3話 ローズ姉妹と兵団は気が合うようです
「分かりましたわ。後日でよければ、一斉射撃をお見せしますわ」私が言う。「ただし、仮創造ではなくて攻撃魔法として見せます」
私の言葉に、エリックが首を傾げた。
まぁ、魔法使いじゃないと違いは分からない。
私はもう一度、火縄銃を仮創造。
「持ってくださいませ」
私は火縄銃をエリックに渡した。
「ワシに撃てということですかな?」
「違う違う。じゃない、違いますわ」
私は公爵令嬢スマイルで言葉使いのミスをごまかした。
エリックの表情に疑問の色が浮かぶ。
「仮創造というのは、そんな風にわたくし以外の人物でも、仮創造した物を持てますし、使うこともですわ。その分、魔力の消費が大きいのです」
「お姉様が消すか、魔力が切れるまで、それは使用可能です」ローレッタが補足してくれる。「高度な技術となりますが、お姉様が仮創造した物を、あたくしの魔力で維持して使用することも可能です」
「ふむ。実に便利ですな」
エリックは感心した風に頷いた。
「で、攻撃魔法というのは、読んで字の如く。実際の火縄銃ではなくて、火縄銃のイメージで攻撃するということになりますわね」
「違いがよく分からんのだが、大勢で撃った時と同じようにできるのですかな?」
「はい。大丈夫ですわ。ただ、魔力の都合もありますので、後日ということで」
火縄銃の立体映像を沢山作るので、魔力は満タンの方がいい。
映像だけならそこまで魔力消費は激しくないけれど、実際に攻撃しないといけないからね。
「では後日、一斉に撃つところを見てから、購入を決めましょうぞ」
◇
そして後日。
ここはローズ領、領兵団の屋外訓練場。
だだっ広い広場に、訓練用の木人やら障害物が色々と置いてある。
私もここで訓練したいなぁ。
「ではミア様、新武器の能力をみなに見せてやってくださいますかな?」
エリックがニコニコと言った。
この場には、騎士団長を含む騎士数人と、兵団長を含む多数の兵が整列している。
それ以外では、私とローレッタといつもの側仕え2人に、護衛騎士2人。
「分かりましたわ」
私は強く頷いた。
エリック、なんか新しい玩具を自慢したいだけの気がするんだけど!
すっげぇ楽しそうな顔してるんですけど!
私とローレッタは多数並んでいる木人の前に移動。
前と言っても、100メートルほど距離がある。
この密集した木人たちは、私が頼んで事前に用意してもらった。
敵兵が集まっているという想定だ。
「ではお姉様、魔力をどうぞ」
ローレッタが風を吹かせると、私の魔力が増加。
厳密には、ローレッタが私に魔力を分けたのだ。
スゥ、とローレッタが息を吸う。
「火蓋切れぇぇぇ!!」
ローレッタの号令で、私が魔法を使用。
私たちの前に、ズラッと並んだ小さな魔法陣が浮かぶ。
そして魔法陣から、無数の火縄銃の映像が出現。
見学者たちから、「おぉ」という声が漏れた。
映像なので弾丸を込めるシーンとかはスキップ。
見せるのは一斉射撃をするところだけ。
「撃てぇぇぇぇ!!」
気合い十分なローレッタの号令。
火縄銃が火を噴いた。
連続した破裂音と閃光。
そして硝煙。
見学者たちがビクッとなったのが少し面白かった。
エリックも面白かったようで、腹を抱えて笑っている。
「みな、木人を確認してみろ!」
笑い終わったエリックが叫び、見学者たちがゾロゾロと木人へと移動。
「すげぇな今の音」
「あの光と音はビビる」
「敵を怯ませる武器か?」
「殺傷能力はどうなんだ?」
そんなことを話ながら、みんなが移動。
私とローレッタも続く。
「おい、これ見ろよ!」
「漏れなく穴だらけだぞ!」
「人間なら、みんな死んでるぞこれ!」
「なんだこれ!? これを作れるって言うんですか!?」
周囲がどよめく。
「すげぇ! これが配備されたら、俺ら最強じゃね?」
「おう! 素晴らしい武器だ!」
領兵たちから、次々に肯定的な意見が飛び出す。
銃を開発したのは私じゃないけど、ちょっと誇らしい。
「ですが、非人道的では? これでは虐殺になってしまうのでは?」
「ああ、この武器は強すぎる」
否定的な意見は騎士のもの。
「何言ってんの?」私が言う。「ローズ領を守る気あるかい? 強い武器があるなら使うべきだよ。戦争ってのは、殺さなきゃ殺されるんだよ? それでも嫌なら騎士を辞めるか、防衛力を高めるためだと思考を切り替えたらどうかね?」
「みな聞け!」エリックが言う。「強い武器は抑止力になる! ローズ領の平和を維持するためにも! ワシはこの新武器、火縄銃を配備することを決定した!」
「やったー!」
それはつまり、設計図を買うということ。
私は嬉しくなって飛び跳ねた。
ローレッタも一緒になって飛び跳ねる。
「令嬢たち、元気すぎだろ」
「つか、この武器考えるとか、天才なんじゃ?」
「そういえば、決定権の改革、ミア様とローレッタ様が考えたらしいぞ」
「まだ小さいのに、すごいな」
なんだか分からないけれど、領兵たちの間で私らの評価がうなぎ登り。
ローレッタがどんと胸を張ったので、私もそうした。
ちなみに、周辺諸国に銃がないことは確認済み。
逆に言えば、周辺諸国のことしか知らない!
しばらく周囲はガヤガヤとしていた。
火縄銃すごいって話と、私らすごいって話が多い。
中にはローレッタ可愛い、娘に欲しいと言った奴がいた。
絶対にやらん。
ローレッタが欲しければ私を倒せ。
とか思っていたら、私を可愛いと言ってくれる人も。
えへへ。
領兵の奴ら、今度特別な訓練を施してあげようかな!
褒めてくれたお礼に!
私がニヤニヤしていると、エリックが寄ってきた。
「ところでミア様、設計図は幾らですかな?」
「金貨20枚でいいよ! じゃない、いいですわ」
「分かりました。では来月の予算で支払いましょう」
「え? 来月?」
私が呟くと、エリックが頷く。
「今月分の予算はすでに用途が決まっておりますでな。できれば金貨20枚も分割がいいと、会計の連中は言うでしょうな」
うちは豊かな領地なのに!
案外、予算運用に厳しいっ!
戦闘服、早く欲しかったのにっ!
「そう言えば、ミア様は兵士や騎士に興味があるとか?」
複雑な表情をしている私に、エリックが優しい声をかけた。
私が頷くと、エリックが微笑む。
「今度、中央騎士団と合同訓練を行うのですが、よろしければ、ミア様にも参加して頂き、挨拶などをして……」
「是非やらせてくださぁぁぁい!! 参加します!! 私、喜び勇んで参加しますぅぅ!」
後半はよく聞こえなかった。
けど、中央騎士との訓練に参加できると聞いて、私は舞い上がった。
私はウッカリ、エリックに抱き付いてしまった。
そしてセシリアが慌てて私を引き剥がす。
余計なことを言いやがって、という表情でセシリアがエリックを見ていた。
「中央騎士どもを打ち倒すのだぁぁ!!」
「いい機会ですねお姉様! 我がローズ領こそ最強だと、中央の有象無象どもに分からせてやりましょう!!」
私とローレッタが腕を突き上げる。
そうすると、領兵のみんなも「おお!」と腕を上げた。
「待て待て」兵団長が言う。「我々は関係ないぞ。合同訓練をするのは騎士様たちだ」
「いや兵団長! その気持ちが大事なんだよ!」
私が力説。
「そうです! みんなでローズ領を最強の領地にしましょう!」
ローレッタが言うと、領兵たちが再び腕を突き上げる。
「私もどんどん新しい改革や武器を考えるからね! 君たちも日々、訓練に励んでくれたまえ!!」
私が叫ぶと、領兵たちが「分かりました!」と声を揃えた。
ああ、声が揃ってるの超気持ちいい!
「返事は『はいミア様!』だ!」
私は調子に乗って言った。
でも領兵のみんなは私に合わせてくれる。
「「はいミア様!」」
ああああああ、気持ちいいよぉぉぉぉぉ!!
軍隊っぽくて、ってゆーか軍隊だけど!!!
将来は領主兼、兵団長になるのも悪くないね!!
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