3話 各種お勉強


「お屋敷周辺、異常ありませんお姉様!」


 ローレッタがビシッと気を付けをして報告した。


「よろしい。屋敷内部にも異常はなかった。これより近接戦闘術の訓練を開始する」


 私が構えると、ローレッタも構えた。

 私が初めて魔法を使ってから、すでに10日が経過している。

 ちなみに、場所は屋敷の裏庭。

 午前中。

 私とローレッタが戦闘を開始。

 近くに立っているセシリアは、もう何も言わない。

 私たちを説得するのを諦めたのだ。

 しばらく殴る蹴るの攻防を楽しんでから、私はローレッタの手首を捻る。

 ローレッタが地面を転がるが、ちゃんと受け身を取った。

 ローレッタはかなり筋がいい。

 これは立派な軍人になれる。

 いや、軍人でなくても、冒険者でも何でもいいけど、戦う系の職業に向いている。


「よし、次は木剣を使った剣術の訓練をしようか」

「はいお姉様」


 ローレッタが起き上がりながら言った。


「ダメです」セシリアが寄ってくる。「今日はこれから、一般教養のお勉強をします。昨日、言ったはずですが?」


「そうだったね。忘れてたよ。今日は何だい?」


 一般教養と言っても、割と幅が広い。

 私は公爵令嬢生活を楽しむために、勉強も真面目にやっている。


「貴族とその役目など、お嬢様たちにも大いに関係する話です」


 私たちは屋敷内に入った。

 水を飲んで喉を潤してから、リビングへ移動。

 私とローレッタが並んでテーブルに座る。

 紙と万年筆を用意したセシリアが私たちの対面に座った。

 セシリアは一般教養の先生でもあるのだ。

 セシリアは平民だけれど、ちゃんと教育を受けている。

 平民にも学校はあるのだ。


「まずは公爵についてお話しましょう」セシリアが言う。「我が国において、公爵とは公爵領を治める領主に与えられる爵位です」


 私とローレッタが頷く。


「我がハウザクト王国は14公爵領と1つの直轄領からなる国です。では問題。公爵家はいくつあるでしょうか?」

「14です」


 ローレッタが即答。

 ローレッタって、戦闘のセンスだけでなく頭もいいのだ。

 その上、可愛いのだからもう最高。


「正解です。公爵家の中には1つだけ、王公爵家があります。こちらは王家の分家ですので、お嬢様たちより家格が高くなります」

「王家に何かあった時に、王公爵家が次の王になるとか?」


 ゲームでは私に従っていたはず。

 刃向かう者は皆殺しの精神だったからね、私。


「その通りですミア様。ですので、同じ公爵の枠内ですが、接する時は気を付けましょう」

「「はぁい」」


 私とローレッタの返事が重なった。

 ちょっと嬉しい私である。


「さて次に、ローズ家において公爵は旦那様だけです。お嬢様たちはあくまで、公爵令嬢ですし、奥様は公爵夫人となります。まぁ、扱いは公爵に準ずるものですけれど」


「お爺さまは?」と私。


「大旦那様は、すでに引退しておりますので準男爵となります。こちらは当代貴族号と言って、誰にも受け継がれない爵位です」セシリアが言う。「ついでなので、当代貴族号3爵を教えておきます。準男爵、騎士、魔法士がそれに当たります」


 準男爵以外は分かりやすいね。

 セシリアは紙にそれぞれの当代貴族号を書いた。


「まず、騎士はそのままですね。厳しい試験をパスして騎士団に入った者に与えられる爵位です。魔法士は魔法使い全員に与えられます。ですので、お嬢様たちも測定が終われば、正式に魔法士の爵位が与えられます」


 通称、魔法使い。

 それぞれの説明も、セシリアは紙に書いてくれる。


「準男爵は爵位を継げなかった者や、引退した者に自動的に付与されるものです。あとは、能力の高い平民が要職に就く場合に与えられることもあります。この当代貴族号3爵に優劣はありません。3つとも同じ身分で、貴族号3爵よりも下です。大丈夫ですか? 理解できていますか?」


 私とローレッタが頷く。


「では貴族号3爵について。上から順に公爵、伯爵、男爵です。公爵領の中に伯爵領が2つ以上、伯爵領の中に男爵領が2つ以上含まれます。ここで問題です」セシリアが微笑む。「我がローズ領に、伯爵領はいくつでしょう?」


「2つですか?」とローレッタ。


「はい。正解です」


 公爵はあれかな、日本で言うところの県知事みたいなもんかな?

 公爵領=県みたいな?

 その後も、爵位や領地についての講義を聴いて、お昼ご飯の時間になった。


「にぇえ、へひひあ」

「ミア様、食べながら喋らないでください。公爵令嬢にあるまじき行為です」


 給仕をしているセシリアが少し怒った風に言った。

 私は飲み込んでから、言う。


「お城に行きたいんだけど、勝手に行ってもいい?」


 屋敷での情報収集はもう終わった。

 父の書斎に勝手に入って、資料や本を読んだ。

 それで、両親の仕事内容や領地運営のシステムはある程度分かった。

 あとは実際に現場を見たい。

 それと、領地運営省の中の法務庁に用事がある。

 なんとなく、両親が忙しい理由は掴めているので、改善案が法的に問題ないか調べたい。

 書斎には法務関連の資料や本はなかった。


「勝手に行ってはいけません」セシリアが溜息交じりに言う。「先触れを出しておきますので、明日の14時に家を出ましょう。護衛騎士の手配も必要ですね」


 セシリアは食堂の壁に待機している侍女にいくつか指示を出した。


「騎士に会えるの、楽しみですね」


 ローレッタはニコニコと言った。

 私も笑顔を返した。

 まぁ、ぶっちゃけ護衛なんていらない。

 私と連携できないから、きっと邪魔になる。

 私が、じゃなくて騎士たちが。

 でもローレッタが嬉しそうだから、特に何も言わない。


「ああ、そうだセシリア。騎士と領兵の違いについて話しておくれ」私が言う。「領兵が平民で、騎士が当代貴族であること以外に。例えばその職務の違いとか」


「はいミア様」セシリアは嬉しそうだ。「騎士は要人の護衛、領兵は場所の警備が主です。戦争や魔物狩りなどでは、騎士が領兵を率います」


 なるほど。

 騎士が士官で、領兵が下士官と兵みたいな感じか。

 と、侍女が1人、封筒とペーパーナイフを持って食堂に入った。

 そしてセシリアに封筒とペーパーナイフを渡す。


「大旦那様からの返信ですね。宛先がわたくしなので、開封しますね」


 セシリアはペーパーナイフで丁寧に封筒を開封。

 中身の手紙を読んでから、セシリアは私たちに向き直る。


「大旦那様の手配で、魔法省の方がお嬢様たちの測定をしに来るそうです」

「ほう。お爺さまはせっかちだね」


 10歳で行われる通常の測定まで待てなかったようだ。

 まぁ、可愛い孫が魔法を使えるのだから、早めに属性とかちゃんと知りたいのだろう。


「いつ来るのでしょうか?」とローレッタ。


「予定では明日ですので、お城に行く日を明後日に変更しましょう」

「「了解」」


「ミア様、ローレッタ様、兵士のような言葉遣いはやめましょう」セシリアが苦笑い。「午後は言葉遣いの授業をしましょうね。お城に行くなら、多少はできた方がいいでしょう。魔法省の方とも話しますしね。年齢的に、それほど厳しい目では見られないと思いますが、一応」


「了解」

「ミア様……今のはわざとですね?」


 セシリアが私を睨む。

 私は肩を竦めながら笑った。


「まぁ、公爵令嬢に相応しい言葉遣いは、お茶会デビューまでにできればいいです」セシリアが小さく首を振る。「8歳前後ですね」


 私とローレッタは、セシリアの割と厳しい指導で、お嬢様言葉をいくつか覚えた。

 正直、くすぐったい言葉遣いだ。

 前世の仲間たちが聞いたら、絶対に爆笑する。

 そして私がキレて喧嘩が始まるのだ。

 とはいえ、今世の私は公爵令嬢。

 人生を楽しむためには、妥協も必要だ。

 そして、お嬢様言葉で喋るローレッタは超絶可愛かった。

 あまりの可愛さに胸がキュンキュンした。

 この時の私は、まだ知らないのだ。

 明日、攻略対象者の1人と会ってやらかすことを。

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