14話 海賊、あっさり全滅
私は小銃の銃口をマッチョに向けた。
しかしマッチョは怪訝そうな表情を浮かべただけで、ビビることはなかった。
そりゃそうか。
彼らはこれが何か知らないのだから。
「ミアちゃんを殺せば」サルメが言う。「お金が払えなくても許してあげますよ」
え?
何言ってんのこいつ!?
「本当ですかサルメさん!?」
青髪の海賊がビックリした風に言った。
私もビックリだわ。
「もちろんです。あなたたちにとって、最後のチャンスです」サルメが酷く悪い顔で言う。「ローズ領は身代金を払わないし、中央は船長を解放しません。確定情報です。残念でしたね」
サルメの言葉で、海賊たちが顔を見合わせた。
もう撃っていいかな?
重いんだよね、小銃。
私がまだ子供だから。
前世なら「構え」と言われてから「下ろせ」と言われるまで、延々と構え続けることもできたというのに。
「ですので、私はみなさんを殺します」サルメが笑顔で言った。「でーもー! このミア・ローズ公爵令嬢を殺すことができれば、生かしておいてあげます」
「な、なんでそんな……」と青髪。
かなり困惑している様子だ。
ああ、一般人には分からないよね。
私が撃たずに待ってるのも同じ理由なんだよね。
つまり。
「見たいんですよ! 戦ってるところが!」サルメが酷く楽しそうに言う。「戦って血の海ができるところが! 戦って肉が飛び散る姿が!! どうしようもないほどの力の前で、ズタズタにされる場面が! どっちが死んでもいいから見たいんです! 面白おかしい殺し合いが見たいんですよ! 真剣に殺し合ってくださいね? そしたら、生き残った方の命は保証してあげますから!」
ぶっ壊れてるのさ。
所詮、傭兵なんてのはそんなもんさ。
好きで殺し合いやってる連中で、他人の殺し合い見るのも大好き。
そんなどうしようもない、クソヤローの集まりなのさ。
少なくとも、前世の傭兵団はそうだった。
ちゃんとした民間軍事会社は違うのかもしれないけど、私が所属していた団はちゃんとした組織じゃなかった。
自分らは傭兵団を名乗っていたし、実際そういう仕事をしていたけれど、対外的には武装組織だった。
「ち、チクショウ!! やるぞお前ら!!」
青髪が震えながら叫んだ。
レックスを見ると、サルメの狂気に触れて床にペッタンコ座りしている。
ちょっと可愛いけど、この程度の狂気で怯えてもらっちゃ困る。
最初に女の海賊が突っ込んで来た。
女海賊はカトラスを一振り。
私はそれを回避して距離を取り、引き金を絞る。
小気味良い連続した破裂音と、火薬の匂いが心地いい。
女が蜂の巣になって床に倒れる。
他の海賊たちが怯む。
まぁ、初めて銃の音と光を体験したのだから、仕方ない。
「どうしたんだい? 次の攻撃はこないのかい?」
私が言う。
ああ、クソ!
きっと私もさっきのサルメみたいな顔してるんだろうなぁ。
「な、何しやがったこのガキ!!」
マッチョが真っ直ぐ来たので、私は引き金を絞る。
発射された弾丸がマッチョを穴だらけにした。
マッチョが床を滑るように倒れ込んだ。
あは。
これが小銃の威力だよ。
カトラス?
ははっ!
勝てるわけないのにバカだなぁ!
「一旦離れろ!! 何か分からないが、近づくと危ねーぞ!」
青髪が言って、海賊たちが私から少し離れた。
「有効射程は500メートル以上だよ」私が意地悪く言う。「もっと離れなきゃ意味ないよ?」
タタタン、とセルフ3点バーストでモヒカンを射殺。
20式小銃には3点バーストが採用されていない。
まぁ、私は【全能】なので、付けようと思えば付けられるけれど。
「なんだよこの化け物は!」
金髪が背中を見せて、走り出した。
倉庫の出口へと向かったのだ。
「私の前でレックスを拉致したりするからだよ。私の領地に拠点なんか作るからだよ。ふふっ、私のローズ領で好き勝手する奴は許さない」
金髪の背中に弾丸をぶち込み、金髪が倒れる。
私は別に正義を執行しているわけじゃない。
時々、無性に人を撃ちたくなるってだけ。
そんな時に、放っておいても死刑になる犯罪者は都合がいい。
私がかつてクソッタレの傭兵だったとしても、民間人をいきなり撃ったりしない。
それはただのイカレた殺人鬼だからだ。
私らとはまた違う人種だ。
「青髪のお兄さんを残そうかな」
言って、私は残りの1人を撃ち殺した。
青髪はその場に膝を突いた。
「なん、なんだよ……お前、この化け物がっ! よくも! よくも仲間を!」
心折れたのかと思ったら、青髪はカトラスを投げた。
でも、私の方に投げたわけじゃなかった。
「レックス! 私の部下なら躱せ!!」
私が叫ぶと、レックスは座った体勢から跳ねるように身体を動かしてカトラスを避けた。
ああん!
レックスやるぅ!
さすが将来の騎士!
最年少で騎士になっただけあるね!
そう、レックスはかなりの強キャラ設定なのだ。
今は私とローレッタの陰に隠れて目立ってないだけで、ゲーム本編ではかなり強い。
私は歩いて青髪の前に移動。
青髪は今度こそ、心が折れた様子。
私は銃の尻で青髪の頭を殴りつけた。
レックスを攻撃した分の報復ね。
「逃げたら殺す」
一応、釘を刺しておく。
「レックス、彼を縛れ」
「は、はいミア様!」
レックスが立ち上がって騎士の敬礼をした。
右手をグーにして自分の胸を軽く叩くような敬礼だ。
剣を持ったままでもできる敬礼である。
レックスは床に転がっていたロープを拾う。
昨日まで、自分を縛っていたものだ。
それを持って青髪に近づき、そして私を見た。
「そっか。縛り方、知らないよね。よろしい! 私が教えよう!」
「はいミア様! お願いしゅま……します!」
あれ?
噛んだのは可愛いんだけどさ。
レックスちょっと私にビビってない?
目の前で5人をアッサリ殺しちゃったから?
私がレックスに縛り方をレクチャーしていると、サルメが寄ってきた。
私はまだ小銃を消してない。
肩に掛けている状態だ。
いつでも撃てる。
サルメがまだちょっと興奮気味なので、私は警戒してるってこと。
「すごい連射性能ですね。うちの連発銃より性能がいいですね」
そりゃそうだろう!
最新の小銃だよ!?
この世界の鉄砲に負けてたまるかって話。
「魔法で作っているから、連射速度を好きにできるってことですね」
サルメは勝手に頷いて勝手に納得した。
連射速度はいじってない。
本物と同じだよ、たぶん。
まぁ、サルメが20式小銃を知っているはずもないけれど。
サルメが私をジッと見る。
「ちょっとそれで私を撃ってもらえませんか?」
「はい?」
さすがの私も聞き間違いかと思った。
「そうですねぇ……」
言いながら、サルメが少し下がる。
「このぐらいならいいでしょう。ちょっと10発ほど撃ってください」
「……君、自殺志願者には見えなかったけど?」
サルメのせいで、私は割とマトモな人間なんだなぁって再認識できた気がする。
この世界でも傭兵は頭がどうかしている。
そして、たぶんその中でもサルメはトップクラスにイカレてるんだと思う。
「そんな顔しないでください」サルメがクレイモアを抜く。「うちの団員なら、きっとみんな試したがりますよ」
「みんなイカレてんのね……」
私はやれやれと肩を竦めてから、小銃を構える。
どういう育ち方したら、こんなアホに育つんだろうなぁ。
やっぱ団長がアホなんだろうな、きっと。
大抵、団員は団長に似るものだ。
「死んでも恨まないでおくれよ?」
「ええ。大丈夫です」
サルメがクレイモアを額の前で構えた。
剣を横に寝かせた状態だ。
大きい剣なので、縦の動作より横に振る動作が多いのが特徴ということ。
「私たち、銃にも勝てるように鍛えられているので」
サルメがニッと笑った。
誰だよそんな鍛え方した奴。
私もやろう!
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