EX02 思った以上にファンタジー


 紙の香りとインクの香りが漂っている。

 ここは領立図書館。

 私とローレッタは外出禁止期間が終わって、最初にここを訪れた。


「利用客がいませんね」


 ローレッタが言った。


「お嬢様たちが利用すると、先触れを出しておきましたので」

 

 セシリアが淡々と言った。

 図書館内にいるのは、私、ローレッタ、セシリア、フィリス、そして護衛騎士2人。

 あとは司書たち。


「別に気にせず利用していいのに」と私。

「そういうわけには参りません」とセシリア。


 要するに、今日の午前中は図書館が貸し切り状態なのだ。

 公爵令嬢がお出かけすると、こんな感じで大げさになる。

 どこの領地でも同じらしい。


「久しぶりの外なので、嬉しいですね」


 ローレッタはウキウキした様子だ。

 今日、起きてからずっとウキウキしている。

 可愛い。

 はい可愛い!

 ちなみに、年が変わったので私は7歳、ローレッタは6歳になった。

 私たちは図書館内を歩き回り、必要な本を指さす。

 そうすると、セシリアかフィリスが取ってくれる。

 10冊ぐらい集まった時点で、私たちはテーブル席へと移動。

 座り心地のいいソファに腰を下ろし、私とローレッタは本を読み漁る。

 ちなみに、私とローレッタは同じソファに一緒に座っている。

 セシリアは側に立っていて、フィリスがお茶を用意すると言って司書に声をかけていた。

 護衛騎士たちは私の背後に立っている。


「見てくださいお姉様、妖精界なる場所があるそうですよ」


 ローレッタが読んでいるのは、『世界の不思議な場所100選』というタイトルの本。


「ほう。妖精がいるんだね、この世界」


 ゲームには出なかった。

 魔物がいるのは知ってたけど、なるほど、妖精もいるわけか。


「生命の木と呼ばれるすごく大きな木がランドマークだそうです」


 ローレッタの本には説明文とイラストも添えてあった。

 めっちゃファンタジーじゃん!

 いや、ファンタジー世界って設定だったけどさ!

 ゲームに直接出てないんだもん!


「おっと……こいつは……」


 私は本を捲る手を止めた。


「何かありましたか?」

「うん。見てローレッタ」


 私が読んでいるのは『世界の偉人と奇人』というタイトル。


「アスラ・リョナ……ですか?」

「そう。傭兵国家《月花》の創始者で、存命」


 それにしても酷いファミリーネームだ。

 いや、こっちでは普通なのかもしれないけどさ。


「極悪非道、世界初のサイコパス」ローレッタがアスラの説明文を読む。「他人を痛めつけることをリョナと言うが、アスラ・リョナが語源。世界一のクソ女で、残虐性が高く、思考が飛んでいて、常人にアスラを理解することは不可能、とありますね」


「こいつがサルメのボスなんだね。見るからにヤバそうな奴だね」


「多くの人間がアスラを退治、注釈、あえて退治という表現を使っています。とにかく、退治しようと頑張ったが、全て返り討ちに遭った、と」ローレッタが言う。「相当、強いんでしょうね」


「尋常ならざる発想力で、数々の新しい戦術を生み出す」私が続きを読む。「当時の戦争を根本から変えてしまった」


「お姉様みたいですね」

「いやいや! さすがに一緒にされたらお姉ちゃん悲しいかな!」

「ご、ごめんなさい。いい意味で、似ていると言ったのです」


 今までのアスラの説明文に、いい意味って何かあったっけ!?


「発想力があるとか、そういうのですお姉様!」


 ローレッタは言ったあと、ニッコリと笑った。

 なるほど、そういうことなら、ね。

 とりあえずアスラの項目を読み進めたけど、これ、ほとんど悪口だね。

 よっぽど嫌われてるんだなぁ。

 アスラと遭遇した魔王が、泣きながら逃げ出したという逸話には少し笑った。


「お姉様、どうやら生命の木以外にも、ユグドラシルという大きな木があるそうですよ」

「ほう。大木が多いんだね」


 さすがファンタジー世界。


「こちらは、この世界の創造主だそうです」

「へぇ。そりゃすご……え? 木だよね!?」


 私は驚いて、ローレッタの持っている本を覗き込む。


「えっと、遙か遠く、別の星から飛来した種子が芽吹き、ユグドラシルへと成長。この世界に生命を生み出した」


 木のくせにすげぇ!


「最初に生み出したのが、生命の木のようですね」ローレッタが続きを読む。「そして多くの植物を産んでから、その他の生命を産んだそうです」


「創世神話的なやつだよね」

「このユグドラシルですが、時々、幼い少女の姿で人々の意識に登場して悩み相談に乗ってくれるみたいです」

「サービス精神旺盛な創造主だね!」


 それが事実なら、神話も事実ってことだよね!?

 すごいね、この世界って最初に植物が生まれたんだね!

 地球はどうだったんだろう?

 実はそういうの、私は全然知らない。


「おっと、現在の最強冒険者のページだよローレッタ」

「魔獣ルーナリアンですか? 面白い名前ですね」

「2人組の女の子たちで、魔獣ルーナリアンはパーティネームだね」

「じゃあ、あたしとお姉様が冒険に出たら……」


「出なくてよろしいです」とセシリア。

「絶対にやめてください」とフィリス。


 フィリスはお盆にティーカップを載せて戻った。

 司書たちも一緒だ。

 フィリスがお茶をテーブルに置く。

 続いて、司書たちがお菓子をテーブルに置いてくれる。


「「ありがとう存じます」」


 私とローレッタがお礼を言うと、司書たちがすごく驚いた顔をした。


「こ、こちらこそ、お目にかかれて光栄です!」


 司書の1人が深々と頭を下げた。


「はい。時々ですが、わたくしたちは調べ物でこちらの図書館を利用すると思いますわ」私は丁寧に言う。「またよろしくお願いいたしますね」


 司書たちは元気に返事をしてから、仕事に戻った。


「ルーナリアンの話に戻るけど、めちゃくちゃ強いみたいだね」

「はい。歴代最強という人もいるようですね」

「うん。歴代全部合わせて、最強冒険者はルミア・カナールって名前らしいけど、ルーナリアンは2人だし、ルミア以上の能力があるってのが多数を占めてるみたいだね」

「ルーナリアンは単体でもルミアと同じぐらいの能力がある、という説もあるようですね」


 実際にどっちが強いかは、今のところ不明ということだ。


「冒険者としての実績も、ルーナリアンがグングン追い上げてるみたいだね」


 この世界には最低でも6個の大陸がある。

 でも、まだ空白地帯も残っている。

 それに、発見された6個の大陸にもまだ空白が残っているようだ。

 その空白を埋めるのが、冒険者の主な仕事。

 うちの国に冒険者ギルドがないのは、冒険するほどの場所がないから。

 魔物の棲む山や森もあるけれど、現状では領兵や騎士で対応できている。

 よって、冒険者を呼び込む必要がない。


「地図の空白を埋めるのは、ロマンを感じますね!」


 ローレッタが楽しそうに言った。


「そうだね。最強領地を作る傍らで……」

「ダメですミア様。公爵令嬢は冒険に出ません。どうしてもと言うなら、冒険者を支援しては?」

「支援か。そっちの方がいいかもね」


 将来、領主になったら冒険の旅に出られないかもしれない。

 忙しいだろうからね。

 まぁ、でも1回ぐらいは冒険してみたいよね。

 せっかくのファンタジー世界なのだから。


「誰を支援しますか!?」ローレッタがキラキラした瞳で言う。「やっぱりルーナリアンですか!?」


「うーん。たぶんすでに支援者だらけだと思うよ」


「……そうですよね」ローレッタが息を吐く。「では、今後、冒険者になりたい人物と出会ったら、支援を考えてみましょう」


 私たちはその後も、午前中いっぱい調べ物をした。

 その上、いくつかの本は貸し出してもらった。

 とりあえず、今日分かったことは。

 この世界、私が思った以上にファンタジー!!

 めっちゃ楽しそうな世界で嬉しいな!

 そんな世界で最強領地を目指すのは、割と難易度が高そう。

 でも、私は【全能】!


 とりあえず《月花》が攻めて来ても耐えれるように領都の要塞化とかも考えよう!

 妖精たちが敵対した時の対策もしないと!

 それから、技術革新もガンガン進めよう!

 えっと、迫撃砲なら今でも作れるんじゃね!?

 迫撃砲って割と単純な構造だし!

 よぉし、鉄砲隊が落ち着いたら、次は迫撃砲の設計図を売ろう!

 そして迫撃砲が完成したら、次はいよいよ、大砲!

 大砲が作れたら砲兵隊を編制しないとね!

 ちなみに迫撃砲は砲兵ではなく歩兵の装備。

 大砲が完成したら、次はみんな大好き戦艦!!

 目指せ世界最強のローズ領!!

 

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