4話 魔法使いの男の子
侍女たちが私とローレッタを上手に着飾った。
いつもの三倍増しぐらいでローレッタが可愛い。
桜色の髪がハーフアップになっている。
ちなみに私の今日の髪型はツーサイドアップだ。
私たちは応接室で魔法省ご一行の到着を待っていた。
割と緩い雰囲気で、のんびり待っていた。
私とローレッタはソファに座っている。
私はローレッタに水陸両用基本訓練課程の話をしたり、レンジャーの話をした。
ローレッタは興味深そうに聞いている。
「お嬢様方、お願いですからその訓練は止めてください」
セシリアが苦笑いしながら首を振った。
「お屋敷の庭でなら、剣術ゴッコも兵士ゴッコも構いませんが、山や海に行って訓練するのは本当に止めてください」
「でもフル装備で最低5キロは泳げないと、いざと言う時に困るよ?」
「そんな時はありませんミア様」
「それと、8メートルの高さから飛び込む訓練もしておくと、追っ手から逃走している時に崖があっても、迷わず飛び込めるよ?」
「誰に追われているんですかミア様は」
セシリアが疲れた風に長い息を吐いた。
ちょうどセシリアが息を吐き終わった時に、侍女が応接室に入って来た。
「魔法省の者たちが到着されました。ミア様、ローレッタ様、お出迎えを」
侍女が言って、私とローレッタが立ち上がる。
「いいですかミア様?」セシリアが言う。「ローズ家の当主代行として、恥ずかしくない振る舞いをしてくださいね? 特に言葉使いは気を付けてください」
「大丈夫。いずも型護衛艦に乗った気持ちでいてくれていい」
「なんですか護衛艦って……不安です」
セシリアが小さく頭を振った。
私はローレッタと手を繋いで、屋敷の玄関に向かう。
こんな時でも、うちの両親は顔を見せない。
マジでどんなブラック企業だよ。
玄関には魔法省ご一行がすでに待っていた。
メガネの人と、文官が1人。
たぶん外に護衛騎士もいるだろう。
私とローレッタが立ち止まる。
少し後ろにセシリアも控えている。
よし、頑張って挨拶だ。
「ようこそ皆様。お初にお目にかかります。ローズ公爵家、当主代行のミア・ローズでございます」
私はローレッタの手を離し、自分のスカートを摘まんで小さくお辞儀をした。
「妹のローレッタ・ローズと申します。本日はよろしくお願いいたします」
ローレッタも同じように挨拶。
「ご丁寧な挨拶、ありがとう存じます」
メガネの人物が言った。
「僕はダライアス・クリスタル準男爵です。魔法省の魔法士登録課の課長です」
ダライアスは30歳前後の男性で、ライムグリーンの髪。
なんか、見たことあるような顔立ちだ。
まぁいい。
それより大事なことがある。
「では失礼して」
言いながら、私はダライアスの身体を触り始めた。
ローレッタは文官の身体を触る。
私とローレッタ以外の人たちがギョッと目を剥いた。
「お、お、お嬢様!? 一体、何をしているのですか!?」
セシリアが引きつった声を上げる。
「武器を持っていないかチェックしているんだよ。うん。大丈夫みたいだね」
「こちらも大丈夫ですお姉様」
「よろしい。では応接室に案内いたしますね」
私はニッコリと微笑んだ。
セシリアが「大変、申し訳ありません」とダライアスに謝った。
なぜ謝る?
武器の有無はチェックするべきだと思うけれど。
ボディチェックもなしに見知らぬ人物を屋敷に入れるのが、こっちでは普通なのか?
それとも、すでに警備の領兵が門前でチェックを済ませているのか?
「ふふっ、知らない大人だからね、僕たちは」
ダライアスが生温かい目で私たちを見た。
まぁいいや、案内しよう。
そう思った時、うちの領兵と一緒に6歳ぐらいの男の子が玄関に入ってきた。
ダライアスが気配に振り返って、「ダメじゃないかノエル。馬車で待ってなさいって言っただろう?」と優しい声をかけた。
ノエル?
「ごめんなさいパパ……でも僕、寂しくて」
そう言った男の子は、ダライアスを上目遣いで見て、両手を胸の前で組んだ。
え? 何この生物、めっちゃ可愛い!
クリックリの紫の瞳に、ダライアスと同じライムグリーンの髪。
髪型はミディアムアシンメトリー。左の方が右より長い。
てゆーか。
私の好きな攻略対象者、魔法使いのノエル・クリスタルじゃん!!
子供だからパッとは分からなかったけど!
ゲーム開始時の彼は18歳だからね。
「すみませんミア様、少しお待ちを……」
ダライアスが私に向き直ったのだけど、私は聞いていなかった。
私はものすごい勢いでノエルの両手をガシッと掴んだ。
「初めまして!! ミアです!! ミア・ローズでぇぇぇす!! 友達になりましょう!! 友達!! 好きな反政府勢力はどこですか!?」
私はノエルの手をブンブンと振り回す。
ああ、くそ!
ノエルのお手々、柔らかーい!
ふへへ!
攻略対象者、子供でもマジくそ可愛い!
「お、お嬢様!! いけませんお嬢様!!」セシリアが私をノエルから引き剥がす。「そんな風に殿方の手を掴んではいけません!! はしたないことです!!」
セシリアの怒声で、私は正気を取り戻す。
ダライアスを見ると、ポカーンと口を半開きにしている。
ローレッタを見ると、ムッとした表情で私を見ている。
ああ、これやらかしたわ。
ローズ家の恥を晒したぁぁぁ!!
でも、ムッとしたローレッタ可愛い!!
そして恐る恐るノエルに目をやると、顔を真っ赤にして怒り狂っている。
やっべぇ。
魔法使いルート、私かなり酷い目に遭うんだよね。
主人公の力を借りて、ノエルは超強力な魔法で私の心を壊すのだ。
ちなみに主人公の属性は【強化】である。
何でも強化できる。
魔法でも腕力でも。
みんなに好かれるチート属性なのだ。
で、私がどんな酷い目に遭うかと言うと、私が今まで行った仕打ちの全てを、私が精神世界で受けるという因果応報、廃人エンドである。
極悪非道、冷酷無比な私も、自分が行った残虐行為全てには耐えられなかった。
なぜなら精神は小物だから。
今の私ならどうだろう?
一般人よりメンタルは強いけど、ダイヤモンドってわけじゃない。
前世の団長なら、きっと涼しい顔をしているのだろうけど。
まぁ、廃人になった程度では許されず、私はきっちり最後にはギロチンにかけられるけれど。
ああ、くそ!
ノエル大好きだけど、今のうちに始末した方が私は安全か?
どうすればいいんだ?
「お姉様」ローレッタが怒った風に言う。「そちらのノエル君と、お友達になりたいのですか? 本当にお友達ですか? お友達ですよね?」
うん。
勢いで、つい。
分かってるよローレッタ。
お友達になる相手に取る態度じゃなかった、って言いたいんだよね?
「お嬢様、まずは謝罪を」セシリアが言う。「お嬢様の方が立場は上ですが、だからと言って無礼な行為が許されるわけではありません」
よし。
謝って許して貰おう。
このまま嫌われたら、廃人エンドだ。
いや、まぁ、返り討ちにするけどさ!
好きなキャラはなるべく殺したくないし!
私は傭兵なので、殺意を持った相手と戦えば、容赦なく殺せてしまう。
好き嫌いも善悪も関係なく、ただ殺せてしまう。
「も、申し訳、ありませんでした。その、ノエル君が、あまりにも可愛かったので、つい……」
私が言うと、ノエルは更に顔を赤くした。
なんてこった。
怒りが増したじゃないか。
ああ、くそ。
前世の傭兵団でも学んだじゃないか。
男どもに可愛いなんて言ったら、「バカにしてんのかテメェ!」と喧嘩が始まった。
「ぼ、僕は大丈夫です、えっと、ミア様……」ノエルが微笑む。「僕も、ミア様と、お友達になりたいです」
これ喜んでいいんだよね?
社交辞令?
怒りは収まってなさそうだけど、それでも大人な対応をしてくれてる感じ?
「ローレッタ・ローズです」
なぜかローレッタが私とノエルの間に入った。
「あたくしとも友達になりましょうね?」
あれ?
もしかしてローレッタ、ノエル狙い!?
好きなキャラだけど、ローレッタがノエルルート行くなら、お姉ちゃんは応援するよ?
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