7話 領地改革を進めよう


 ローズ家の食堂、夕食時。

 私はルンルン気分でカトラリーをカチャカチャと打ち合わせた。


「ミアー? ダメでしょ、食器で遊んじゃ」


 母のジュリアが呆れ顔で言った。

 食堂の広いテーブルで、私たちは夕食を摂っている。

 私とローレッタが隣り合わせで座っていて、両親は私たちの対面だ。

 いやー、前世を思い出した時は一人ぼっちの食事だったけど、今はこの通り。

 毎日、ってわけじゃないけど、だいたいは家族で食事できる。


「明日はレックスが遊びに来る予定ですので」ローレッタが言う。「楽しみなのだと思います」


「ああ、ミアはモテモテだなぁ」


 父のカイルが苦笑い。

 どっちかと言えば、レックスもノエルも私よりローレッタを好きっぽいけどね。

 まぁ仕方ない。

 ローレッタの可愛さは異次元だからね。


「本当にねぇ」ジュリアが言う。「修練場を破壊するような子だけど、本当、モテモテねぇ」


 ジュリアは別に怒っているわけではない。

 面白がって言っているだけだ。

 ちなみに破壊した翌日、つまり昨日だけど、私は修練場を元に戻した。

 私の魔法は【全能】だから、そういうことも可能なのだ。

 まぁ、魔力が足りなかったからローレッタに分けてもらったけどさ。


「それより父様、新たな改革案を聞くかい?」

「お? いいね。いつ話してくれるのかと待ってたよ」


 カイルがパッと明るい笑顔を浮かべた。


「うん。ちょっと落ち着くまで待ってたんだよね。連続して改革しちゃうと、色々大変だろうし」

「なるほど、ミアはよく考えているね」


 うんうん、とカイルが頷く。

 ジュリアとローレッタも笑顔だ。


「まず、法務庁を法務省に格上げする」

「あらー? それはどうして?」


 ジュリアが質問した。

 私がローレッタに視線をやると、ローレッタが小さく頷いて言う。


「理由は3つありますお母様。まず第一に、領地運営省の仕事量を減らすためです」

「ああ。父さんたちの次に忙しいからね、運営大臣は」


 カイルが言った。


「前回の改革で楽になっていますが」ローレッタが言う。「それでも忙しいことに変わりはありません。下部組織を格上げすれば、その分は楽になります」


「それだったら、領民管理庁とかの方が忙しいんじゃないからしらー?」


「母様の言うことはもっともなんだけど」私が言う。「法務庁を格上げする意味はまだ2つあるから、そっちも聞いて欲しいかな」


 ジュリアとカイルが頷く。


「では2つめの理由です」ローレッタが言う。「法務省の格上げが終わったら、次に法務省内に警察庁という組織を立ち上げます」


「この組織は」私が補足。「領地の治安や秩序を守るための行政機関となる。今、領兵団の治安維持隊や警ら隊が行っている仕事を、全部警察に移行する。というか、治安維持隊と警ら隊をそのまま警察に移行する」


「専門の組織を置いて、領地の治安を更に上昇させるためです。領民にとって、安心して過ごせる領地であることは、きっと誇りとなるでしょう」


 ローレッタが言った。


「更に、ここからが本題なのだけど」私が言う。「治安維持隊や警ら隊が移行した分、領兵に空きができる。その分を募集すれば雇用にも繋がるし、何より領兵制限内で領兵を強化できる」


「強化?」とカイルが首を傾げた。


「知っての通り、各領地は領兵の数を3000人までに制限されている」


 私の言葉に、カイルとジュリアが頷く。

 この領兵制限は、中央が制定したものだ。

 制限を超えて常備軍を持った場合、叛意ありとみなされる。

 ちなみに中央の兵は5000である。

 要するに、どっかの領地が中央と戦争しないようにという制限だ。

 ついでに、領地同士での戦争の抑止にもなっている。

 なぜなら、他国との戦争以外で徴募兵を集めてはいけないから。

 よって、かならず同数での戦争になるので、領地同士での戦争は起こりにくい。


「私たちの領兵は単純に、治安維持を警察に任せることができる。有事の際に、領兵は戦争に集中できるってわけ」


「確実に領地を強化できます!」とローレッタ。


「あ、ああ、そうなんだが、ちょっと大丈夫かなそれ?」


 カイルがやや困惑気味に言った。


「何が問題?」と私。


「警察って、名前変えただけの治安維持隊と警ら隊だよね?」


「そうだけど、違うと言えばいい」私が言う。「軍隊じゃないです、領兵じゃないです、警察という治安維持のための新組織です、と」


「いずれは他領地も中央も真似するでしょうけど」ローレッタが言う。「お姉様には多くの改革案がありますので、ローズ領が常に最先端にして最強です」


「治安向上は嬉しいわねー」ジュリアが言う。「中央に難癖付けられなければ、いい案だと思うわー」


「まぁね」カイルが肩を竦める。「有事なんてない方がいいけど、万が一、ということもあるし、領兵を制限内で強化できるのは正直嬉しい。中央に何か言われた時は、まぁ父さんがなんとかするよ」


「うちの子が爆弾落とすわよーってね!」


 ジュリアが笑って、私たちも笑った。

 ちなみに、爆弾という名称は私が教えた。


「それじゃあ父様、この案は採用かね?」

「ああ。今回も、原案者として2人の名前を記しておくよ」


 前回の改革も、正式な書類に私とローレッタの名前が載っている。


「あ、法務大臣の候補を5人ぐらいに絞ってくれたら、私が【全能】で最適な人を選べるから。警察庁の長官もね」


「本当、ミアの魔法って便利ねー。さすがローズ家の娘ね」


 私は褒められて、少しいい気分で食事を進めた。


「ところで、明日は何をして遊ぶ予定なのー?」


 唐突に、ジュリアがそう言った。


「んー? 一応、レックスで何をするかは、いくつか考えてるんだよね」


「レックスで!?」とカイル。

「レックスと! でしょ!?」とジュリア。


「レックスは騎士が好きなようですので」ローレッタが言う。「まずは剣術の訓練がいいと思っています。お姉様以外の、生きた人間と剣を交えることができる貴重な機会です。騎士団の訓練には参加できませんでしたし……」


 ローレッタも私も、中央騎士を打ち倒すのをすごく楽しみにしていたのに。

 まぁ力は見せられたから、良かったけれど。


「木剣だよな!?」


 カイルが身を乗り出して言った。


「もちろん。私が魔法で仮創造するんだけど、毎回仮創造するのも魔力の無駄だから、できれば木剣を買……」


「ミアー? 公爵令嬢は木剣なんて持ってなくていいのよー?」ジュリアが言う。「まぁ、自分のお金で買うなら、止めはしないわ。来月には軍務省からお金が入るんでしょ?」


「やった! じゃあお金が入ったら戦闘服と木剣を買うよ!」

「やりましたねお姉様! これで堂々と購入できますね!」


「え? ちょっと待ってー?」ジュリアが苦笑い。「もしかして、コッソリ買うつもりだったのー?」


 あ、やべ。

 私とローレッタは、屋敷を抜け出して隠密機動訓練を兼ねて買い物する予定だったのだ。

 ローレッタが「しまった」という表情で私を見た。

 あは。

 やらかすローレッタも可愛い!

 まぁ、私とローレッタは普段の行いも含めて軽く説教されてしまったけれど。



 翌日の朝。

 私とローレッタはバッチリ準備してレックスを待っていた。

 準備というのは、もちろん訓練の準備だ。

 いつもの、庶民が着る安い服に身を包み、朝食も済ませ、勉強も済ませ、レックスが来るのを今か今かと待っていた。

 ちなみにここはリビングで、私とローレッタは1人用のソファに2人で座っている。

 身体が小さいので、ゆったりしたソファなら2人でもキツくない。


「あ、そうだローレッタ。今度中央に行ったらさ、ノエルとレックスを会わせてみようよ」

「お姉様……そんな残酷な……」

「え? 残酷?」

「恋敵同士を会わせるわけですから……」


 なーるほど。

 ローレッタを狙う者同士だから、喧嘩になるかもってことか。

 でも、2人ともまだ子供だし、恋愛の好きは分からないんじゃないかな?

 ローレッタも恋愛より私が好きみたいだし。


「ですが、誰が最もお姉様に相応しいか、分からせておくいい機会にはなりそうですね」

「なんだって?」


 ローレッタが小声で言ったので、私は聞こえなかった。


「まぁ、でも面白そうでもありますね、と言ったのです」


 ローレッタがニッコリと笑った。

 おおう、ローレッタ、魔性の女か!?

 自分を取り合う男たちの姿を面白そうとか!

 あ、面白そうだわ。

 いいなー。

 私も取り合ってくれねーかなー。

 無理かー。

 喋らなきゃいける気もするけど、喋りたいしなー。


「ミア様、ローレッタ様、レックス様が到着いたしました」


 侍女がリビングに来て言った。

 私とローレッタは立ち上がって玄関へと向かう。


「ミア様、せめて最初の挨拶ぐらいは、丁寧にお願いしますね?」


 セシリアが言って、私は頷いた。

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