5話 毒を吐いても可愛い義妹


「まずは魔法について、いくつか注意点があります」


 応接室のソファに座ったダライアスが言った。

 ダライアスの隣にはノエルも座っている。

 文官は立ったままだ。

 ちなみに、ノエルは現時点で魔法士の称号を持っているそうだ。

 さすが、親が魔法省の課長だけある。


 私はニマニマしながらノエルを見ているのだが、ノエルは私と目を合わさない。

 私の隣に座っているローレッタが、こっそり私の太ももを抓った。

 私は痛みで飛び上がりそうになったけれど、我慢した。

 ダライアスたちは気付いていない。

 私とローレッタはダライアスたちの対面に座っているのだが、間にテーブルがある。

 で、ローレッタはテーブルの下で私の太ももを抓ったから見えていないのだ。


「魔法は正しく使わなければ、危険な場合もあります」ダライアスが言う。「ですので、基本的には魔法学園で習うか身近な魔法士に習うまでは使用しないでください」


 あっはー。

 すでに使用済みですけれど?

 ちなみに魔法学園というのは、中央にある魔法使い専用の学園だ。

 貴族も平民も関係なく、魔法士は12歳になったら全員そっちに通うことになる。


「お2人はすでに使ったという話ですが、今後はきちんと誰かに教わるまで使わないようお願いします」


 私とローレッタが頷いた。

 まぁ使うけどね。


「では早速、測定をしますね。ミア様から」


 ダライアスは穏やかな笑みを浮かべて、私に右掌を向けた。

 その掌に魔法陣が浮かぶ。

 私自身は、特に何も感じない。


「……バカな……」


 ダライアスの表情が驚愕に歪む。

 空気が張り詰めたので、みんながダライアスを見た。


「こんなことが……そんな……建国の英雄と同じ属性……」


 ダライアスは微かに震えながら言った。

 ダライアスには私の属性が見えているのだろう。

 どんな風に見えているのかは謎だけれど。

 立体映像みたいに属性と魔力量が浮かんでたりするのかなぁ。


「ミア様」


 ダライアスは手を下ろして真剣な表情で私を見た。

 私は小首を傾げた。


「ミア様の属性は、【全能】です」


 ダライアスが言うと、文官がギョッと目を剥いた。

 たぶん、私の背後に立っているセシリアや他の侍女たちも同じだろう。


「魔力量は平均的な56となりますが、とにかく属性がとんでもない……」

「まぁ! さすがお姉様!」


 ローレッタはすごく嬉しそうに言った。

 ノエルもビックリしたような表情で私を見ている。


「その属性について、わたくしに分かるよう説明していただけますのかしら?」


 私は【全能】なんて知りませんという風に振る舞った。


「端的に言いますと、何でも可能な属性です」

「まぁ! わたくし、何でもできますの?」


「あ、いえ、実際には制限があります」ダライアスが言う。「まず、高度な魔法には相応の魔力が必要となります。それと、イメージや固定観念によっては不可能なこともありますね」


「では、魔力が無限大で、イメージが自由自在でしたら、何でも可能ということですの?」

「そうなります。ただ、人間の観念は簡単には覆りません。剣で斬って回復する、というイメージは湧かないかと思います」

「なるほど」


 私は頷いたけれど、手術とかってメスで切るんだよね。

 切って治すって割とイメージできちゃう。


「魔力、目的、イメージの3つが魔法には必須です」ダライアスが言う。「どれか1つでも欠ければ、魔法は発動しません。魔力の消費に関しては、ご自分で少しずつ理解するしかありません。同じ目的でも属性によって消費魔力は違いますし、イメージしたものによっても違いますから」


「分かりました。教えていただいて、ありがとう存じます」


 私は小さくお辞儀した。

 ローレッタがキラキラした瞳で私を見ている。

 ノエルも同じような瞳だった。

 私は少し照れたけれど、同時に誇らしかった。


「では次に、ローレッタ様の測定をしますね」


 ダライアスが右掌をローレッタに向ける。

 魔法陣が浮かび、しばらくするとダライアスが手を下げる。


「ローレッタ様は【風雷】属性です。魔力量は少し多めの66となります」


 ちなみにだが、ゲーム開始時点の主人公の魔力量は400だった。

 ゲーム内では999まで上げられる。

 かなり尖ったプレイになるけれど。


「風と雷ですね。扱いやすそうです」


 ローレッタが嬉しそうに微笑んだ。


「ダライアスさん」私が言う。「魔力量を増やすには、どうすればよろしいのかしら?」


「そうですねぇ。まずは身体の成長とともに、自然に伸びます。それ以外ですと、魔法を使うことでしょうか」

「使うこと、ですの?」


 もちろん知っている。

 ゲームのコマンドに魔法の訓練というのがあった。

 ノエルと出会うのに、ある程度の魔力が必要なのだ。

 ちなみに攻略方法は確か。

 魔法の話、母親っぽく振る舞う、ハンバーグを作ってあげる。

 この3つが鍵だったか。

 幼くして母親を亡くしたノエルは、性格が捻くれる。

 でも実は母の影をいつも探している。

 だから、母親っぽい選択肢は大抵の場合、正解なのだ。

 今はまだ、素直そうだから母親は健在なのかも。


「魔力が消費され自然回復する際に、少し増えるのです。我々はこれを超回復と呼んでいます」


 あっはー。

 筋肉みたい。

 まぁそれも知ってたけど。

 魔力量を伸ばすのは、割と地道な作業なんだよね。

 せっかくだし、限界まで伸ばしてみよう。


 えっと、今の私の目標を整理しよう。

 公爵令嬢人生を楽しむことは大前提として。

 まずはローレッタを立派な軍人か何か、とにかく戦える女の子に育てること。

 私自身も、強くないと嫌なので強くなること。

 どうせなら騎士の称号でもゲットしてみようかな。


 それから、ローレッタが悲しまないように両親の過労死を回避すること。

 その過程で領地運営を調べて興味が出てきたので、領主ライフはありかもしれない。

 我がローズ領を最強の戦闘領地にするとか面白そう。

 私には【全能】もあるし、富国強兵できると思う。

 最後に、魔力量を限界まで伸ばしたい。

 せっかくの【全能】属性なので、色々なことができるように。


「他に質問はありませんか?」


 ダライアスの問いに、私は「大丈夫です」と言った。

 ローレッタも「大丈夫です」と頷く。


「それでは、我々はこれで」


 ダライアスが立ち上がる。

 ノエルも立ち上がった。

 ああ、くそ。

 ローレッタの恋を応援してあげなきゃ。


「あ、あの」私は勇気を振り絞る。「ノエル君」


「は、はいミア様」


 ノエルが少しビクッとなった。


「よろしければ、文通など、いかがでしょう?」


 私の言葉に、ノエルは少し驚いたような表情を見せた。

 ローレッタがまたムスッとした。


「あ、ローレッタと一緒に手紙を書くので、返事を頂けると、嬉しいです」


 大丈夫だよローレッタ!

 主役はローレッタだよ!

 私なんて添え物みたいなもんよ。

 私とか見た目は可愛いけど悪役令嬢だし、中身は傭兵だし。

 それに比べて、ローレッタは外見も内面も超最高。

 私が男だったら速攻で惚れるね。


「もちろんですミア様、ローレッタ様」ノエルは嬉しそうに笑った。「僕と友達になってくれて、ありがとう存じます」


 あっはー!

 可愛い! はい可愛い!

 私の無礼はもう許してくれたみたいだね。

 その後、私たちはノエルたちを見送った。


「それにしても、ローレッタがノエルを気に入るとはね」


 私は何の気なしに、ローレッタにそう言った。


「はぁ? お姉様のお綺麗な若草色の瞳は節穴なのですか?」


 超絶可愛い笑顔で毒を吐かれた。

 ああん! 毒を吐くローレッタ可愛い!

 なぜ急に毒を吐かれたのか分からないけれど。

 ノエルを狙うライバルだと思われたのかな?


「大丈夫だよローレッタ。私は応援するから!」


 私が言うと、ローレッタは大きな溜息を吐いた。


「お姉様、あたしが好きなのはお姉様です。勘違いしないでくださいませ」


 ローレッタは真面目な顔で言った。

 何これ超可愛い!

 私が好きなんだって!

 シスコンか!!

 お姉ちゃんを取られると思ってムッとしてたの?

 可愛い! はい可愛い!

 まぁまだ恋愛の好きはローレッタには早かったか!

 恋愛経験ゼロの私が言うのもなんだけど。

 私はローレッタを抱き締めて、背中をナデナデして頭もナデナデした。

 ローレッタは気持ちよさそうに目を瞑っている。

 とりあえず、ノエルとは普通に友達付き合いをする方向に切り替えだね。

 

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