15話 おうちでワッペン作り


「それから? それからどうなったのですミア! レックスは?」


 私の家のリビングで、ノエルが言った。

 ノエルに手紙で海賊たちの一件を教えたら、どうしても私に会いたくなったそうだ。

 きっと私を案じてくれたのだろうけど、なぜかレックスのことばかり聞くんだよね。

 友達になりたいのかな?


「ノエル、興奮しすぎです」


 ワッペンをチクチクと制作しながらローレッタが言った。

 私たちはお話をしながらワッペン作りに励んでいた。

 もう13月に突入したというのに、私はまだ戦闘服を買ってない。

 理由は単純。

 海賊退治の報奨金も、結局今月の支払いだった。

 火縄銃の金と一緒に払うそうだ。

 まだ管轄が治安維持隊なので、支払いが同じ軍務省なんだよね。


「ごめんなさい。でも気になって……」


 ノエルも自分の分のワッペンを作っている。

 このワッペンは、ミア・ローズ隊に所属していることを示すモノだ。

 ちなみにミア・ローズ隊というのは仮の名称。

 現在、いい名前を考え中。

 第一空挺団とか、水陸機動団とか、特殊作戦群みたいなカッコいいのにする。


「ああ、サルメの奴は弾丸をクレイモアで跳ね飛ばし、躱し、結局2発しか当たらなかったよ」

「2発は当たったんです!?」


 ノエルがビックリして言った。


「本当ですよね」ローレッタが言う。「自信満々の割に、2発は当たっているという」


「そう。足と腕かな。痛い痛いってゴロゴロ転がってたよ。あいつ割とバカなんだと思う」


 まぁそれでも、10発中8発を回避、または弾いたのは凄まじい。

 私もできるようになろうって心に誓ったね。


「それでレックスは?」とノエル。


「まず2人で近くの屯所に行って、保護してもらったよ」


 後処理を治安維持隊に丸投げしたのである。

 ちなみに、サルメは現場に残った。

 魔法で傷の手当てをしつつ、報奨金の話をするためだ。

 サルメが報奨金の一部を私にあげることも、治安維持隊に伝えてくれた。


「それであとは、迎えを待った」


 迎えが来たのは日が傾いた頃。

 セシリア、フィリス、母様、ローレッタ、護衛騎士2名が私を迎えに来た。

 みんなで私の無事を喜び、そしてその日は海事都市マーファに泊まることに。


「レックスとはそこで別れたよ」


 で、大切なことだけど。

 私はセシリアと母様に死ぬほど説教された。

 本当、もう、泣くかと思った。

 マジで一晩中というレベルで、延々と。

 あとで聞いた話だが、ローレッタも実はめっちゃ怒られていたそうだ。

 そして更に大切なことだけど。

 私とローレッタは罰として、今年いっぱい外出禁止にされたのだ!


 ああん!

 外に出れない!

 12月なんか庭も禁止だったから、家の中だけで訓練したよ。

 そしたら色々と物が壊れたりした。

 家の中でローレッタと撃ち合あったせい。

 ゴム弾だよ?

 痛いだけで死なないやつ。

 やがて侍女たちが両親に泣きついた。


「お願いですから、お嬢様たちを庭で遊ばせてくださいっ!! 屋敷の中をゴム弾が飛び交っているなんて恐ろしすぎます!」と。


 そんなわけで、今は庭は許されているけど、屋敷の敷地外には出られない。

 私とローレッタが抜け出さないように、年末まで警備の領兵が6人に増えている。

 そう、何かを守るためじゃなくて、私たちを逃がさないために!

 信用のなさよ!

 まぁ仕方ないけどさ!


「ですが、その後も会っていますよ?」ローレッタが少し笑いながら言った。「レックスが中央に戻る前に、両親と挨拶に来ていましたからね」


「両親と挨拶!?」


 ローレッタの言葉に、ノエルが目を剥いた。


「色々と感謝されたよ。てゆーか、君の両親だって私とは挨拶したじゃないか。ねぇノエルママ」


 私が視線を移すと、ノエルの母親がフィリスとお茶を飲んでいた。

 ちなみに、セシリアは私たちの側にいる。


「そうですねミア様。今日はお誘いありがとう存じます」


 ノエルママは、もう毒の影響下にないのですこぶる元気だ。

 ノエルたちはマトモだった方の侍女と父のダライアスを家に残し、2人だけで遊びに来ている。

 あれから、新しい侍女はまだ雇っていないようだ。

 まぁ、あんなことがあったので、ちょっと怖いのだろう。


「外出禁止が終わったら、1度中央に遊びに行くよ」私が言う。「その時に、レックスを紹介しよう」


「……じゃあ、その時に釘を刺せる……」


 ノエルがボソッと何か言ったが、私には聞こえなかった。


「そうですね。2人まとめてあたしの足下にも及ばないことを、分からせてあげます」

 

 ローレッタが胸を張って言った。

 ふむ。

 訓練の話のようだね。


「ノエルにも個人訓練メニュー作ってあげようか?」


 ちなみに、レックスにはもう郵送してある。

 きっと彼なら、将来はローズ領の騎士団長になってくれるはず。

 まぁ、それまで騎士団があるかは不明だけど。

 領兵とまとめて、1つの軍にしたいんだよねぇ、実は。


「僕、運動はちょっと苦手ですけど、ローレッタに負けたくないし、ミアの部下に軟弱者はいらないんでしょう?」


「その通りです!」ローレッタが言う。「軟弱者はお姉様の部下に相応しくありません! これからも側にいたいと願うなら、日々、己を鍛え上げてくださいね!」


「さすがローレッタ! よく言った! ワッペンは今度にして、今から庭で……」

「ダメですミア様」


 立ち上がった私の肩にセシリアが素早く手を置いた。

 そしてセシリアがゆっくりと私を押して、私は椅子に戻った。


「今日はおうちの中で! 安全に! 遊ぶ約束です!」


 セシリアが真顔で言ったので、私は「あ、はい」と言ってワッペン作りに戻った。


「本当に、ミア様ってお元気なのねぇ」


 ノエルママがのほほんと言った。

 お元気って貴族言葉でお転婆とかやんちゃとか、そういう意味だった気もする。

 もちろん文脈にもよるけれど。


「もう少しお淑やかになってもらわないと、身が持ちませんよ」フィリスが首を小さく振りながら言った。「海賊たちの馬車に飛び乗った時は、ああ嫌だわ! 今度こそわたしの人生も終わったのよ! って思わず涙が出ましたもん」


「まぁまぁ、無事だったからいいじゃないか」


 私は微笑んだ。

 でもまぁ、もう少しアレだね。

 公爵令嬢らしくしないとね。

 とはいえ。

 領内で海賊をのさばらせたのも悪いよね?

 あの一件のあと、うちの両親は法務庁の格上げを速攻でやってしまった。

 来年の初めには警察庁を始動させるらしく、現在調整中だそうだ。

 まぁこれで、ローズ領の治安は更に向上すること間違いなし!

 ちなみに、外出禁止中なので法務大臣は選べなかった。

 警察庁の長官は選ばせてくれるらしいけど。


「まぁミア様もローレッタ様も、外出禁止で少しは懲りたようですし」セシリアが言う。「次はないと信じたいですね」


「だ、大丈夫だよセシリア? うちはほら、もうすぐ警察できるし? 今後は任せればいいし?」

「今も治安維持隊がありますけどね」


 セシリアが淡々と言った。

 あはは。

 その通りなんだけどね!

 もう許して!

 私は冷や汗を流しながら、ワッペンを作る。


「完成です!」


 最初にローレッタが自分のワッペンを完成させた。

 ローズ領の薔薇を描いて、葉っぱの代わりにクロスさせた火縄銃が二丁。

 もちろん、薔薇も火縄銃もデフォルメしている。


「いいね! 自分でデザインしたけど、カッコいいね!」


 ちなみに、ローレッタが私の名前を入れようと言ったのだが却下した。

 だってミアってMIAじゃん?

 MIAって『Missing in Action』の略で、意味は戦闘中の行方不明者ってこと。

 さすがに部隊を示すワッペンにそれは入れたくない。


「銃が2つあるのがカッコいいです。僕、幻の銃を作る練習中です」


 ノエルは初めて銃を見た日から、割と銃が気になっている様子。

 実はレックスも銃についてすごく興味があるようだった。

 今度会った時は、2人にも銃の使い方を教えてあげなくちゃね。


「いいね。上手くできるようになったら、1度お披露目しておくれ」

「はい! もちろんですミア!」


 ノエルが嬉しそうに言った。


「お姉様、他にもたくさんワッペンを作るのでしょう?」

「そうだよローレッタ。レンジャーワッペン、空挺ワッペン、水陸両用ワッペン、などなど、いっぱい作る予定だよ! 各課程を修了したら戦闘服に貼ろうね!」

「はいお姉様!」

「僕も貼ります! 修了します!」

「よろしい! では2人とも今から訓れ……」

「ダメですミア様。さっきと同じ流れを繰り返す気ですか?」


 立ち上がった私は、セシリアにそっと肩を押されて椅子に戻った。


「そのまま、お裁縫を趣味にして頂けたら、どれだけ楽か……」


 セシリアが溜息交じりに言って、フィリスが強く頷いた。

 ふふっ。

 私は訓練はするよ!

 それだけは譲れない。

 そう、産まれてから死ぬまでが訓練さ!

 ついでに言うと、

 死んでから転生して、また死ぬまでも訓練さ!

 

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