EX09 世界征服機構、始動
「くっくっく、諸君、よくぞ集まってくれた」
アラン王子が悪い笑顔で言いました。
ここはハウザクト王国の王城、ジェイドの私室。
僕はノエル・クリスタル。
8歳の男で、魔法士。
「これより、世界征服機構の第一回会議を始める」
なぜかアランがこの会合を仕切っています。
ちなみに、ジェイドの大きなベッドの上で、僕たちは円になっています。
参加しているのは僕、アランの他にローレッタ、レックス、ジェイド。
てゆーか、世界征服機構って何?
僕たち、ミア・ローズ隊の裏会議に参加してるんですよね?
アランを誘うという話は、ローレッタの手紙で知っていたのですけど、名称が世界征服機構に変更になったというのは初耳です。
「おいアラン、なぜにお前が仕切っているのだ? 俺様を差し置いて」
ジェイドが苦笑い。
しかしジェイドは弟に甘いのか、あまり強くは言わなかった。
「くっくっく、なぜなら兄様、このオレが、世界征服機構の名称を決めたからである」
うん、ですから、世界征服機構って何?
すごい物騒な名前ですけれども。
僕はとりあえずローレッタの方に視線を移した。
ローレッタはこの集まりの中では紅一点。
見た目もかなり可愛いです。
でーもー。
性格が苛烈なので僕は少し苦手。
てゆーか、みんな苦手意識を持っています。
アランはどうか分かりませんけれど。
「説明します」ローレッタが言う。「アラン王子を仲間に引き入れたのは周知のことですが、お姉様のための集まりだと話したところですね……」
「うむ。聖帝ミア・ローズに世界を献上する集まりだろう?」
キリッとした表情でアランが言った。
世界を献上?
何のことでしょう?
「そう思い込んだようでして」
ローレッタが苦笑い。
あのローレッタが、苦笑いでごまかした。
「つまり我々は、裏から世界征服を目論む秘密結社、というわけだ」
いや違うからアラン。
絶対に違う集まりですそれ。
ただ、突っ込みを入れにくい。
相手が王子様なので。
「……アラン、お前はそれでいいのか?」
ジェイドも苦笑い。
「もちろんだ兄様。秘密結社、世界征服。くっくっく、いい響きだ」
「俺たち、世界征服するのか?」
レックスがキョトンと首を傾げた。
「まぁ、する予定なのでこのまま話を進めましょう」とローレッタ。
えぇ!?
する予定なのですか!?
世界征服!?
「待て待てローレッタ」ジェイドが言う。「本気か?」
「あたしは元より、ローズ世界大帝国を築き上げて、世界征服を目指す方向で生きていますけど?」
「それどんな方向ですか!?」
僕は耐えられなくて、盛大に突っ込みを入れてしまった。
「修羅の道」アランが言う。「あるいは覇道! オレたちは血で血を洗い! 全てを征服し! そして聖帝様に全てを捧げるのだ! ふははははは! ふはははははは!」
物語に出てくる悪役ですかあなたはっ!
第二王子ですよね!?
「そうですアラン」ローレッタが頷く。「聖帝たるお姉様に全てを捧げるのですっ!」
「そのための、世界征服機構だっ!」
なんかローレッタとアランが2人の世界に入ったぁぁ!
仲いいですね!
付き合ってるんですか!?
もうお似合いですよ2人!
僕と同じことを思ったであろうレックスとジェイドが、僕と目を合わせて苦笑い。
まぁ、アランとローレッタが付き合ってくれたら、ライバルが2人減るので大歓迎なんですけどね、僕たち。
そう、この裏会議改め世界征服機構の本来の意義は別にある。
僕たちはみんな、ミアが大好きなのだ。
そして、抜け駆けをしないよう色々な取り決めを行うのがこの集まり。
ミアへの告白はミアが成人してから、というのが前回決定した事項である。
あと、絶対的優位に立っているクラリス姫への対抗も議題だ。
「まぁとにかく、世界征服の絵を描きましょうか」
あっれー?
ローレッタ、目的がズレてないですかね?
そう思った時だった。
ジェイドの部屋の入り口が勢いよく開かれた。
何事かと、僕たちは入り口に視線をやる。
そうすると、そこにクラリスが立っていた。
「アタクシを差し置いて、みんなで何を楽しそうな話をしていますの?」
クラリスは少し怒ったような口調で言った。
そして部屋に入り、ドアを閉める。
「あ、いや、姉上、これは、その……」
ジェイドの目が泳ぐ。
さすがに、あなたにミアを取られないよう対策立ててます、とは言えない。
あ、今回はなぜか世界征服の話しか、してませんけれど。
「あら? ミアはいませんのね」
みんなの顔を見回してから、クラリスが少し落胆した風に言った。
そう、クラリスはミア大好きなのだ。
そしてミアもクラリス大好き。
2人は仲良しだ。
クラリスには大人の魅力がある。
なんせ、もう11歳なのだから。
年齢二桁の魅力は半端じゃない。
僕ですら、ちょっと惚れそうになりますからね。
「ふっふっふ、姉様、オレたちはミアのために集まっているのです」
アランはなぜか、クラリスと話す時は少し丁寧に喋る。
「あら? ミアのためですの? 詳しく聞きたいですわ」
クラリスはズカズカとベッドに上がり、僕とレックスの間に座った。
さすが姫、堂々としている。
「姉様、オレたちは秘密結社を作ったのです」
いきなり秘密をバラす秘密結社!
ほうほう、と頷くクラリス。
「その名も! 世界征服機構!」
「……やたらと攻めた名前ですわね」
ですよね! そう思いますよね!
「オレたちは世界を征服し、聖帝たるミアに捧げるのです姉様!」
「えええええ!?」クラリスが酷く驚いた。「それ、ミア困るんじゃありませんの!?」
ですよね! 僕もそう思います!
僕の知る限り、ミアは世界が欲しいなんて言ったことはないです。
「今のお姉様にはまだ、世界帝王の自覚はありませんが」ローレッタが言う。「いずれ養われるかと」
世界帝王!?
てかその自覚って本当に養われるの!?
「世界帝王、あるいは聖帝ミア・ローズ」アランがうっとりした風に言う。「なんてカッコいいんだ」
あれこいつ、語感だけで喜んでるのでは?
「まぁ、俺はよく分からんが、ミアがカッコいいのは同意」
うんうんとレックスが頷いた。
まぁミアがカッコいいのは僕も同意なので、僕も頷いた。
そうすると、みんなが何度か頷く。
「それで、具体的には何しますの?」
クラリスが言うと、みんな沈黙した。
アランに視線を移すと、アランはローレッタを見ていた。
みんなの視線がローレッタに移動。
コホン、とローレッタが咳払い。
「具体的には何も」
「何も!! しないんかいっ!!」
僕は激しく突っ込みを入れた。
大きな声を出しすぎて、喉が張り裂けるかと思いましたね。
「まぁ、今後もみんなでお姉様を支えていく、ということで」
「それに異論はございませんわ」
「お姉様に愛の告白をする時は、お姉様が成人してから、ということで」
「分かりましたわ……って、愛の告白ですの!?」
クラリスは頭をハンマーで殴られたみたいな表情です。
「するならば、ということです」ローレッタが言う。「しなくても、別にいいです。世界征服機構に参加した以上、ルールは守ってもらいます」
「アタクシが、ミアと……」
クラリスは何かを想像し、そしてニヤニヤと頬を緩めた。
あ、これヤバいです。
今まで友情だと思っていた感情が、実はそれ以上だったと気付いたんじゃないでしょうか。
そんな気がします。
ローレッタも「しまった」という表情を浮かべています。
「考えたことも、ありませんでしたけれど、ふふっ……悪くありませんわね」
クラリス、目覚める。
とりあえず、僕、レックス、ジェイドはローレッタを睨んだ。
ローレッタは酷くバツが悪そうに作り笑いを浮かべた。
そんなわけで、ローレッタは最上級の敵を目覚めさせてしまったのでした。
唯一の救いは、アランのミアへの想いはまだ憧れとかカッコいいとか、そっち系だと分かったこと。
しかし、これもいつ恋心に変わることやら。
これ以上ライバルが増えないことを願うばかりです。
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