14話 王様とおしゃべり


 私とローレッタはハウザクト王と面会することになった。

 謁見の間の赤い絨毯の上を、私とローレッタが進む。

 玉座から少し離れた位置で、私たちは両手を広げた。

 武器を持っていないよ、という作法。

 それから片膝を突いて視線を絨毯に。

 王が「面を上げてよい」と言ったので、私たちは王の方を見る。

 これも作法だ。

 面会が決まった時に、徹底的に仕込まれた。

 私たちを指導したのは祖父母と、なぜかバーソロミューだった。

 まぁ、バーソロミューは監督役って感じだったけれど。


「この度はご苦労だった」と王。


 王はまだ若く、30歳に届いていない。

 髪の毛は茶色なので、ジェイドとはあまり似ていない。

 ちなみに王道ルートの第二王子は黒髪なので、やっぱり似ていない。

 王と1番似ているのはクラリスかな。

 まぁ、それはそれとして。

 未来で暗殺してごめんね!

 とりあえず心の中で謝っておく。

 まぁ、やったのはあくまでゲームの私であって、今の私ではないけれど。


「そなたらの活躍で、隣国の恐るべき計画が表に出てきた」


 クラリス暗殺のことだ。

 第一王子が全部吐いた。

 数日前に、彼は正式に王城に謝罪に行った。

 もちろん、そうするように拷も……指導したのはローレッタだ。


「隣国は正式に、我が国に謝罪し、領地を1つ、我が国に譲ることで決着となった」


 マジか。

 領地が増えたのかよ。

 でも隣国って海を隔ててるんだよね。

 ちなみに隣国も島国で、うちの国の東にある。

 大きさや形は、現代地球だとイタリアが近い。

 まぁ隣国はブーツの先っぽが少し離れているけれど。

 あ、その離れた島を貰ったのかな?

 あの大ききなら公爵領だね。


「更に、第一王子は本国に見捨てられ、我が国で罪を償うこととなった。それに伴い、隣国の第一王子派は粛正されたようだ」


 ふむ。

 隣国は今、かなり国力を落としているようだね。

 これ、盗れるんじゃね?

 まぁ、領地を貰って解決済みになっているから動かないだろうけど。

 公爵領を1つ譲るって、割と大変なことだからね。

 隣国はかなりの誠意を見せたことになる。


「ともかく、ジェイドとクラリスがそなたらに褒美を渡すよう、強く強く進言してきた」


 言いながら、王はチラッと近くに立っている宰相に視線を移した。

 宰相の背後には、宰相の補佐官2人が控えている。

 1人はうちの祖父だね。

 ちなみに宰相は元王公爵。

 今は王公爵の座は譲っているので、準男爵だ。


「あの2人はヤンチャではあるが、ここまで切実に何かを訴えたのは初めてだ」


 王は少し嬉しそうだった。


「何か欲しい物はあるか、ミア・ローズ、及びローレッタ・ローズ」


 ふむ。

 国をくれ、って言ったら怒るかな?


「なんなら」王が言う。「ミアをジェイドの、ローレッタをアランの婚約者にしてもよいぞ?」


 アランというのは、第二王子の名前。


「えっと、逆がいいですっ!」


 私は思わずそう言ってしまった。

 だってアランは王道ルートだしっ!

 いや、1番好きなのはノエルルートだったけどさ!


「逆というのは……」


「はい我が王」ローレッタが言う。「お姉様が嫁ぐのではなく、お姉様の婿になら、考えてもいいという意味です」


 え?

 違うよローレッタ?

 そうじゃないよぉぉぉ!

 普通に逆って意味!!

 私がアランとって意味!!


「ふむ。将来はローズ公爵を継ぐ、という話は事実ということか?」

「はい我が王。お姉様は領主となりますので、王族に嫁ぐことはできません」


 ローレッタはキリッとした表情で言い切った。

 ああんっ!

 アランと顔合わせぐらいはしてもいいんだよ!?


「そうか、ではそなたは?」

「はい我が王。あたくしはお姉様と添い遂げる所存でございます」


 ローレッタ、言葉の使い方ちょっと間違ってるよ?

 添い遂げるだと、結婚してずっと一緒にいるみたいな意味になるよ?

 ローレッタの間違いに気付いた王が、少し笑った。

 まぁローレッタは可愛いし、ちょっと間違ったぐらいじゃ誰も気にしない。


「そうかそうか。そなたは姉を支えるか。実に美しい姉妹愛。いいだろう。他に欲しい物はあるか?」


 隣の領地、って言ったら怒るかな?

 新しく手に入れた領地、って言っても怒るよね?


「それはお姉様の方から」


 ローレッタが私に丸投げした。

 ああんっ!

 何を欲しがっても王が怒りそうなんだよね!

 普通に金銭にしようかな!

 レコに金貨10枚渡しちゃったし。


「えっと、じゃあ金貨を……」


「待て」王が言う。「金貨に関しては、ドラゴンを追い返した功績で30枚ほど出す予定だが?」


 んん?

 ドラゴンを追い返した覚えがないんだけど?

 ゴジラッシュのこと?

 まぁ、あの日は王都民がパニックになってたから、変に伝わった可能性はある。

 よし、そのままにしておこう。

 金貨30枚ゲット!

 じゃあ、暗殺事件解決の報酬は何を貰おうかな?

 私は少し考えて、そして閃いた。


「あ、そうだ我が王。クラリスをください」


 謁見の間に衝撃が走った。


「そ、そんな……。真に気を付けるは、ジェイドではなくクラリス姫でしたかっ……」


 ローレッタが小声でブツブツと何か言った。

 内容は聞こえなかった。


「そ、それは、どういう意味で?」


 王は酷く困惑している。


「姫は冒険者になることが夢ですわ」私は丁寧に言う。「わたくしは、その夢を応援したいのです。王族というしがらみから、彼女を解放して欲しいという意味ですわ」


「いや、いくらなんでも、それは……」王が唸る。「いや、そなたがクラリスを大切に想ってくれている、というのは伝わったが……。今後もクラリスのいい友人でいて欲しいと願うが、しかし、姫というのは……」


 他国に嫁ぐことに意味がある。

 まぁ、場合によっては国内の領地ということも有り得るけど。


「では20歳まで」私が言う。「クラリスに自由を与えてください。一度も冒険に出ないまま、政略結婚の道具にされるなんて、わたくしは納得できません」


「しかし、命を落としたらどうする? 冒険は危険だ。それに余はクラリスが冒険者になりたいなど初耳だ」

「では本人に聞けばいいでしょう。クラリスは見た目以上に大人ですわ。国のために、自分の想いを完全に殺していました。でも、わたくしにはその姿が痛々しく映りましたわ」


 冒険したいなら、すればいいのだ。

 私も1回は一緒に行く。

 姫の命令だから、って言えばきっとセシリアたちも渋々納得する。

 ふへへ。

 私は将来領主になるけど、その前に1回ぐらい冒険してもいいと思う。


「……念のために確認するが、本当に、それが褒美でいいのか? そなたに何のメリットがある?」


 メリット?

 姫と一緒ならレンジャー訓練ができるっ!

 うちの側仕えたちを説得できるっ!

 ってことだけど?


「メリットがなければ、友人の未来を想ってはいけませんの?」


 私はごまかした。

 だって、レンジャー訓練したいからでぇす!

 って言っても理解されない可能性がある。


「ああ、お姉様、素敵ですぅ」


 ローレッタがうっとりした風に言った。


「あ、冒険者になるための訓練は、わたくしも一緒にやりますわ。ですので、クラリスがそういう時間を取ることも、褒美として頂ければ幸いですわ」


 私は公爵令嬢スマイルを浮かべた。


「……そうか。クラリスはいい友を持ったな」王が長い息を吐いた。「分かった。成人である15歳から20歳までの5年間限定で良ければ、クラリスの冒険を許そう。ただし、それまでに必要な技能をしっかりと身に付けていることが条件だ」


 やったぜ!

 これでレンジャー訓練確定っ!

 必要な技能だからね!

 素晴らしい成果を得たね!

 王都に来て良かった!


 その日からしばらくの間、私の愛称が『爆発娘』から『慈愛のミア・ローズ』に変わった。

 他にも『真なる友人ミア・ローズ』とか、いい感じの愛称が増えた。

 まぁ、少しの期間だったけれど。

 結局は爆発娘とかクレイジーミアとか、元の愛称に戻るのだった。


 それから、クラリスがやたらと私に「大好き」的な手紙を送ってくるようになった。

 ふふっ、冒険者になれるのがよっぽど嬉しいみたい!

 ローレッタは、


「クラリス姫が、その気に……、まずいです。要注意ですっ、姫はもう10歳、大人の魅力でお姉様に迫るかも……」


 とかブツブツ言っていたけれど、後半はよく聞こえなかった。

 まぁ、今のクラリスの実力では色々まずいし要注意だろう。

 よぉし!

 サバイバル訓練でみっちり鍛えてあげるからね!

 

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