6話 キラキラ笑顔で最強、ローズ公爵令嬢!


「父様、今日も素敵ですわ。カッコいいですわ。最高ですわ。訓練に参加していいですわよね? いいですわよね?」


 私は媚び媚びの猫なで声で言った。

 更にカイルに抱き付く。

 そうすると、ローレッタが逆側からカイルに抱き付く。


「お父様、あたしもお姉様も、今日をとっても楽しみにしていました。形だけでも、参加したいです。一生の思い出になると思うのです。お父様」


 ローレッタはウルウルした瞳でカイルを見上げた。

 可愛い! はい可愛い!

 私なら即、オッケーするね!


「ああ、ええっと」カイルが照れた風に言う。「でも、ケガとかしたら……」


「大丈夫! 絶対にケガなんてさせないよ!」私が言う。「めちゃくちゃ手加減する!」


「そっち!?」


 カイルが驚いた風に言った。

 他にどっちがあるというのか。


「そうですお父様。ケガなんてさせません! まぁ軟弱な中央騎士が勝手にケガをするかもしれませんが、それは関係ないです! だからお願いします!」


 ローレッタが言うと、カイルは困った風にジュリアを見た。

 ジュリアは父と娘のやり取りを楽しそうに見ているだけで、何も言わなかった。


「セシリア、君の意見を聞かせてくれないか?」

「旦那様。ここは1つ、参加させてあげてはどうでしょうか?」


 セシリアの思わぬ肯定に、フィリスがものすごく驚いた表情を浮かべた。


「セシリア!! 大好き!!」


 私はセシリアに抱き付いた。

 そうすると、ローレッタも続いてセシリアに抱き付いた。


「それはどうして? この子たちはお転婆だけど公爵令嬢だ」カイルが言う。「騎士たちの方が困ってしまうのでは?」


「旦那様。もし許可を出さなければ、お嬢様たちは乱入する可能性が高いです」


 セシリアが言って、フィリスが強く何度も頷いた。


「であるならば」セシリアが淡々と言う。「最初から単独演武のような形で、誰にも危険がないようにして、大切なことなのでもう一度言いますが、誰にも危険が及ばないようにコントロールして、参加させた方がいいでしょう」


 セシリアは私たちが魔法を使うことを念頭に置いて言った。


「なるほど。分かった。軍務大臣と話してくるよ」


 納得したカイルが立ち上がり、近くに座っているエリック軍務大臣の方へと移動。

 私とローレッタはセシリアから離れて、カイルを見守った。

 エリックは楽しそうに大きな声で笑って、そして私たちを手招き。

 私とローレッタがエリックに近寄る。


「ミア様、ローレッタ様、さすがに騎士に交ぜることはできませんが、休憩中の特別演武という形で、お2人の出番を作りましょうぞ」

「さすがエリック! 話が分かる!!」

「我が領地の軍務大臣が素敵な方で、あたくしも嬉しいです!」


 私とローレッタはとっても嬉しくなって言った。


「ところでミア様」エリックが少し悪い顔をする。「何が必要ですかな? 中央の連中に、ローズ公爵令嬢が舐められるわけにはいきませんからな。なんなら、この前の火縄銃を使うのも手ですぞ」


「木人をたくさん立てて! まぁすでに立ってるけど!」


 やったぜ!

 軍務大臣公認で、中央の連中に私らの力を見せつけることができる!

 ローズ領の力というか、ほぼ私とローレッタの力だけど。

 まぁそれはそれでいい。

 鉄砲隊が完成したら、その時に改めてローズ領の強さを見せつけてやる。


「エリック……」カイルが苦笑い。「幼い令嬢の可愛い演武じゃダメなのか?」


「「ダメです!」」


 エリックとローレッタの声が重なった。


「そうだよ父様。舐められていいことなんてない。中央には私らを畏怖してもらわないと」


 いつか、私が王子との婚約を断っても、意地悪されないようにね。

 それから、エリックは騎士団長と話を付けに行った。

 私たちは自分たちの席で、大人しく出番を待った。

 ローズ騎士団長が笛を吹くと、騎士たちの迫力ある訓練が終わる。

 正確には、休憩だ。

 次に、ローズ騎士団の副団長が鉄製音響メガホンを構える。


「小休止とする! その間、中央騎士の諸君にはローズ公爵令嬢による個人演武を楽しんで頂こう!」


 あは! 出番だね!

 騎士たちが修練場の隅に移動したのを確認してから、私とローレッタは頷き会う。

 そして手を繋いで空を飛んだ。

 真上ではなく、修練場の方へと放物線を描くように飛んだ。

 正確には、ローレッタが強い風を吹かせて、私らを飛ばしたのだ。

 よって、落下は自由落下となる。

 客席がざわめき、騎士たちも目を丸くしていた。

 私たちはお互いの手を離し、五点着地。

 悲鳴のような歓声か、歓声のような悲鳴が上がった。

 ちなみに、私らドレスなんだよね。

 よそ行き用の。

 まぁ気にしてはいけない。


「マジか」

「空、飛んで来たぞ?」

「ドレスのまま転がったぞ?」

「え? てか、落下したよな? 無傷なのか?」


 中央騎士たちは酷く困惑していた。

 ローズ騎士たちは「あれぐらいはね」と割と冷静だった。


「まずは挨拶代わりです!」


 ローレッタが右手を挙げる。


「【紫電の一撃】!」


 ローレッタが叫ぶと、木人の上に魔法陣が出現。

 次の瞬間には、落雷が発生して木人を消し飛ばした。

 本当の落雷ではなく、そういう攻撃魔法だ。

 あまりの威力に、周囲が静まり返った。

 エリックだけは拍手していたけれど。


 ちなみに、魔法の名前を唱えるのには意味がある。

 魔法に名前を付けて、目的とイメージを定着させるのだ。

 毎回、目的を明確にしてイメージを浮かべるなんて、時間効率が悪い。

 だから、使用頻度の高い魔法に名前と目的とイメージを付与し、魔法名を唱えるだけで魔法が発動するようにしたのだ。

 これは本来なら魔法学園で習う技術。


「更に!」


 ローレッタが両手を挙げる。


「【紫電の双撃】!」


 今度は2つの魔法陣が空中に浮かび、2つの落雷が発生。

 轟音とともに、目映い光の筋が2つの木人を完全に破壊。


「ふっ」


 ローレッタがどやぁっと胸を張った。

 ああ、可愛い!

 どや顔のローレッタ可愛い!


「マジか。あの年齢で、あんな高度な魔法を……」

「凄まじい威力だぞあれ……」

「人間だったら、一撃であの世行きだ……」

「あの子も公爵令嬢なのか……?」

「そうだ。ローレッタ様だ。挨拶をしていたのがミア様で、その義理の妹だ」


 中央騎士たちの疑問に、ローズ騎士たちが応えていた。

 はっはー!

 私の妹はすごいだろう!

 さて次は私だね。

 私とローレッタは少し壁の方へと移動。

 そして私が満面の笑みで右手を挙げる。

 次は何が起こるのかと、周囲の注目が私に集まった。

 まぁ、そんな大したことはしないんだよね。

 でもきっと、とっても楽しいよ!


「今日のためのオリジナル、威力の弱い爆弾! 超シンプル構造で魔力消費を抑えた攻撃魔法! 【ミア・ボム】!」


 私は太陽のように、あるいは花のように、キラッキラの笑顔で右手の指をパチンと鳴らした。

 魔力消費を抑えたと言っても、腐っても爆弾イメージの攻撃魔法。

 魔力はゴッソリと消えた。

 修練場のほぼ中心の空中に魔法陣が出現。

 そして魔法陣から爆弾が投下される。

 爆弾が爆発し、凄まじい爆音と衝撃波が広がった。

 木人は全部なぎ倒されて地面が抉れ、砂埃を含んだ煙が巻き上がる。


「さすがお姉様! 人的被害の出ないギリギリの威力を攻めましたね!」


 ローレッタが嬉しそうに手を叩いた。

 あっれー?

 もっと弱いはずだったんだけどなぁ!

 めっちゃ楽しかったけど、ちょっと危なかったね!

 観客も騎士も、みんな目を丸くして硬直している。

 降り注ぐ砂を被った騎士がいるので、ちょっと被害があったようだ。

 客席にまで届かなくて良かった。


 無難に手榴弾とかにしとけば良かったかな!

 手榴弾も楽しいけど、【紫電の双撃】の前では見劣りするからさ!

 ああ、でも、久しぶりの爆発でちょっといい気分だよ!

 ちなみに、手榴弾は『しゅりゅうだん』と読みたくなるけど、自衛隊では『てりゅうだん』と呼称してたよ。

 手榴弾の榴の字が常用漢字じゃないので、マスコミとかは『手投げ弾』と言うこともあったかな。


 とにかく、私らの力を見せつけるという当初の目的は達成した。

 中央の騎士や兵の間で、私はすごく有名になったらしいと後日、祖父母の手紙で知った。

 どう有名になったかって?


「ローズ領とだけは争ってはいけない。公爵令嬢が敵兵を皆殺しにできる極悪の魔法を使う。しかも無邪気に笑いながら。アレは闘神の化身だ」

 

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