11話 はっはー! クズは銃殺だぁ!


 侍女2人は部屋に入って、最初にベッドを確認した。

 銀髪ショートの侍女がホッと息を吐いた。

 青い髪を1つに結んでいる方は、舌打ちした時のような表情だった。


「銀髪の方は出て」


 私が言うと、銀髪ショートの侍女が首を傾げた。


「出てて」


 ノエルが上目遣いでお願いすると、銀髪の侍女は少し照れてから部屋を出た。

 くっそ!

 ノエルの上目遣いは可愛いなくっそ!

 ああ、くそ!

 私は視線を青い髪の侍女に向けた。


「私に何か用ですか? ミア様」


 青い髪の侍女が言った。

 私と侍女の視線が交わっている。

 侍女の瞳は髪と同じで青だった。

 年齢は20代半ば。

 この年齢で侍女をしているということは、たぶん未婚。

 この世界では23歳以上で独身の女性は行き遅れと呼ばれるので、普通はそれまでに結婚するのだが。


「婚約者はいるかね?」


「いいえ」侍女が首を横に振った。「ですが、私に相手は不要ですミア様。取り持って頂く必要はありません」


「独身を貫くつもりかね?」

「いえ……そうではなく、私には思い人がおります」

「その人物と添い遂げたい、と?」


 私が聞くと、侍女が照れた風に微笑んだ。

 ふむ。これがあれかな?

 ヤンデレってやつ?

 違うかな?


「でもその人は結婚している?」


 私が言うと、侍女が少し驚いた風に目を丸くした。


「どうでしょう。けれどミア様、私はいつか、彼が真実の愛に気付くのを待っているのです」


 侍女は両手を自分の胸に当て、幸福そうに言った。

 ヤンデレというか、恋愛中毒患者か?

 障害のある恋に勝手に燃え上がっちゃった系?


「真実の愛……ですか?」


 ローレッタが明らかに不愉快そうな表情で言った。

 私が青い髪の侍女だけを残した時点で、ローレッタは犯人がこっちの侍女だと察している。

 たぶんノエルも察しているだろう。

 ふとノエルの表情を見ると、かなり複雑だったので何を思っているのか正確には分からない。

 でも、酷く辛そうなのだけは分かった。


「はいローレッタ様」と侍女は大きく頷いた。

 

「好きな相手の妻を毒殺して」私は椅子から立ち上がる。「悲嘆に暮れさせるのが愛? 笑わせるな。恋愛経験のない私でも、君のそれが愛じゃないと分かる」


 私が言うと、侍女はノエルの母を見て、それから私を睨んだ。


「私は【全能】の魔法使い」私は両手を広げて言う。「君が毒を盛ったことを知っている。だから面倒はよそう。自首したまえ。そうすれば、命だけは助けてあげるよ?」


 私は念のため、右手に銃を仮創造した。

 ちなみにだが、『H&K SFP9』という拳銃だ。


「子供には分からないのでしょうが、真実の愛は時に大きな試練を与えられます」

「今がその試練だって?」


 物を仮創造する魔法は割と魔力を喰う。

 例えばこの拳銃だと、作るのに魔力を50消費する。

 しかも1分間に1ずつ、維持するための魔力まで取られる。

 更に更に!

 弾丸も1発につき1の魔力を消費するのだ。

 逆に言えば、魔力が尽きるまで撃ち続けられるという利点でもある。


 今の私には無理だけど、膨大な魔力を注げば普通に物質化してずっと残す物を創造することも可能だ。

 椅子を魔力で作って、普通の椅子と同じように売却できるってこと。

 ちなみに、私の魔力量は初めて測定した時から比べると倍近くまで増えている。

 超回復させまくったからだ。


「私は自首しません。なぜなら、私は正しい行いをしているからです」


 侍女は自信に満ちた声で言った。

 私は銃口を侍女に向けた。

 でも侍女は特に気にしていない。

 当然だ。

 この世界にはまだ銃がないので、誰もその恐ろしさを知らないのだ。

 あ、ローレッタは別。

 私がすでに教えたから。


「ママを! ママを殺すのが! 正しい行いって言うの!?」


 ノエルが悲鳴みたいに言った。

 外で待機している護衛騎士がドアをノックした。


「ミア様、大丈夫ですか?」

「問題ないよ。入らないで」


 私がドアに視線を向けたその時、侍女がさっと移動してローレッタを左手で抱き上げた。

 ローレッタもドアを見ていたので、反応できなかった。

 侍女は右手に果物ナイフを持っている。


「ほう。なかなか、肝は据わっているようだね」


 私は少し楽しくなった。

 位置関係的に、侍女がローレッタを狙ったのは正しい。

 私には一歩届かなかっただろうし、ノエルは私よりも後ろだ。


「なぜ護衛騎士を入れないのでしょう?」


 侍女は私を警戒しながら言った。


「必要がないからだよ。単純に、明快に、別に私に護衛なんていらない。ローレッタにもいらないし、ノエルは私が守るから問題ない」

「ローレッタ様は私の手の中です」

「だから?」


 私が問うと、侍女は返答に詰まった。

 そりゃそうだ。

 バレた時点で侍女は詰んでいる。

 自首するか自殺するか、あるいは私に殺されるかしか選択肢がないのだ。


「君は逃げない。だって、愛しのダライアスがこの家にいるからね」


 今は仕事中だからいないけれど。


「旦那様?」侍女が目を細めた。「ミア様は勘違いしていますね」


「勘違い? えっと?」


 もしかして好きなのノエルの母ってこと?

 好きだけど結ばれないから殺すとか、そういう系?

 私はちょっと混乱した。


「私が愛しているのは、ノエル坊ちゃまです」


 侍女は明朗な声で言った。

 その発言には、私もローレッタも驚いた。

 当然だが、ノエルも驚いている。


「私がノエル坊ちゃまの母になるのです! ああ、可愛い可愛いノエル坊ちゃま!」


 ヤバい、こいつ変態だ。

 ショタコンってやつだ。

 ああ、くそ!

 さすがにそっちだとは思わなかった。

 私だってノエルは可愛いと思うけど、私は肉体的にはノエルと同い年だ。

 精神的には、あまり侍女のことを言えないけどさ!

 むしろ私の方が年上……いや、年齢の話は止そう。


「ノエル坊ちゃま、ローレッタ様の命が惜しければ、私と一緒に家を出ましょう!」


 侍女が恍惚とした表情で言った。

 自分の世界に入り込んじゃった感じだ。

 ノエルはと言うと、「ひっ」と小さな声を上げて私の背中に隠れた。

 ああん! 可愛いなぁノエル!

 いや、気持ちは分かるけどね?

 怖いよね。

 女性恐怖症とかにならなきゃいいけど。


「そんな風に迫っては、殿方は怖がってしまいます」ローレッタが淡々と言う。「殿方は繊細なのです」


「ノエル坊ちゃま! ミア様の背中から出てください! これからは私が守ります!」


 侍女はローレッタの言葉を無視した。

 しかしノエル、さすがは攻略対象者。

 モテモテ過ぎるわ。


「自首はしないんだね?」

「当然です! 私はノエル坊ちゃま、いえ、ノエルと幸せに暮らすのですから!」


「そうか。君に感謝するよ。名前も知らないけれど、ありがとう」私は薄く笑った。「時々ね、無性に人を撃ちたくなるんだよ。だから君みたいな、気持ちよく殺せるクズがいてくれて嬉しいよ」


 ふふっ、私ってね、本当にくそったれの傭兵なんだよね。

 こんなんだから、専守防衛の自衛隊をドロップアウトしちゃったんだけどね。

 私は引き金を絞った。

 銃声が狭い部屋に響く。

 硝煙の香りが心地よい。

 弾丸は侍女の額をぶち抜いて、侍女が引っくり返る。


 ローレッタは侍女の力が抜けた瞬間に、スルリと彼女の腕から抜け出した。

 護衛騎士たちが飛び込んできて、ノエルの母親が勢いよく身体を起こした。

 まぁ、銃声ってうるさいからね。

 私は慣れているし、割と好きだけどさ。

 ノエルを見ると、両手で耳を塞いでいた。

 ローレッタも小さく首を振ったり、顔を歪めたりしている。

 でもローレッタは銃を知っているから、ノエルほどのショックは受けていない。


「ミア様! 何事ですか!?」


 護衛騎士が言った。

 私は順を追って今の状況を説明した。

 ちなみに拳銃はもう消した。


「私は殺人罪に問われるかね?」


「いえ、それはありませんミア様」騎士が言う。「その侍女は公爵令嬢であるローレッタ様を人質にした。であるならば、死刑が順当です。ローレッタ様が望むなら、連座で侍女の家族も処刑可能です」


「そこまでする必要はありません」


 ローレッタが慌てて言った。

 ちなみに、ノエルは目を覚ました母に抱き付いてる。


「じゃあ、一件落着ってことかな」と私。


「ミア様」


 セシリアが酷い形相で私を見下ろしている。


「なぜ、護衛騎士に頼らなかったのですか!?」


 そこから、セシリアの激しいお説教が始まってしまう。

 だって護衛とか別にいらないし、自分でスッキリ解決したかったんだもん!

 なんて言い訳はもちろんしない。

 セシリアのお説教が一息吐いた時に、ノエルの母が申し訳なさそうに口を挟んだ。


「ミア様、ローレッタ様、わたくしを救って頂き、ありがとう存じます」


 ノエルの母はとっても丁寧で、優しい口調で言った。

 

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