5話 攻略対象者はやっぱり可愛い


「はっじめましてぇぇ!! 強襲上陸大好きミア・ローズでぇぇす! 好きな上陸作戦は何ですか!?」


 私はノリノリで言った。

 私の前には、まだ幼いレックス・フォスターが母親と座っている。

 レックスはまだ5歳で、全然マッチョじゃなくて超可愛い。


「えっ……あ……え?」


 レックスは目をまん丸くしている。

 かーわーいーい!

 レックスの髪の色はルビーレッド。

 髪型は父親と同じアップバング。

 おでこが出ていて、爽やかでスポーツマンっぽい印象。

 男らしくワイルドなので、17歳のレックスには似合っていた。

 5歳でもまぁ可愛い。

 顔は当然、すこぶる整っている。


「私はやっぱりノルマンディー!」


 前世の団長とは、ノルマンディーを肴に朝まで飲み明かしたこともある。


「ミア様! 一体何をしているのですか!?」


 私に追い付いたセシリアが、呼吸を整えながら言った。


「彼と友達になろうと思って」


 ふっ。

 私は何もやらかしてない。

 挨拶しただけである。


「大丈夫ですか? ミア様に何か理不尽を言われたりしていませんか?」


 セシリアがレックスの母親に視線を向ける。

 あっれー?

 私、信用なさ過ぎじゃね?


「例えば、高いところから飛べとか、地面を転がれとか、格闘ゴッコの相手をしろとか、もしくはもっと危険な……」


「大丈夫ですよー」


 レックスの母はニコニコと笑いながら言った。

 確か名前はドーラ・フォスターだったか。

 ゲーム内では割と凜々しい感じの人だったけど、今の印象は穏やかで和やかだ。

 髪の色がレックスと同じルビーレッド。


「さぁ、私は自己紹介したから、君も自己紹介して!」


 私は飛び跳ねながら言った。

 レックスとは初対面なので、それらしく振る舞っているのだ。


「あ、ああ。俺は……」

「こらレックス。相手は公爵令嬢様よ? もっと丁寧に喋りなさい」


「はい母上」レックスは素直に頷いてから、私を見た。「俺、いや、僕はレックス・フォスターっす、ミア・ローズ様。初めまして……です」


 いやーん!

 可愛い!

 はい可愛い!

 攻略対象者の可愛さは異次元だね!

 私が頬を緩ませると、いつの間にか私の背後に立っていたローレッタが言う。


「お姉様、お顔が歪んでおりますので、少し引き締めて差し上げますね」


 そしてギュッと私のお尻を抓った。

 あぎゃぁぁぁぁぁ!

 私は叫びそうになるのを必死に我慢した。

 ローレッタが1番!

 ローレッタが1番、可愛いから!

 やめてやめて、お尻のお肉が千切れるぅぅ!


「まったく、お姉様は綺麗な殿方を見たら見境がなくなるんですからっ」


 ローレッタは小声で囁くように言った。

 ああ、耳にローレッタの吐息がっ!


「姉が突然失礼しました」


 ローレッタが私のお尻から手を離し、優雅にスカートを摘まんで挨拶。


「あたくしはローレッタ・ローズと申します」


「こ、これはこれは、ごて……ご丁寧に」レックスが照れた風に言う。「俺、いや、僕、いや、わたくしめは、レックス・ふぉしゅ……あぐぅ」


 噛んだぁぁぁぁ!!

 何この生物、かーわーいーい!!

 私は無意識にレックスの頬を指先で突いた。

 柔らかーい!

 本当、可愛いなぁもう!

 ノエルも可愛かったけど、レックスも可愛いな!

 ぷにぷにぷに。

 私、ゲームをプレイしてた時はハーレムなんて邪道だと思ってたけど、今はむしろハーレムがいいなって思う。

 右手にノエル、左手にレックス、背後にローレッタ、みたいな。

 ぷにぷにぷに。


「ミア様!?」


 セシリアが素っ頓狂な声を上げてから、私を抱き上げる。


「あああ、姉が申し訳ありません!」


 ローレッタが頭を下げた。

 あれ?

 私、何かしたっけ?

 レックスを見ると、顔を真っ赤に染めて怒っている。

 あっれー?

 マジで私、今さっき彼に何してたっけ?

 数秒前に閉めたばかりの記憶の引き出しを乱暴に開ける。

 そうすると、レックスの頬を何度もぷにぷにする私の映像がフラッシュバック。


 あ、これやっちゃったわぁ。

 ローズ家の恥、再び晒すっ!

 でも、可愛いのが悪いと思わないかい!?

 あ、ダメだこれ、拉致する奴の思考だわぁ。

 でもこの際、攻略対象者とか全員武力で拉致してしまえば……って、バッドエンドコースに乗るよねさすがにそれは。

 セシリアが私を抱き上げたまま、下ろそうとしない。


「姉に悪気はなく、レックスとお友達になりたかっただけなのです」


 ローレッタが優しい声で丁寧に説明した。

 さすがローレッタ、できる妹!

 私の失態のフォローをさせたら世界一!

 いや、ごめん。

 本当ごめん。

 次から気を付ける。


「だ、大丈夫っす、ローレッタ様」レックスが笑顔を浮かべる。「僕、俺、えっと、わたくしも、是非お友達に、なれればと」


 やったぜ!

 私はセシリアの腕からスルリと抜け出した。

 セシリアは酷く驚いた表情を浮かべる。

 私は訓練された令嬢、簡単な拘束なら目を瞑っていても抜け出せる。


「では、喋り方は普段通りでいいよ。私はあまり身分とか気にしないから」

「いいえ、気にしてくださいミア様」


 すかさずセシリアが突っ込みを入れた。


「じゃあ、2人きりの時はもっと気軽に……」

「「2人になどさせません!」」


 セシリアとローレッタの声が重なった。

 あはー。

 信用のなさよ。


「まぁ、その、公の場でなければ、普段通りでいいよ?」


「はいミア様」レックスが頷く。「今は公の場っすよね?」


「その通りです」セシリアが言う。「ミア様も、もっと丁寧に会話してください」


「了……じゃない、分かりましたわ」


 私は公爵令嬢スマイルを浮かべてから、レックスを見た。

 そうすると、レックスの頬が再び赤くなる。

 これは怒ったんじゃなくて、照れたんだよね?

 私の完璧なスマイルに、ちょっと照れたんだよね?

 ああ、分からないから確認したい!

 私がローレッタを見ると、ローレッタが深く頷いた。


「それでは、レックス」ローレッタが言う。「今度、我が家に遊びに来てください。しばらくローズ領にいますよね?」


「うい……じゃない、はいっす。父上が中央に戻るまで、宿にいますです」


 中央騎士たちはあと5日間ローズ領に滞在する。

 訓練2日、親睦会1日、自由行動1日、そして帰路に就く日。


「では明後日でどうですか?」

「はいローレッタ様、行きま……伺います」


 すごいなローレッタ。

 パパッと予定を組み込んじゃった。

 もしかして、ローレッタはレックスルート狙ってるのかな?

 だとしたら、お姉ちゃんは協力しなくちゃね。

 と、客席から大きな歓声。

 闘技場っぽくなっている修練場に目をやると、中央騎士とローズ騎士が大人数で戦っていた。

 剣は本物ではなく木剣だが、迫力はすごい。

 ああ、混じりたいっ!


「セシリア! 私の出番はまだなのかい!?」

「はい? ミア様の出番は終わりましたが?」

「えぇ!? 私まだ訓練に参加してないよ!?」

「ミア様は参加しません」


 おかしい。

 軍務大臣は私も訓練に参加していいって言ってた気がするけど。


「どこの世界に」フィリスが苦い表情で言う。「騎士の訓練に参加する公爵令嬢がいるんですか……」


 私がローレッタを見ると、ローレッタも困惑していた。

 私たち、参加して中央騎士を打ち倒す気だったのだけど?

 やる気満々だったのだけど?


「ミア様は、騎士が好きなんっす……です?」とレックス。


「大好きだよ」


 正確には、戦争とか戦闘とかは全部好きだけどね。

 騎士は制服がカッコいいから、いつか騎士になるつもりだし。


「俺も! 俺も騎士が大好き! 父上は最強なんだ! すごくカッコいいんだ!」

「ほう。確かに副団長なら強いだろうね」


 最強かどうかは、まぁ置いておこう。


「そうよねー! お父さんが最高最強よね! レックス分かってるぅ!」


 レックスの母もノリノリだった。

 なんか未来でお父さん殺してごめんね!


「ミア様、お花を摘みに行く途中だったのでしょう?」


 セシリアがしゃがみ込んで、小さい声で私に耳打ちした。


「あれ? そうだっけ? いいや。ここでレックスと訓練を眺めるよ」

「そうですか、では席に戻りましょう」


 セシリアは問答無用で私を抱き上げて、そのまま領主一族の席へと向かった。

 私はレックスに手を振った。

 これ以上やらかすとあとのお説教が長くなるので、素直に戻る。

 レックスも笑顔で手を振り返してくれた。

 ああ、遊ぶの楽しみだなぁ。

 何して遊ぼう?

 レックスは騎士が好きだし、剣術の訓練を激しくやるのが喜ばれそうだね。

 まぁそれはそれとして、訓練に乱入しよう。

 いや、まずはカイルに頼むのがいいかな。

 そして正式に、私たちの強さを見せつけてやるのだ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る