Extra Story
EX04 子供たちの思惑
「それでは第1回、ミア・ローズ隊の裏会議を開催します」
ローレッタが淡々とした口調で言った。
ここは俺様、ジェイド・リデル・ハウザクトの私室だ。
「ローレッタ、議題はやっぱり、ミアのことですよね?」
魔法士であるノエル・クリスタルが言った。
ノエルは男にしては綺麗な顔立ちをしている。
まぁ俺様ほどではないが。
「我々が協力しなければ、太刀打ちできない難敵が現れました」
ローレッタは真剣な表情で言った。
今更ながら、ローレッタってめちゃくちゃ可愛いな。
うむ。ビックリするほど可愛い。
だが、なぜか俺様に当たりが強いので、少し苦手だったりする。
ちなみに、俺様たちは俺様のベッドの上に集まっている。
俺様、ローレッタ、ノエル、レックスの4人だ。
「クラリス姫、だな?」
騎士の息子であるレックスが神妙な表情で言った。
平民であるレックスが俺様の部屋にいるのは、すごく妙な気分だ。
俺様はハウザクト王国の第一王子だからな。
しかし、同じミア・ローズ隊の所属なので、特に文句はない。
「その通りです」ローレッタが深く頷く。「お姉様は綺麗目な殿方に弱かったのですが、どうやら綺麗目な令嬢にも弱いようです」
「それはローレッタにとっては、いいことだろう?」
俺様がポツリと言った。
ここに集まっている4人は、みんなミアのことがアレなのだ。
そう、ローレッタもアレなのだ。
「バカなことを」
ローレッタがやれやれと首を振った。
その仕草は、その口調は、本気で俺様をバカにしている様子。
俺様たまに思うんだけど、ローレッタって不敬罪を知らないのか?
「警戒すべき対象が、純粋に二倍に増えたと、なぜ分からないのですか?」
「な、なるほど」
俺様は納得した。
「クラリス姫の魅力は、僕でさえクラクラするレベルですからね。あれが大人の魅力、というやつですね」
ノエルは至極真面目に言った。
「気持ちは分かる。弟の俺様でも、姉上の美しさに息を呑むことがある」
「姉弟で何を言っているのですか?」
ローレッタが目を細めた。
いや、お前にだけは言われたくないっ!!
ミアとお前は姉妹だろうが!!
「その点、俺はミア一筋」レックスが勝ち誇った風に言う。「将来は腹筋だって割れる」
「ぼ、僕だって割るし! 割りますし!」
「俺様だって割る!! バッキバッキに割るぞ!!」
「落ち着いてください」ローレッタが言う。「お姉様は、面食いです。腹筋の割れ具合はそこまで重要ではないでしょう」
「そっか。腹筋ダメか……」
レックスがしゅんとする。
くそ、こいつあざといな。
このあざとさが、ミアに受けるのか?
「ダメではないですが、お姉様の評価基準は第一に顔でしょう。第二に戦闘能力。第三は特にないですね。顔が良くて強ければ、あとはなんでも良さそうです」
「なんて大雑把な好み……」
ノエルが苦笑いした。
だがまぁ、分かりやすくて良い。
ここにいる4人は全員、顔は問題ない。
まぁ、俺様が1番であることは疑いようのない事実だが、他の3人もかなり整っている。
「もしクラリス姫が、今の顔に戦闘能力まで得てしまったら?」とローレッタ。
俺様たちは戦慄した。
勝ち目が、ないっ!?
姉上の美貌に、更に高い戦闘能力だと!?
ローレッタが大きく頷く。
「あたしたちは、敵対している場合ではないのです。分かるでしょう?」
今度は俺様たちが大きく頷いた。
なぜ姉上はあれほどまでの美女に生まれてしまったのだ!
もっと控え目な顔面でも良かったはずだ!
「でもローレッタ」ノエルが言う。「具体的に、僕たちはどう協力するのです? クラリス姫の訓練を邪魔するわけにも、いかないですし」
「まず第一に」ローレッタが指を1本立てる。「足の引っ張り合いの禁止」
なるほど。それは良い考えだ。
「第二に」ローレッタが指を2本立てる。「情報の共有」
それもいいことだ。
むしろ、俺様たちの恩恵が大きいな。
ローレッタは損しかしないのでは?
はっ!?
まさか、情報を取捨選択し、都合のいい情報だけを俺様たちに回すつもりか!?
ローレッタなら、その程度のことはやってのける。
いや待て俺様。
それはローレッタを甘く見過ぎだ。
ローレッタならば、偽情報すら流すだろう。
そして俺様たちが騙されたら「情報戦です」と平気な顔で言うに違いない。
これは警戒が必要だ。
「第三に」ローレッタが言う。「抜け駆けの禁止」
ぐぬ。
俺様は確かに(あたし以外)という心の声を聴いた気がする。
「抜け駆け禁止って、つまり?」とレックス。
「愛の告白は、お姉様が成人してからという取り決めをしてはどうかと思っています。それまであたしたちは自分を、自分の戦闘能力を磨くのです」
悪くないな。
みんなが守るなら。
今の俺様はそれほど強くない。
だが、ミアが成人するまで時間があるなら、この中で1番強くなることも可能だ。
俺様は賛成であることを告げた。
レックスとノエルも特に異論はないようだ。
「では、そろそろあたしは屋敷に戻ります。1人で空挺訓練がしたいと言って、お姉様と別行動しているので」
ローレッタは今日も空から登城した。
なんだよ空から登城って。
空に舞い上がったのはローレッタの魔法だが、ここまで来るのは道具を使ったらしい。
ローズ領の職人に作ってもらった、ハンググライダーという滑空道具だとローレッタが言っていた。
俺様たちはローレッタの呼びかけで、この裏会議を開いた。
もちろん、ミアと姉上には内緒だ。
隣国の陰謀を暴いて、ミアが褒美を貰ってからすでに30日が経過している。
ローズ姉妹が中央に遊びに来るタイミングで、色々と調整したのだ。
まぁそれはそれとして。
「待てローレッタ。1つだけ懸念事項がある」
「なんですか?」
「ミアは顔のいい奴が好きなんだろう?」
「はい。お姉様はまごうことなき面食いです」
「だとしたら、俺様の弟がヤバい」
俺様の言葉で、3人は言葉を失った。
そう、俺様の弟は国中に噂されるほど顔がいいのだ。
やや悔しいが、俺様よりも少しだけ、そう、少しだけ、整っている。
「絶対に、会わせてはダメですっ!」
ローレッタが鋭い声で言った。
「僕も賛成です」ノエルが言う。「アラン第二王子殿下は、見る者全てを虜にすると言われるほどの超絶イケメンっ! 最悪、クラリス姫よりも恐ろしい敵になります!」
「噂は聞いたことあったけど、そんなになのか……」
レックスは驚愕した風に言った。
「アレは天使だ」俺様が言う。「あまりにも可愛すぎて、ついつい頭を撫でて甘やかしたくなる。ミアに見つかったら、むしろアランが連れ去られるんじゃないか?」
最後の言葉は冗談だ。
いくらミアでも、王子を拉致したりしないはず。
「有り得ます」とローレッタ。
有り得るのかよ。
え?
なんでそんな自信満々なんだローレッタ。
まるですでに拉致したことがあるかのような、事実に裏打ちされたかのような凄まじい自信を感じるっ!
「いくらミアでも、そこまでは……」とレックス。
「いえ、お姉様ならやります」
ローレッタはキリッとした表情で言った。
キリッとすんな!
「アラン王子が噂通りなら、お姉様は間違いなく暴走するでしょう」
「ミアなら、はい、するかもですね……」
最初に肯定したのはノエル。
「とにかく、会わせなければいいと思う」
レックスが強く言った。
「その通りです。その辺りも、しっかり注意しましょう。なるべく登城しない方向がいいですね」
「ああ」俺様が頷く。「どうしても登城する場合は、俺様がアランの予定を把握して、会わない立ち回りを考える」
こうして、俺様たちは無事、
第1回、ミア・ローズ隊の裏会議を終えた。
実りがあったのか、なかったのか、正直よく分からん。
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