神殺しの剣なんだけど、封印が解かれたらクソみたいな世界だった折れたい

彼方

1.奴隷幼女獲得クソイベント

 吾輩は神殺しの剣である。

 名前はまだない『あるあるあるある。ミストルティンって名前があるっつーの』


 全くもって自由が過ぎる。地の文まで乗っ取って、何を考えてるんだかこのバカ槍は。


『いやぁ、だってさ。こんなテンプレ仲間獲得イベントとか、もう最高に喜劇だから』

『悲劇だっつの!』


 そう。どう考えたって悲劇だ。だからオレは現実逃避の為に、ディスアームズのいつものサーバーに意識を繋いだのだ。ああそうだ、人間には分からないだろうから一応説明しておこう。

 ディスアームズって言うのはそこそこ名のある武器が、世界を越えて繋がるボイスチャットみたいなもんだ。やろうと思えば映像も共有できるし、封印されてる事もある武器連中にとっちゃなくてはならない暇つぶしだ。オレも随分長い事世話になっている。とりあえずこの時間ならここかなって思うサーバーがいくつかある程度には。


『悲劇? 可哀そうな境遇の女の子が、そこから救われて仲間になる! ミストが最高に苦手なシチュエーションすぎてどう見ても喜劇だと思う』

『性格わりぃな、さすがグングニル』

『鬱展開、殺伐大好きなミストに言われたくないかな』


 オレ達が武器である以上、鬱展開はまだしも殺伐が好きなのはそんなにおかしな事じゃないはずなんだが。大体、現在進行形で目の前に広がるこの悲劇なんかよりよっぽどマシだ。

 持ち主なんて一切認めてないが、オレを腰に佩いたアレックスの目の前に居るのは、幼女と言っても差支えない程小さい狐耳の女の子。ついさっき魔物に襲われていた馬車を助けた中にいた生き残り。

 正直オレは囮を置いて逃げる云々と叫びながら走っていった奴らの後ろ姿に、嫌な予感をひしひしと感じていた。だが悲しいかな、オレは自分では早々動けない―――出来なくはないが、今は出来ないという事にしておく―――ので、あのバカが正義感丸出しで助けるのを半目で見ているしかなかった。いや目はねーんだけど。気持ちの問題。


「君、大丈夫? 怪我は……ッ!」


 無表情で佇む狐耳幼女をくるくると検分していたアレックスが息を詰めた。そらそうだろうな。だってケツから生えてる筈の尻尾が根元を残して切り取られてるんだから。そんでもってずるっずるにでかくて汚ねぇ服から見える奴隷紋。

 慌てたようにアレックスが唯一の旅仲間であるセリーナを呼ぶ。だけどオレには分かる。セリーナが持つ欠損さえ治す癒しの力だって、その尻尾は治らない。だってその先は封印されてんだから。奴隷紋は解除された。わー聖女様万能ー。

 どうしてだのなんだの言いながら、悔しそうにしているアレックスとセリーナをオレは黙って見ている。もうこの先の展開が憂鬱でいっそ折れたい。


「ごめんなさい……私の力じゃ、この傷はどうにも出来ないわ……」

「セリーナ、大丈夫。人は万能じゃない。でも支え合えるんだ」


 いやマジで折れたい。がっくりと地面にうなだれるセリーナと、その背に手を添えて慰めるアレックスとかもうマジで見ていられない。サブいぼ立ちそうで。心のサブいぼ。

 現実逃避に聞いてほしいんだけど、ほんとオレの境遇は可哀そうなの。

 オレが好きなのはグングニルの言う通り、鬱々として殺伐、それから容赦のないざまぁ展開とか、良かれと思ってやったことが全部裏目に出て人がいっぱい死ぬとかそう言う話な訳。オレってば武器だし、その流れでガンガン使われたら数百年位封印されたのも報われるってもんだと思う。封印前には神を殺すのにも使われた、由緒正しく性能もいいオレなんだし。

 それが、それがだ。

 アレックスとついでにセリーナに会った時から、ずっとオレは悲劇の中にいる。

 どう考えても出会いから、オレの大嫌いなチート、ハーレム、ハッピーご都合主義展開バリバリで、ほんとマジ剣生最大の屈辱を味わう事になった。いやなってる。現在進行形なのマジで信じらんねぇ折れたい。

 アレックスはチート系主人公って感じで、両親を失い田舎の村で見知らぬ狩人の爺さんに育てられたにもかかわらず、四大元素どころか光と闇の魔法も使えて、更に剣の腕もたつ。クソお人よしの無自覚天然人たらしで、そのお人よしを発揮してセリーナを助ける事で出会ったらしい。

 そのセリーナは先の戦争で負けたなんとかっつー王国の王女だったとか。もうその時点でオレはお腹いっぱいなんだけど、セリーナは癒しの力を持つ聖女とか呼ばれてたと。なんやかやあって、圧政を敷く帝国に対抗するためアレックスとたった二人の抵抗軍となったとか。

 いやね、ほんとね、マジでね。ぜ~んぶ聞き流してないと設定過多で口から色んなもの出そう。ディスアームズでニホンのオタク文化とか言うのにハマってる奴ら曰く、この後仲間になるのが女だったら、そのままどんどん女が増えてハーレムになるってのが更に憂鬱。テンプレって何なんだっつーの。


『あっ、待って待って、めくるめく喜劇の予感!』

『マジで、クソ』


 オレが現実逃避してる間も、共有している映像を見ていたらしいグングニルの声に、意識を戻せば滅茶苦茶後悔した。

 人形みたいに自意識が希薄だった狐耳幼女が、治癒の力でなんかしらの影響があったらしい。アレックスとセリーナを警戒するように引いていた。どうも記憶がないようで、お人よし二人組が痛ましさを全開にした声と態度で落ち着ける所まで連れていく事を約束している。

 なんでだかさっぱり理解できねぇけど、それに狐耳幼女が警戒心を少しずつ解いている。


「いやなんでだよ、チョロすぎんだろ」

「ミスト、お前も心配なんだな」

「ちげぇよ、絶望してんだよ」


 あまりにもクソ展開でうっかり現実で話しちまった。狐耳幼女がオレの声にビビるけど、それが普通だと思うしそれで良いと思う。唐突に記憶喪失の状況で自我を取り戻して、なんですぐに目の前のニンゲンに懐こうとしてんのか分かんねぇよ。尻尾封印されるくらいなんだから、もっとこうオレ好みのなんかあんだろ。


『いや待て、もしかしてこれは裏切りフラグって奴じゃね?』

『じゃあ俺、裏切られない方にこの先百年の封印年数賭けるわ』

『いっそ今オレを封印してくれよ』


 グングニルも大分長い事封印されっぱなしだし、この先の封印年数賭けられたところで何にもならねぇ。マジクソ。


「名前も思い出せないのか……」

「アレックス、その」

「うん、そうだね。ねえ君、俺が名前を付けても良いかな?」

「なぁにふざけたイベント起こしてんの!?」


 ちょっと意識を飛ばしてる間に、お人よしバカ二人が変な方向に話を進めていた。名前つけとか心の底からやめてほしい。マジクソフラグ勘弁なんだけど。


「どうすんだよ、アレックスから初めて貰ったプレゼントはこの名前、なんてモノローグが後でついたら!」

「初めて、の、プレゼント……」


 だからちょっと目を輝かせるなよ、狐耳幼女。違う、オレはそんなのが見たい訳じゃねぇの。大体名前がプレゼントって何。お前絶対記憶取り戻したら違う名前があるんだろ。全然違う名前で初めて私を見てくれた証とか言い出してもクソだし、どっかしら似てて私の事分かってくれてたのねとか言われてもマジでげんなりする。

 全部偶然なんだよ。アレックスはたいして何も考えてねぇタイプなんだっつの。その癖、主人公補正とか言うのが強いやつ。


「ラーラ、ラーラはどうだろう?」

「オレの意見も聞いて!? そんなララだとありきたりだから、ちょっとだけ捻ってみましたみたいな名前もクソダサだかんな!?」

「ふふっ、ミスティもこの子の事が心配なのね」

「ちっげぇよ!! このクソ馬鹿ポジティブ女!!」


 お人よし二人であらあらまぁまぁ、みたいな雰囲気出すのほんと勘弁して欲しい。


『も、俺、無理……! 笑いが止まんねぇ折れる』

『やった、良いとこで来たな僕』

『エクシィてめぇまで!! 嘘ですお願いエクシィ先生ここからフラグ回避どうすればいいの教えて』


 ゲラゲラと笑い転げるグングニルにイラついてると、エクシィ―――エクスカリバー連中はオレの知り合いだけでも滅茶苦茶数がいるから、皆愛称がついてる―――がログインして楽しそうにしやがった。

 それに更にイラつくが、エクシィはオタク文化どっぷりでその道のプロだ。なんてったって湖に沈められた後に、妖精と仲良くなって人型を取り人の世界で遊びまわっている変わり者。もしかしたらここから挽回できる方法を知っているかも、と思えば縋りつきたくもなる。


『えぇ、無理でしょ。ほら、受け入れちゃったもん』


 どう考えても楽しそうな声音に、現実に意識を戻せばアレックスとセリーナが狐耳幼女を抱きしめていた。もうマジで絶望しかない。


「ボク、の、ご主人様」

「もういいんだ、君は奴隷なんかじゃないんだよラーラ」

「つるペタボクっ子記憶喪失狐耳幼女奴隷とか属性盛りすぎだろ」

「ミスティったら、また茶化して。もっと素直に気を使ってあげればいいのよ」


 茶化したわけでも気遣いでもない。あまりの現実に思わず独り言が漏れただけだ。

 というか三人でなごんだ雰囲気出すのほんとやめてほしい。そして響き渡るディスアームズ内の笑い声。こういうのなんていうんだっけ、前門の虎後門の狼じゃなくて四面楚歌だっけ。何でもいいや、オレに救いが欲しい。


『それにしてもやっぱりミストのところは良いね。これでもかって盛りに盛った情報で細かい事は気にすんなって感じで押してくの最高じゃない?』

『何言ってんのお前』

『俺はそれよりもやっと封印とかれたと思ったら、最高に相性の悪い世界になってたミストが最高に面白い』

『お前も何言ってんの』


 この世界にオレの味方はいない。神は死んだ。いやオレが殺しの片棒担いでたわ。そらいねぇわ。

 なるほど残念でした!

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神殺しの剣なんだけど、封印が解かれたらクソみたいな世界だった折れたい 彼方 @k_anata

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