8話 世界は本当に広いってこと


「キング・ゴメスはオレちゃんの同期にして幼なじみなんだよなぁ」


 アーノルドがしみじみと言った。


「そしてあなたと同じ、レベル7の冒険者ね」


 魔女さんが補足した。

 冒険者のレベルは最大で10だ。

 でも10はグランドマスターのみで、9はギルドマスターのみ。

 なので、現役の普通の冒険者の最高レベルは8だ。

 現在レベル8は空席だが、魔獣ルーナリアンが最も近いと言われている。

 たぶん、氷の大陸発見の功績でレベル8に昇格するはず。

 まぁとにかく、実況のアーノルドも竜騎士キング・ゴメスも、冒険者としては最強の一角である。


 あれ?

 なんだろう、ゾクゾクしてきた。

 キングに視線をやると、目が合ったような気がした。

 キングはフルフェイスの黒い兜を被っているので、顔が分からない。

 体格がいいのと、動き方からたぶん男性。

 身体にも黒い鎧を装備していて、露出している部分はあまりない。

 手に持った槍は割と普通っぽい槍。

 木製の柄に、何かしら文字のようなものが描かれた穂先。

 見た目は普通だけど、レベル7の冒険者が持っているから、たぶん伝説の武具だね。

 用心しておこう。


「よぉし! そんじゃ3番グループの予選開始だぁ! ゴメス! ミアちゃんをいじめんなよ!」

「可愛い。ミアちゃん可愛い。連れて帰りたい。ふふふ」


 魔女さんの笑いが怪しかったけれど、私は無視した。

 試合開始の銅鑼が鳴り響く。

 さて誰と戦おうかな、と思っていると、みんな私をスルーして近くの相手と戦い始めた。

 ふっ、私を恐れているのかな?

 いや、もしそうなら、きっとみんなで私を襲うよね?

 まぁ、いいか。

 私は参加者たちの戦闘を眺めた。


 やはりキングが頭1つ抜けている。

 技の美しさはナヨリちゃんの方が上だけど、総合的には間違いなくキングの方が強い。

 まぁ、第1試合の時のナヨリちゃんが本気だったなら、という注釈は必要だけど。

 しばらく見ていると、やがてキング以外はみんな倒れてしまった。

 死者はなし。

 キングは槍の柄で相手を叩きのめしたが、穂先を突き刺したりはしなかった。

 壁際に配置された冒険者たちが、参加者の戦闘不能を確認。


「おおぉっと、早くもキングの勝利が確定かぁ!」


 そして冒険者たちは倒れた参加者たちを担いで控え室へと戻る。

 あるいは医務室かな?


「ミアちゃん、ケガをしたらわたしがね? ふふ、治してあげるわね? ふふ」


 魔女さんの発言が毎回怖いんだけど?

 キングが私を見る。


「なんでキングが勝つと思うのかなぁ?」


 ナヨリちゃんがいつの間にか実況席にいた。

 呼ばれたわけではなく、無理矢理アーノルドと魔女さんの間に入ったのだ。


「おっとナヨリちゃん、それはどういう意味だ?」


「あの子、ミアちゃん、ビビって動けなかったわけじゃないよ」ナヨリちゃんが言う。「誰も自分を狙わないから、じゃあそのまま最後の1人になるまで待ってあげよう、そいつが私への挑戦者だ、っていう超上から目線でジッとしてただけだよ」


 あは。

 情報屋って怖いなぁ。

 プロファイリングでもされたかな?


「幼女が、上から目線……いいわ……」


 魔女さんはブレない。

 それはそうと、キングは私を攻撃し辛い様子。

 やれやれ、仕方ないなぁ。

 私は踏み込み、一瞬でキングとの距離を詰める。

 兜の上からでも、キングの驚愕が伝わった。

 同時に、キングが後方に飛ぶ。

 私は追わなかった。

 今のは挨拶。

 客席がシンッと静まった。


「おいおい、マジかよ」アーノルドが言う。「クソ速いな。ナヨリちゃん並か?」


「バカ言うな」ナヨリちゃんがちょっとムッとした風に言う。「私よりは遅い。てゆーか、ミアちゃんの神髄は魔法にある。正直、キングの鎧をミアちゃんの拳で打ち抜くのは無理だろう?」


 その通り。

 さすがの私も、鎧を素手で殴ったりしない。

 それじゃあ、見せてあげようかねぇ、私の魔法を。

 私は20式小銃を仮創造。

 弾丸は通常の弾丸だ。

 ゴム弾だと、あの鎧は貫けない。

 大丈夫、足を狙ってあげるからね。


「ありゃ何だ?」とアーノルド。


「あれは鉄砲だよ。連発式のね。こっちの大陸じゃ、鉄砲はメジャーじゃないだろうけど、結構ヤバい武器だよ。あと10年もあれば、世界中に行き渡る」


 さすがナヨリちゃん。

 あと、みんなが鉄砲を装備したらローズ領の強みがなくなる。

 やはり技術革新と軍拡をガンガン進めなくちゃね。

 とりあえず、私は小銃を構え、キングの足を射撃。

 キングが飛び上がって躱す。


 銃口でキングを追うけど、躱されると流れ弾が客席に突っ込む。

 なので、私はキングの着地を待ってから再び射撃。

 キングが今度は横に飛んで躱す。

 フルオートで射撃しながら銃口でキングを追う。

 しかしキングの動きが速い。

 まーじーかー!

 レベル7の冒険者ともなると、みんなこのぐらいはできるの?

 私は発砲を止める。


「オレちゃんもな? 鉄砲は知ってんのよ? 冒険者だしな? でもな? なんだあの連発性能は……」

「20式小銃って名前だね。今のところ、ミアちゃんだけのオリジナル武器」


 なぜかナヨリちゃんが解説している。

 てか、小銃の名前まで知られてるんだけど!

 半端ない!

 ナヨリちゃんの情報収集能力、半端ない!

 よし、我がローズ領も諜報活動に力を入れよう!


 軍の再編が終わってからと思ってたけど、軍務省特務隊を軍務省情報局に格上げしよう。

 帰ったら速攻でやろう。

 積極的に外国の、特に違う大陸の情報も収集しなきゃ。

 まぁ、いきなりそんな巨大な諜報網は作れないので、徐々に拡大していく感じだけどさ。

 と、キングが初めて、私に対して槍を構えた。

 やる気になってくれたのかな?


「真に恐るべきは、あの連発性能の銃から逃げ切ったキングの機動力だね」


 ナヨリちゃんが我が物顔で解説している。


「そうね。重い鎧を装備してあれだものね」


 魔女さんもナヨリちゃんに同意。

 私は照準を足ではなく、キングの胴体に合わせた。

 そして引き金を絞る。

 フルオートでの射撃。

 キングはその場で槍をクルクルと回転させて、銃弾を弾いた。

 うっそだぁぁぁ!!

 何あの槍!

 柄は木製だよね!?

 いや、伝説の武具なら有り得るけど、それでもこっちは小銃だよ!?

 私は射撃を止める。

 ああ、硝煙の香りが心地良い。


「ミアちゃんが動揺してんな!」


 アーノルドが言った。

 ええ、動揺してますとも。

 硝煙クンカクンカして、精神を落ち着けているところ。


「ふぅん、さすがは伝説の武具グングニル。創世の世界樹、ユグドラシルの枝で作った柄だけあって、頑丈だね」


 ナヨリちゃんが興味深そうに言った。

 わぁ、やっぱ伝説の武具かぁ。

 まぁ、そうでないと小銃弾を叩き落とせるはずがない。

 こうなったら、殺傷覚悟で高性能機関砲使う?

 いや、オートで追尾させると客席に甚大な被害が出そうだし、ダメだよね。


「それもだけれど、あの速度で飛翔する弾丸を全て弾くなんてね。世界広しといえど、あれができるのは、キングを除けばわたし、ルーナリアン、調停者、それからアスラ・リョナぐらいかしら?」


 魔女さんの言葉で思い出す。

 あのイカレ傭兵のサルメですら、迎撃できたのは8割だ。

 あと、調停者って誰?

 今度また調べておかないと。


「いや、もっと知ってるよ、私は」


 ナヨリちゃんが得意気に言った。

 くっそぉ。

 こっちの世界では、小銃に勝てる奴が割といるってことかぁ。

 私も魔法使っていいなら躱せるけどね!

 それはそうと、キングは私を見ているだけで動かない。

 紳士か何かなのかな?


 ああ、でも。

 気に食わない。

 戦場において、戦闘において、見た目は関係ない。

 性別も年齢も関係ない。

 前世じゃ10歳の少女が爆弾抱えて突っ込んで来たことだってある。


「私は舐められるのが嫌いなんだよキング」私が言う。「反撃しないつもりなら、まぁそれでもいいけど。でも私は全力で君を叩きのめす。死んでも自己責任だよ」


 私の言葉に、客席がどよめく。


「あーあ、ミアちゃん怒っちゃったね」ナヨリちゃんが楽しそうに言う。「まぁ、私でも怒る。だってキング、反撃しないんだもん。舐めてるとしか思えない。戦場において、戦闘において、見た目は関係ない。敵は敵だよ」


 ふむ。

 どうやら、私とナヨリちゃんは解り合えそう!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る