたので、最初の軍艦の起工式が3日後です。あたしもお姉様も海軍創設の立役者ですので、当然参加です」


 ちなみに海軍の人員は1000人までで、軍艦は4隻までという縛りがある。

 これはローズ領だけでなく、海に面した全ての領地で同じ。


「軍艦の名前を決めないとね」私はちょっとウキウキして言った。「命名のルールとかどうしよう?」


 ちなみに、造船所の設計から軍艦の設計まで全部、私と技師たちで行った。

 まぁ、【全能】使って私だけでやっても良かったんだけど、色々と意見を交わしながらローズ領の技術向上を狙ったんだよね。

 とにかく、この軍艦は私の子供みたいなもんなので、ウキウキするのも仕方ない。


 ちなみにガレオン船ってやつだね。

 砲門は全部で64門。

 乗員は約300名。

 全長36メートル、全幅12メートルの艦。

 さて、そんな小さな艦にどうして300人も必要なのか、って話だよね。

 300人もいたら海上自衛隊の最新イージス艦のまや型だって動かせる。


 砲門、つまりカノンを64門搭載するわけだけど、こいつが人員を要するのだ。

 なぜならこのカノン、火縄銃と同じく前装式なのだ。

 砲を艦内に収容しないと次弾装填ができない。

 難しいことは抜きにしよう。

 大きさによるけど、カノン1門につき最低4人は必要なのだ。

 当然、大きいカノンになるともっと増える。


 うちで作る艦だと、カノン関連だけで4人×64門で256人必要なのである。

 まぁ運用に慣れたら、カノン1門につき3人に減らせるかもしれない。

 普通の船員はどの程度必要なのか実際に運用しながら決めるので、約300人である。

 とりあえず、早く後装式のカノンが作れるようになりたいね。

 正確には、今の技術だと作れるけど信頼性が低くて使えない。


 領地の技術力を上げる必要がある。

 まぁ、とにかく私らは軍艦を作るのだ。

 まずは同じ型を2隻作る。

 そして実際に運用してみて、乗員たちの意見を取り入れ、改型を2隻作ってそれで全4隻とする予定。


「命名ルールですか? お姉様の思い付きでいいのでは? ぶっちゃけ、ほとんどお姉様の設計ですし」


 ローズ領にも造船技術はあるけれど、軍艦を作るのは当然、初めてである。

 よって、私の【全能】による意見がかなり重要だったのは言うまでもない。

 だけど改型の設計図を作る時、私は意見しないつもりである。


「ふぅむ。思い付きも悪くないよね。うん、最初の2隻は思い付きにしようかな!」

「それでいいと思います。さて次ですが、ローズ領兵団をローズ陸軍に改め、更に編成単位の見直しを行いました」


 これは、小隊の人数などを現代地球に合わせつつ、こっちの世界に最適化した感じ。

 今後も何度か変更するかも。


「現在、新編成単位での部隊の再編が行われています。時期は未定ですが、階級の見直しも行う予定です」


 階級はいずれ旧日本軍的なものに変更しようと思っている。

 今は兵、小隊副長、小隊長、中隊副長、中隊長みたいな感じで、役職がそのまま階級になっている。


「さて、1月に特務隊から格上げした軍務省情報局はどうかな?」

「資料の2枚目が報告書です」


 ローレッタの言葉で、資料を1枚横にズラす。

 ふむ。

 報告書によると、特に問題はないみたい。

 ちなみに情報局はスパイ組織だ。

 私が【全能】を使って局長や副局長など、要職に相応しい人物を割り振った。

 なのでまぁ、問題なんか起こらないとは思っていたけれど。


 情報局に与えた指令は2つ。

 まずはハウザクト王国の全ての領地に諜報網を築くこと。

 もう1つは、何か面白そうな話を聞いたら即時報告すること。

 それが噂の類いでもいい。


 私はとりあえず、クッキーに手を伸ばす。

 しかしそこにクッキーがない。

 あれ?

 なんでないの?

 私は伸ばした手のやり場がなくて、困惑する。


「ミア様、話しながら全部食べてしまいましたよ?」


 察したセシリアが言った。

 え?

 私、食べてた?

 マジで?


「いつもより、量を減らしてますからねぇ」とフィリス。


「なんで減らしたの!?」

「え? だってお嬢様たち、おやつは抜くんでしょ?」


 そうだったぁぁぁぁ!!

 普通に忘れてた!!

 ローレッタのクッキーに目をやると、全然減ってなかった。


「徐々に減らしていく方向で決めたでしょう?」セシリアが淡々と言う。「一気にナシはさすがに辛い、と」


 ああああああ!

 そんなこと、言ったけどぉぉぉ!!

 ぐぬぬ……。

 もう1枚ぐらいなら、いいでしょ?

 私は上目遣いでセシリアを見て、続いてフィリスを見た。

 セシリアは微笑んだけど、私の上目遣いをスルー。


「ミア様は食べ過ぎなので、おやつ抜くぐらいで、ちょうどいいですよ」


 フィリスが何度か頷きながら言った。


「お姉様、さすがにデブの令嬢はないです。我慢しましょう」

「……はい」

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