EX03 ローレッタの見ている夢(将来の)
ついにこの時がやってきました。
そう、あたしとお姉様が待ち望んだ日。
戦闘服を注文する日です。
ここはあたしたちのお屋敷の応接室。
あたしとお姉様の対面に、仕立て屋の女性が2人座っています。
外出禁止期間が終わったので、あたしたちは街に戦闘服を買いに行く予定でした。
ですけれど。
なんと!
公爵令嬢は店に行かなくても、店の方が来るみたいです!
ビックリですね!
お姉様もビックリしたようで、「え? だったら外出禁止関係なかったじゃん! 言ってよセシリア!」と叫んでいました。
確かに、店の方から来るなら、もっと早く注文できましたね。
「さてお嬢様方」仕立て屋の女性が言う。「今日は特別な服を仕立てて欲しいとか」
「年齢的に」もう1人の女性が言う。「お茶会デビューのためのドレスでしょうか?」
最初に喋った方が30代前半、次に喋った方は20代の半ばでしょうか。
可もなく不可もない顔立ちです。
体格も一般的。
特に鍛えてはいないようですね。
戦闘に発展したら、きっと10秒で制圧可能です!
「いや、ドレスじゃなくて戦闘服」
言いながら、お姉様が5枚の紙をテーブルに置きました。
5枚全てに、必要な装備がそれぞれデザインされています。
2人の仕立て屋は、その5枚を順番に手に取りました。
そしてジックリと見ています。
「ずいぶんとカラフルですが、あまり可愛くはないかと思いますが……」30代の仕立て屋が言う。「本当にこれでよろしいので?」
「もちろんだとも!」お姉様が元気に言う。「今、君が持っているのが迷彩服3型と呼ばれる物だよ!」
「ミア様?」
セシリアが薄い笑みを浮かべながら低い声でお姉様を呼びました。
お姉様がビクッとしてから、咳払い。
「こちらは黒一色ですが……」
20代の仕立て屋が、持っていた紙をテーブルに置きながら言う。
「そちらは」お姉様が丁寧な口調と緩やかな動作で、テーブルの上の紙を指さす。「インナーですわ。戦闘服の下に着るものでございます」
5枚のデザインの内訳は、上衣、ズボン、インナー、ベルト&戦闘靴、そして最後に88式鉄帽2型です。
最後の鉄帽は、本当の鉄で作らなくてもいいそうです。
頑丈な繊維ならオッケーだとか。
「あー、確認ですが、こちらは、誰が着用するのでしょうか……?」
30代の仕立て屋が、困惑した風に言いました。
「あたくしと、お姉様です」
あたしが言うと、仕立て屋2人が目を丸くしました。
そしてあたしとお姉様を順番に見て。
「戦闘服、というのは……その、勝負服的な意味ですかね?」
「ある意味ではそうですわ」
お姉様が優雅に答えました。
お姉様の声って、うっとりするほど素敵なんです。
「わ、分かりました。それでは、採寸させて頂きますね?」
30代の仕立て屋が言って、仕立て2人が立ち上がる。
あたしとお姉様も立ち上がり、広い空間に移動。
そこで、侍女たちと仕立て屋があたしとお姉様の寸法を測りました。
「3着ずつ頼むよ……じゃなかった、お願いしますわ」
お姉様はまだ貴族言葉に慣れていない様子。
お姉様は強くてかっこよくて優しくて美しくて、本当に素晴らしいお姉様なのだけど、2つだけ欠点があります。
1つはお嬢様らしい振る舞いがとっても苦手なこと。
そしてもう1つは。
「ふふっ、中央に遊びに行くまでに仕立てて欲しいな! ですわ! えっと、ふふっ、ノエルとレックスに見せるんだぁ……ふへへ」
ちょっと綺麗目な殿方にとっても弱いこと。
そう、お姉様は殿方に弱いのです!
まったく、これでは将来が心配です。
今だって、ノエルとレックスを思い浮かべて顔がフニャンってなってます!
あたしはソッとお姉様のお尻に手を伸ばし、ギュッと抓ります。
別にお姉様のお尻が大好きなわけではありません。
緩んだお顔を引き締めて差し上げているだけです。
実はお姉様のお尻は大好きですけど。
でも引き締めてもいるのです。
一石二鳥というものですね。
お姉様は声を上げそうになったけれど、ちゃんと我慢しました。
偉いです。
さすがお姉様。
お顔もすぐに、キリッとしたものに戻りました。
「あの2人はきっと羨ましがるだろうね」お姉様が言う。「なんなら、あの2人の分も作ってあげようかな?」
「それは優しすぎますお姉様」
そんなことをしたら、あの2人がますますお姉様大好きになってしまいます。
さて、中央に行ったら、とりあえずノエルとレックスに警告しなくては。
まぁ、ノエルには以前にもしましたけれど。
何度でも警告しておいて損はありません。
お姉様に相応しいのは、あたしです。
ノエルもレックスも、何気にお姉様に気があります。
恋愛的な意味で。
まったくけしからんです。
せめて腕立てを「やれ」と言われてから「やめろ」と言われるまで、休まずできるようになってから出直して欲しいですね。
「そうかな? でも部下だし、作ってあげてもいいような?」
お姉様の言葉に、あたしは溜息を吐きました。
「では、何か課題を課して、それをクリアしたら作ってあげる、というのはどうでしょうか?」
「いいね! 課題を考えておかなくちゃね」
お姉様はとっても楽しそう。
ああ、それはそうと、レックスがちょっと羨ましいですね。
お姉様がカッコよく海賊たちを皆殺しにする瞬間に立ち会えたのですから。
超カッコいい20式小銃を実戦で使うところ、あたしも見たかったです。
思い出してムッとしたので、もう一回お姉様のお尻を抓っておきました。
あは。
鍛えられたいいお尻です。
何度でも抓りたいですね!
お姉様はなぜ抓られたのか分からず、顔に『?』マークが浮かんでいました。
私が微笑むと、お姉様も曖昧に微笑みました。
だいたいの場合、微笑めばお姉様は許してくれます。
そんなこんなで採寸が終わりました。
お姉様と仕立て屋たちが、細かくデザインや素材の話を詰めます。
あたしは凜々しいお姉様の横顔を眺めていました。
ほぅ……。
お姉様、今日もやっぱり素敵です。
両親を亡くし、ローズ家に引き取られたあたしは、本当に心細かったのです。
色々と怖かったし、悲しみも残っていました。
ですけれど、明るくて楽しいお姉様が、全部吹き飛ばしてくれました。
その上、あたしを強くしてくれて。
いつも一緒にいてくれて、頭を撫でてくれて。
たくさんの愛情を注いでくれました。
今、あたしは幸せです。
「それでは、よろしくお願いいたしますわ」
お姉様がそう挨拶して、仕立て屋2人を見送った。
どうやら、ギリギリで中央に行く日までに1着目が間に合うようです。
2着目、3着目は、追々という感じで。
「さてローレッタ、それじゃあ今日の訓練を始めようか!」
「はいお姉様!」
あたしたちは、ルンルン気分で外に出ようとしたのですが。
セシリアとフィリスに止められました。
「安い服に着替えてからです」
セシリアが淡々と言いました。
セシリアは最近、あたしたちの訓練は止めません。
お屋敷の中でなら、割と何でも許してくれます。
まぁその代わり、一般教養のお勉強もキッチリやっていますけど。
セシリアが先生代わりなのです。
学園に通うまでは、自宅で学習するのが一般的です。
これは貴族も平民も同じ。
あたしたちは侍女に手伝ってもらいながら、庶民の服に着替えました。
正直、自分で着替えられるのですが、まぁ侍女の仕事を取るわけにもいきません。
「さてローレッタ、今日は一通り身体を動かしたら、60mm迫撃砲について教えるよ。明日は実際に、広っぱで撃ってみよう」
「はくげきほう?」
初めて聞く言葉です。
きっと、お姉様考案の新しい武器でしょう。
「携行性の高い小さい迫撃砲さ! きっと楽しいよ!」
「楽しみです!」
お姉様が楽しいと言えば、だいたい楽しいです。
それにしても、次々と新しい武器を考案するお姉様は本当に天才だと思います。
きっとお姉様と一緒なら、ローズ領を最強にできます。
お姉様と一緒に世界征服するのが、今のあたしの夢です!
そう!
ローズ世界大帝国の建国!!
もちろん皇帝はお姉様で!!
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