2話 妹は順調に育ちそうです
「ミア様、屋敷に罠は仕掛けられておりません」
セシリアが呆れた風に言った。
「いや、それは分からない。可愛いローレッタを狙う刺客だっているかもしれない」
私は毎朝、ローレッタを連れて屋敷内をくまなく調べた。
ついでに、ローレッタに罠や刺客の対処法を教えている。
ローレッタが我が家にやってきて、すでに5日が経過している。
「ミア様、屋敷に刺客はおりません」
私たちとずっと一緒にいるセシリアは、ほとんど親代わりだ。
「父様と母様に政敵がいるかも」
「政敵はおりませんミア様。どうか安心して過ごしてください」
「じゃあ、ローレッタを見たロリコンが拉致しに来るかも」
私はローレッタの手をギュッと握っている。
「領兵が門前で警備をしているから安心ですミア様」
屋敷内と庭、全てを巡回してから、私たちは朝食を摂った。
そして一般教養の授業を受ける。
終わったら私はローレッタとストレッチを開始。
続いて筋トレ。
更には近接戦闘術をローレッタに教える。
「ミア様、公爵令嬢は戦わなくても大丈夫です」セシリアが言う。「出かける時は護衛騎士を呼びます」
「万が一、ということがある」
私は可愛いローレッタを戦えるようにしてあげるのだ。
ちなみに、私たちは裏庭にいる。
季節は秋。涼しい午後の日常。
ちなみにこの国、ハウザクト王国は島国で四季がある。
日本のゲームなので、色々と日本準拠な部分が多い。
もちろん違う部分もある。
1日は24時間。1年は365日。
だけれど、1ヶ月は28日で13ヶ月の364日。
1日足りないけれど、日本で言うところの元旦を『時の外の1日』として追加。
合計365日である。
ちなみにこの『時の外の1日』で、全員一緒に歳を取る。
個別の誕生日が存在しない世界なのだ。
「ローレッタ様も、無理にミア様と格闘ごっこをする必要はありません」
「あ、あのセシリアさん……」
「ローレッタ様は公爵令嬢です。わたくしのことはセシリアと呼び捨てになさってください」
「は、はい。えっと、セシリア、あたしはお姉様と訓練するの楽しいです……」
「よく言ったローレッタ!」私は嬉しくなってローレッタの両肩に手を置いた。「立派な水陸機動団……じゃない、傭兵……じゃない、えっと、一緒に敵を倒せる立派な公爵令嬢になろう!」
「立派な公爵令嬢はもっとお淑やかに日々を過ごすものです」
セシリアが淡々と言った。
私とローレッタの訓練は昼食の前まで続いた。
「そうだセシリア、戦闘服が欲しいんだけど、どこで買える?」
昼食を摂りながら、私が言った。
「ミア様……公爵令嬢は戦闘服など着ません」
「ドレスで戦えと!? まぁ慣れればいけると思うけど!」
「違います。戦わなくてもいいです」
セシリアは私とローレッタに給仕しながら小さく首を振った。
「あ、あとボディアーマーも欲しい。防具屋とかあるのかな?」
「鎧を着る令嬢がどこにいるんですか……」
もはや呆れ果てた、という風にセシリアが溜息を吐いた。
いや、まぁ、普通は着ないと思う。
私だってそれぐらいの常識はある。
でも私は着たいのだ。
まぁ、そのうち屋敷を抜け出して店を探そう。
隠密機動訓練にちょうどいい。
「あ、そうだローレッタ。午後からは隙間時間に魔法の訓練をしよう」
「魔法ですか?」
ローレッタが首を傾げた。
「ミア様、魔法は選ばれた僅かな人にしか使えません。それにまずは測定が必要です」セシリアが言う。「測定は10歳で行います」
あぁ、そっか。
私はゲームをプレイしているから、私とローレッタが魔法使いだと知っている。
でも、周囲はみんな知らないのだ。
測定まで魔法のことは伏せておいた方が無難なのかな?
いや、早い内から練習して魔力を増やしたりしたい。
「でもたぶん、私使えるよ?」
私は右手を出して、掌を上に向ける。
そして魔力を集中。
魔法を使うには目的とイメージが必要だ。
イメージは定番だけど、目的設定が必要というのは珍しい設定だ。
私がそれを知っている理由は、もちろんゲーム知識である。
さて私の目的は、見せること。
イメージは火柱。
私の掌に魔法陣が浮かぶ。
セシリアが目を見開いた。
そして、小さい火柱が私の掌から立ち上った。
この火柱には見せる以外、何の効果もない。
熱くもないし、何も燃えない。
私は魔法を消した。
「すごぉい! お姉様すごぉい!!」
ローレッタが無邪気にはしゃぐ。
「ミア様……天才ですか!」セシリアの瞳がキラキラしている。「さすがわたくしのお嬢様!! 素晴らしい!! まさか魔法が使えるなんて!! しかも習っていない状態で!! お嬢様はお転婆だしちょっと変ですが、これなら良い縁談がありますね!!」
私はちょっと照れた。
こんなに褒められるとは。
魔法が貴重なのは知っていたけれど、実際に褒められると嬉しい。
「ローレッタもできるよ?」
「本当ですか!? あたしも魔法できますか!?」
「うん。教えてあげるよ」
私は魔法の使い方を簡単に説明した。
魔力の集中と、目的設定後にイメージすることなど。
ローレッタが早速、試し始める。
「火柱出ないですぅ……」
ローレッタが少し悲しそうに言った。
ローレッタの属性は【風雷】なので、火は出せない。
属性と関係ないものは、どれだけイメージしても出せない。
「ローレッタ様、魔法は本当に貴重なのです」
セシリアが慰めるように言った。
「火に関係ない属性なんだよきっと」私が言う。「色々試してみよう。風がふわっと吹くとか。目的は癒やしとかがいいかな」
「やってみますね」
ローレッタが集中する。
そうすると、ローレッタの掌に魔法陣が浮かぶ。
優しい風がローレッタの掌からふわっと吹いた。
同時に、私の体調が少し良くなった気がした。
「できました!!」
ローレッタが嬉しそうに両手を叩いた。
「マジですか!!」セシリアが飛び跳ねる。「お嬢様たち、凄すぎます!! これは今夜はご馳走を用意して貰いましょう!! 旦那様と奥様にも報告をしませんと!! ミア様が炎系の属性で、ローレッタ様が風系の属性ですね!!」
あ、私は【全能】なのだけど。
まぁ、いいか。
「中央の大旦那様たちにも報告の手紙を出しましょう!!」
大旦那様というのは、私の祖父だ。
今は中央で宰相の補佐官をしている。
というか、補佐官の誘いがあったから領主を父に譲ったのだ。
よって、祖父母は中央に住んでいる。
その日の夜、侍女たちと軽いパーティを楽しんだ。
でも両親は帰らなかった。
娘たちが魔法使いだと分かっても、戻らなかった。
「なんて最低のクソ親」
私はベッドの中で言う。
そんなんだから、娘が歪んでいくのに気付かないんだよ。
その上、両親は私に殺される。
中央でやりたい放題の私を諫めに王城まで来るのだが、私からしたら「今更もう遅い」状態である。
何の感慨もなく、2人を殺したのだ。
「きっと忙しいのです」ローレッタが言う。「お2人はあたしを養子にする時、お姉様と仲良くしてあげて、自分たちはあまり構えないから、と言っていました」
ちなみにローレッタもベッドの中だ。
初日から今日まで、いつも一緒に寝ている。
ローレッタは抱き心地が最高だ。
私たちはすでに寝間着で、いつでも寝られる状態。
周囲はすでに、小さな蝋燭の火だけ。
夜中にトイレに起きた時のために、少しだけ明かりを残しているのだ。
「何がそんなに忙しいんだろう?」
「分かりません」
「ちょっと探ってみようか。情報収集は大切だからね」
改善できるなら、した方がいい。
このままでは、私に殺されなくてもいずれ過労死する。
私は別にいいけど、ローレッタは悲しむかもしれない。
2度も両親を亡くすなんて、あんまりだ。
そんなのは可愛いローレッタに相応しくない。
「はいお姉様」
「とりあえず、今日はもう寝よう」
私はローレッタの額にキスを落とす。
そうすると、ローレッタも私の額にキスを返してくれる。
ヤバい。
幸せ感じるんだけど。
ローレッタが可愛すぎて胸が苦しい!
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