第1話

 その日、俺はいつになく緊張していた。

 なぜか……それは、俺の家にメイドがやってくるからである。


 知らない人と会うのは久しぶりすぎて、どう挨拶すればいいかをひたすらに考えるしかなかった。

 はっきり言って、俺はコミュ障だったのだ。


—————


「メイドを雇ってみないか?丁度ツテがあるんでさ」


 そう言ったのは俺の友人。いきなりの事で少々理解に時間がかかった。


「雇う?メイドを?っていうかそれ、どういうツテだよ」


「ああ、俺のいとこがメイドになりたがっててな。それに、おまえにだって悪い話じゃないはずだ」


「ええ、でもメイド雇うって結構お金しそうじゃないか?」


「逆に考えてくれ。メイドを雇えば掃除洗濯をやってくれる上に美味しい食事も付いてくる。むしろ、これで家事が減ればより作家活動に専念できるだろ?」


 なるほど確かに……。と言いくるめられそうになったが、こいつは営業マンである。交渉ごとにはめっぽう強いはずなのでもう少し粘ってみようか。


「でも、それだったら家政婦を雇ってもいい。わざわざメイドを雇うメリットはあるか?」


「まず、家政婦は当たりはずれがある。でも、こっちは雇ってくれれば絶対にいい仕事をしてくれる。これは保証しよう。それと、メイドはほぼ毎日家に置いておける。これは家政婦にはない最大の強みだ」


「その強みがどのように役に立つ?」


「俺が安心できる」


 予想外の返答に一瞬とまどった。

 さっきまで完全に客と売人だった関係がいきなり友人同士に戻ってきたのだ。


「だってさ、今回だって俺が見に行かなかったら放置だぜ?お前結構無茶するから誰かに気にかけてもらった方がこっちも楽なんだよ」


「なんかごめんな」


「謝らなくていい。でも、メイドを雇うのは考えてみてくれ。絶対に悪いようにはしないさ」


「分かった。よく考えてみる」


 そうして、悩んだ末に俺はメイドを雇ってみることにしたのだ。

 あいつにも「もし万が一、メイドの仕事に不備があるようであればお金は支払わずに解雇してしまっても構わない」とまで言われたし、もはや断る口実もない。


「じゃあ、一週間後の午前十時に来てもらうようお願いしてもらってもいいか?」


 という風に伝えておいた。


—————


 メイドは、約束の十時きっかりに家のチャイムを鳴らした。

 俺は、深呼吸をして少し落ち着いたあと、メイドを出迎えに向かった。


「本日からここでメイドをさせていただくことになりました。よろしくお願いいたします」


 そう言って頭を下げたそのメイドを見たとき、俺はすでにこのメイドの虜になっていたのかもしれない。

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