3話 ローズ姉妹と兵団は気が合うようです


「分かりましたわ。後日でよければ、一斉射撃をお見せしますわ」私が言う。「ただし、仮創造ではなくて攻撃魔法として見せます」


 私の言葉に、エリックが首を傾げた。

 まぁ、魔法使いじゃないと違いは分からない。

 私はもう一度、火縄銃を仮創造。


「持ってくださいませ」


 私は火縄銃をエリックに渡した。


「ワシに撃てということですかな?」

「違う違う。じゃない、違いますわ」


 私は公爵令嬢スマイルで言葉使いのミスをごまかした。

 エリックの表情に疑問の色が浮かぶ。


「仮創造というのは、そんな風にわたくし以外の人物でも、仮創造した物を持てますし、使うこともですわ。その分、魔力の消費が大きいのです」


「お姉様が消すか、魔力が切れるまで、それは使用可能です」ローレッタが補足してくれる。「高度な技術となりますが、お姉様が仮創造した物を、あたくしの魔力で維持して使用することも可能です」


「ふむ。実に便利ですな」


 エリックは感心した風に頷いた。


「で、攻撃魔法というのは、読んで字の如く。実際の火縄銃ではなくて、火縄銃のイメージで攻撃するということになりますわね」

「違いがよく分からんのだが、大勢で撃った時と同じようにできるのですかな?」

「はい。大丈夫ですわ。ただ、魔力の都合もありますので、後日ということで」


 火縄銃の立体映像を沢山作るので、魔力は満タンの方がいい。

 映像だけならそこまで魔力消費は激しくないけれど、実際に攻撃しないといけないからね。


「では後日、一斉に撃つところを見てから、購入を決めましょうぞ」



 そして後日。

 ここはローズ領、領兵団の屋外訓練場。

 だだっ広い広場に、訓練用の木人やら障害物が色々と置いてある。

 私もここで訓練したいなぁ。


「ではミア様、新武器の能力をみなに見せてやってくださいますかな?」


 エリックがニコニコと言った。

 この場には、騎士団長を含む騎士数人と、兵団長を含む多数の兵が整列している。

 それ以外では、私とローレッタといつもの側仕え2人に、護衛騎士2人。


「分かりましたわ」


 私は強く頷いた。

 エリック、なんか新しい玩具を自慢したいだけの気がするんだけど!

 すっげぇ楽しそうな顔してるんですけど!

 私とローレッタは多数並んでいる木人の前に移動。

 前と言っても、100メートルほど距離がある。

 この密集した木人たちは、私が頼んで事前に用意してもらった。

 敵兵が集まっているという想定だ。


「ではお姉様、魔力をどうぞ」


 ローレッタが風を吹かせると、私の魔力が増加。

 厳密には、ローレッタが私に魔力を分けたのだ。

 スゥ、とローレッタが息を吸う。


「火蓋切れぇぇぇ!!」


 ローレッタの号令で、私が魔法を使用。

 私たちの前に、ズラッと並んだ小さな魔法陣が浮かぶ。

 そして魔法陣から、無数の火縄銃の映像が出現。

 見学者たちから、「おぉ」という声が漏れた。

 映像なので弾丸を込めるシーンとかはスキップ。

 見せるのは一斉射撃をするところだけ。


「撃てぇぇぇぇ!!」


 気合い十分なローレッタの号令。

 火縄銃が火を噴いた。

 連続した破裂音と閃光。

 そして硝煙。

 見学者たちがビクッとなったのが少し面白かった。

 エリックも面白かったようで、腹を抱えて笑っている。


「みな、木人を確認してみろ!」


 笑い終わったエリックが叫び、見学者たちがゾロゾロと木人へと移動。


「すげぇな今の音」

「あの光と音はビビる」

「敵を怯ませる武器か?」

「殺傷能力はどうなんだ?」


 そんなことを話ながら、みんなが移動。

 私とローレッタも続く。


「おい、これ見ろよ!」

「漏れなく穴だらけだぞ!」

「人間なら、みんな死んでるぞこれ!」

「なんだこれ!? これを作れるって言うんですか!?」


 周囲がどよめく。


「すげぇ! これが配備されたら、俺ら最強じゃね?」

「おう! 素晴らしい武器だ!」


 領兵たちから、次々に肯定的な意見が飛び出す。

 銃を開発したのは私じゃないけど、ちょっと誇らしい。


「ですが、非人道的では? これでは虐殺になってしまうのでは?」

「ああ、この武器は強すぎる」


 否定的な意見は騎士のもの。


「何言ってんの?」私が言う。「ローズ領を守る気あるかい? 強い武器があるなら使うべきだよ。戦争ってのは、殺さなきゃ殺されるんだよ? それでも嫌なら騎士を辞めるか、防衛力を高めるためだと思考を切り替えたらどうかね?」


「みな聞け!」エリックが言う。「強い武器は抑止力になる! ローズ領の平和を維持するためにも! ワシはこの新武器、火縄銃を配備することを決定した!」


「やったー!」


 それはつまり、設計図を買うということ。

 私は嬉しくなって飛び跳ねた。

 ローレッタも一緒になって飛び跳ねる。


「令嬢たち、元気すぎだろ」

「つか、この武器考えるとか、天才なんじゃ?」

「そういえば、決定権の改革、ミア様とローレッタ様が考えたらしいぞ」

「まだ小さいのに、すごいな」


 なんだか分からないけれど、領兵たちの間で私らの評価がうなぎ登り。

 ローレッタがどんと胸を張ったので、私もそうした。

 ちなみに、周辺諸国に銃がないことは確認済み。

 逆に言えば、周辺諸国のことしか知らない!

 しばらく周囲はガヤガヤとしていた。

 火縄銃すごいって話と、私らすごいって話が多い。


 中にはローレッタ可愛い、娘に欲しいと言った奴がいた。

 絶対にやらん。

 ローレッタが欲しければ私を倒せ。

 とか思っていたら、私を可愛いと言ってくれる人も。

 えへへ。

 領兵の奴ら、今度特別な訓練を施してあげようかな!

 褒めてくれたお礼に!

 私がニヤニヤしていると、エリックが寄ってきた。


「ところでミア様、設計図は幾らですかな?」

「金貨20枚でいいよ! じゃない、いいですわ」

「分かりました。では来月の予算で支払いましょう」

「え? 来月?」


 私が呟くと、エリックが頷く。


「今月分の予算はすでに用途が決まっておりますでな。できれば金貨20枚も分割がいいと、会計の連中は言うでしょうな」


 うちは豊かな領地なのに!

 案外、予算運用に厳しいっ!

 戦闘服、早く欲しかったのにっ!


「そう言えば、ミア様は兵士や騎士に興味があるとか?」


 複雑な表情をしている私に、エリックが優しい声をかけた。

 私が頷くと、エリックが微笑む。


「今度、中央騎士団と合同訓練を行うのですが、よろしければ、ミア様にも参加して頂き、挨拶などをして……」

「是非やらせてくださぁぁぁい!! 参加します!! 私、喜び勇んで参加しますぅぅ!」


 後半はよく聞こえなかった。

 けど、中央騎士との訓練に参加できると聞いて、私は舞い上がった。

 私はウッカリ、エリックに抱き付いてしまった。

 そしてセシリアが慌てて私を引き剥がす。

 余計なことを言いやがって、という表情でセシリアがエリックを見ていた。


「中央騎士どもを打ち倒すのだぁぁ!!」

「いい機会ですねお姉様! 我がローズ領こそ最強だと、中央の有象無象どもに分からせてやりましょう!!」


 私とローレッタが腕を突き上げる。

 そうすると、領兵のみんなも「おお!」と腕を上げた。


「待て待て」兵団長が言う。「我々は関係ないぞ。合同訓練をするのは騎士様たちだ」


「いや兵団長! その気持ちが大事なんだよ!」


 私が力説。


「そうです! みんなでローズ領を最強の領地にしましょう!」


 ローレッタが言うと、領兵たちが再び腕を突き上げる。


「私もどんどん新しい改革や武器を考えるからね! 君たちも日々、訓練に励んでくれたまえ!!」


 私が叫ぶと、領兵たちが「分かりました!」と声を揃えた。

 ああ、声が揃ってるの超気持ちいい!


「返事は『はいミア様!』だ!」


 私は調子に乗って言った。

 でも領兵のみんなは私に合わせてくれる。


「「はいミア様!」」


 ああああああ、気持ちいいよぉぉぉぉぉ!!

 軍隊っぽくて、ってゆーか軍隊だけど!!!

 将来は領主兼、兵団長になるのも悪くないね!!

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