うちに来たメイドさんが可愛いだけ

夏樹

プロローグ

 ……いつからだろうか。

 俺が他人ひとのために物語を書くようになったのは。

 そして、何の欲もない、つまらない人間になってしまったのは。


 そう思ったのは至極最近の話で、それまではそんな事を考える余裕すらなかった。


 俺はそれまで、小説を専門に載せている週刊誌で連載を続けていた。

 連載を始めてからもう一年半にも及ぶのだが、先日ようやく最終回にまでこぎ着けて連載を終了させた。

 しかし、その後待っていたのは束の間の休息と次回作の催促。


 楽しくて小説を書いていたはずだったのにいつしかそれは自分を縛りつける枷にすらなってしまっていたのだ。


 その時くらいからだ、自分の生き方に疑問を抱きはじめたのは。

 はたから見れば売れっ子作家として作品の人気も高く、それなりのお金も入ってきて羨ましく映るかもしれない。

 だが実態はなんとかいい作品を書かなければならないというプレッシャーと重なる疲労、お金は使う暇などなかったのだ。


 というわけで、俺は病院のベッドの上であんな事を考えている。

 過度な疲労で執筆中にぶっ倒れたらしく、次に起きた時には病院にいたのだ。


「うっす、体の方は大丈夫か?」


 と病院の中にも関わらず力強い声で訊ねてきたのは俺の古くからの友人だった。


「……まあ身体に異常はないみたいだし、とりあえず大丈夫だよ」


「ンでもびっくりしたよ、たまたま訪ねたら机の上で倒れてんだもん。あれ何日目だ?」


「三日目、かな。ちょくちょく休憩は取るようにしてたけど……」


 徹夜を二日連続で行い、起きっぱなしのまま三日目に突入していた。

 プレッシャーで眠れず仕方なく新作を書いていたのだが、それまでの疲労もあって限界に達してしまったのだろう。

 呆れられるだろうが、実際そうするしかなかったのだ。


「まあいい。でもさぁ、これ以上そんな生活してたら今度は本当にえらいことになるぞ?最近ロクなもん食ってないだろ」


「自炊でもしろって?」


「出来たらな。でも、どうせやんないだろうしすぐやめるだろ?だから俺には妙案があるんだ」


 彼は自信ありげに言い放った後、偶然にも通りかかった看護婦に「お静かにお願いします」とたしなめられた。

 声のトーンを下げつつも、彼は話し続ける。


「だからさ、メイドを雇ってみないか?丁度ツテがあるんでさ」

 

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