悪役令嬢は全能ですっ! ~前世は女傭兵!? 四季咲きのミア・ローズ、最強の領地を目指して~
葉月双
一章
1話 ヒロインになりたいと願ったら悪役になった
「乙女ゲーが好きで何が悪い!?」
私の趣味が団員たちにバレた時、大乱闘に発展した。
おおよそ、私のイメージから遠かったのだろう。
めっちゃ、からかわれた。
そしてキレた私がぶん殴り、みんなアホだから参戦して大乱闘。
ああ、これが走馬灯ってやつだね。
私の人生が凝縮されて流れていく。
日本に生まれ、勉強よりも運動が好きで、なぜか男の子みたいに銃火器に興味を持った。
そんな私は自衛官になって、水陸機動団に所属し、だけどドロップアウトした。
で、気付いたら傭兵稼業。
傭兵団の団長は頭のイカレたサイコパスだけど、結構好きだった。
男前だったし。
まぁ、どいつもこいつもアホばっかりの、愉快な傭兵団さ。
私は団長たちと任務に就いていたのだけど。
それでまぁ、今ミサイルが迫っている。
すごくスローに見えた。
アーレイバーク級のミサイル支援だろう。
団長を見ると楽しそうに笑った。
ああ、くそ。
血と硝煙の人生だった。
悪くはなかったけれど。
次に生まれ変わったら、乙女ゲーのヒロインになりたい。
そんなことを願いながら、私はミサイル攻撃で木っ端みじんに粉砕されたのだった。
◇
そして目が覚めると、私は悪役令嬢に転生していた。
死ぬ前にプレイしていた『愛と革命のゆりかご』という乙女ゲーのラスボス。
まぁ令嬢というか王妃だけどね、ゲーム開始時は。
「なんでだよ!!」
叫ばずにはいられなかった。
私の叫びを聞いて、側仕えが部屋に飛び込んできた。
「大丈夫、怖い夢を見ただけ」
私は頭の中を整理する。
その間、侍女がゾロゾロやってきて、私を着替えさせる。
私の名前はミア・ローズ。
現在6歳。
公爵令嬢だ。
封建制度の我が国において、公爵は公爵領の領主である。
領地によっては、王様より贅沢な暮らしをしている場合もある。
爵位について、地球とどの程度互換性があるのか私には分からない。
姿見を確認すると、前世とは違う私の姿が映っていた。
艶のある美しい金髪に、若草色の瞳。
ゲームでの私は18歳だったが、とにかく美人だった。
将来あの見た目になるのかと思うと、少し嬉しかった。
だが問題もある。
私、信じられないほどの極悪人なのだ。
だけど理想もなければ思想もなく、信念さえ持たない精神的な小物でもある。
例を出すと、街のチンピラが強くなってしまったような感じ。
すごい力を持ったラスボスだけど、中身は小物っていう悲しいキャラである。
「それでは朝食に向かいましょう、お嬢様」
私の着替えが終わり、側仕えのセシリア・リナカーが言った。
セシリアは38歳の女性で、黒髪のポニーテイル。
美人で胸もそこそこ大きい。
既婚者で、身分は平民。
子育てが一段落して、側仕えとして復帰したのが8年前という話だったか。
ミアとして生きた6年分の記憶の中に、そういう話があった。
「……ぼっちか……」
私は小さく呟いた。
広い食堂の、大きなテーブルに、私1人である。
そういや、今世ではずっとぼっちだったな、と思い出した。
ああ、クソ、前世の愉快で楽しい傭兵団が懐かしい。
毎日どんちゃん騒ぎで、うるさくて、アホばっかで、喧嘩して、でも、楽しかった。
こんな風に寂しく人生を過ごしていたから、私は極悪人になってしまったのだろうか?
とりあえず食事を摂りながら、私の人生について考える。
確か10歳で第一王子と婚約。
恋愛ではなく政略的なものだ。
うちの領地は割と豊かで力を持っている。
それを取り込むことで、第一王子の王位継承を確実なものにしたのだ。
もちろんそれだけではないが、まぁあとでいい。
で、15歳で結婚。
私は速攻で王様を暗殺して第一王子を王にする。
私が好き勝手するためにだ。
でもその願いは叶わなかった。
王妃は意外と忙しい。
で、好き勝手したい私は16歳の時、すでに王だった第一王子も抹殺。
ついでに第二王子も殺そうと思ったけど、どっかに逃げたあとだったか。
第二王子は攻略対象者だ。
まぁそんな感じで、権力を手中に収め、刃向かう者は皆殺しにして、国が傾くぐらい遊びまくるのだ。
私、ミア・ローズは1万年に1人の天才という設定だった。
体術、剣術、なんでもござれの強さに、頭脳明晰。
更に魔法が【全能】と呼ばれる何でもできる反則魔法。
第一王子に目を付けられるのも頷ける超性能の令嬢なのだ。
ただし、魔力が足りなくて大きなことはできない。
ただ、ルートによっては魔王の力の片鱗を宿したりするからもう手が付けられない。
やろうと思えば、私は世界征服だって可能だったに違いない。
でも、遊びほうけることと、民をいじめ抜くことに執心した。
多くの人の人生を破壊し、心を潰し、拷問したり犯したり、辱めたり、とにかく極悪だったが小物だった。
絶望し、泣いている人を見て快感を得る真性のサディスト。
そんなゴミクソの私を、主人公と攻略対象者たちで倒すのだ。
攻略対象者は全部で4人。
王道ルートの第二王子。
マッチョ好きにはたまらない、中央騎士ルート。
ちょっと捻くれた意地悪な魔法使いルート。
それから、弟属性の可愛い同級生ルートだ。
私が1番好きなキャラは魔法使いだった。
ちなみに、全員攻略すると隠しルートとしてハーレムルートが出る。
私は1人に愛されたい派なので、あまり好みじゃない。
このハーレムルートで、私は魔王の力の片鱗を得る。
そんなことを考えながら、食事を終えた私は一般教養の授業を受けた。
この国において、12歳までは自宅で勉強するのだ。
そして12歳の春になったら、貴族は王都の学園に入る。
そして15歳の春で卒業。
その後、夏に成人式がある。
私は成人式と同時に結婚したのだ。
さて現実に帰還しよう。
悲しいことに、私は昼食も1人だった。
父も母も領主としての仕事が忙しく、城に籠もっているのだ。
だから私は広い屋敷にぼっちである。
まぁ、側仕えと侍女、警備の領兵はいるけどさ。
ちなみに側仕えと侍女の違いは、侍女は家に仕えていて、側仕えは私に仕えている。
私の側で仕えているから側仕え。
まぁ、もっと分かりやすく言うと、お付きの侍女ってこと。
「よし決めた。ゲームの流れは無視しよう」
わざわざ極悪人になる理由もない。
「どうするかなぁ。傭兵団でも作るか? それとも、普通に王妃として国を支える? いや私の柄じゃないね。むしろ世界征服するとかの方が私らしい」
攻略対象者たちを生で見たいなぁ、とは思う。
まぁ焦ることはない。
とりあえず、公爵家の令嬢として楽しい日々を過ごそう。
そう思って人生を謳歌し始めた3日後。
義理の妹が我が家にやってきたのだった。
母に連れられて、その可愛い子はやってきた。
名前はローレッタ・ローズ。
元々はローズ家ではなく、うちの領地のボンド男爵家の娘だ。
男爵夫妻が馬車の事故で死亡し、誰が引き取るかという話になっていたところを、私の両親が引き取ることにした。
理由は単純。
私が1人で寂しい思いをしているから、年の近い妹がいればいいだろう、と考えてのこと。
でもそれが、ローレッタにとっての地獄の始まりだったのだ。
私はローレッタを自分の下僕として扱い、心を潰し、命令に従う人形にしてしまう。
ローレッタのゲームでの立ち位置は中ボス。
主人公たちに倒される時、「ありがとう、これで悪夢が終わる」と笑った。
それがあまりにも悲しく、主人公はローレッタを救うことにしたのだ。
生きて罪を償う道を示し、一緒に私を倒そうと誘う。
「ローレッタ・ボンドです……」
ローレッタは私の前で、小さくお辞儀をした。
ローレッタは現在5歳。
桜色のふわふわした髪の毛に、空色の綺麗な瞳は少し怯えている。
可愛い。
なにこれ可愛い。
この生物、かーわーいーいー!
私は前世でも未婚だったし、小さい子供と関わったことはないに等しい。
「違うわよ。今日からはローズよ」と母。
母は私に似て美人だ。
髪の色も私と同じブロンド。
「初めましてローレッタ」私は王子様みたいに跪いて、右手を差し出す。「私はミア・ローズ。一緒に色々と訓練して、最強の戦士になろう」
「公爵令嬢は戦士にならないわよー?」
私の台詞に、母が苦笑いしていた。
ともかく、私はローレッタを鍛えることにした。
なぜって?
こんな可愛い子が身を守る術を持ってないとか有り得ない。
無防備なまま世界に放つわけにはいかない。
ライオンの群れに生肉投げ込むみたいなもんだ。
私が立派な軍人に……じゃなかった、とにかく、身を守れるぐらい強くしてあげよう!
私も本格的に身体を鍛えるつもりだったし、ちょうどいい。
強ければ冒険者という選択肢もあるのだから。
「よ、よろしく……お願いします……お姉様」
ローレッタがおずおずと私の手を取った。
ああああああ!
可愛い! はい可愛い!
お姉様だって!! 私のこと、お姉様だって!!
よぉし、お姉様本気出しちゃうぞ!
前世のイカレ傭兵団でも活躍できるぐらい強くしてあげるからね!
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