あと9人
「この中にあの声の奴の仲間がいるということになるのか。」
ヘイクレトはそう言った。彼らはあの声の宣言の後、元居た会議室に戻ってきていた。彼らが全員で集まることができる場所はここしかなかったからだ。そうして各々の席に座ったところにこの言葉が投げかけられた。
「一番怪しいのは貴方だろうねえ。」
続いたのはラメドの言葉だった。そんな彼の視線の先にいたのは教皇だった。他の者たちも同じ考えだったのか異論は上がらなかった。
「弁明はあるか。」
レオルが教皇に発言を促す。この会議を招集し、宿泊する館の手配といったすべてを調えていたのは新教会、ひいては教皇だ。しかし、新教会はこの400年間大陸の平和に寄与してきた組織である。こんな大陸全体が大変な時期にさらに混乱を来たすことをするだろうかという思いが皆の心には強くあった。
「潔白を完全に証明できる程のことは言えませんね。」
教皇はそう答えた。ただ、と前置きした後、続きを述べた。
「私があの声の主と繋がる者なら、さっさと手の者を使って皆様を始末していると思いますがいかかでしょう?」
「ダアト、か。」
「いえ仮に彼らにこの企みを私が告げれば、私の首が落ちますよ。用意する昼食に毒を混ぜるとかですかね。」
教皇の答えに、アレフは思わず思い当たるものをつぶやき、教皇はそれを否定しその組織を使わないような方法に言及する。
アレフが言うダアトとは、新教会の抱える諜報や粛清といった血生臭いであったり後ろ暗いであったりする活動を行う組織である。かつて腐敗した教会を反面教師にし、内部の腐敗にもいち早く切り込めるように様々な権限を与えられている。そのため、新教会内の組織ながら、教皇の指揮下にもない特殊な組織となっている。
この組織は一般には知られておらず、国の中枢にいる者たちのみがまことしやかにその組織のことを知っている程度で、その認識も教皇の指揮下にあるという認識だったが、実際はないことを知り一部の者は唖然としている。
「今、代替の手段として毒殺をあげましたが、それも実行前に彼らに知られて私の命も尽きるでしょう。と、ここまでつらつら私見を述べましたが、嘘が混じっていることを否定できませんので完全な潔白は証明できないという最初の結論通りになりますね。」
ですので、と続けて言う。
「私を監視する意味でも3人以上で行動するというのはどうでしょう?他の方が協力者の可能性もありますし、もしかしたら複数名が協力者であるとか他の場所に潜んでいるかもしれませんから、互いを監視しあうのがいいと思うのですが。」
教皇はそう提案する。それに賛同するようにラトスが言う。
「仮に3人組の中から1人に被害があれば、残りの二人が怪しいという風に絞り込んでいくこともできるしのう。わしは良いと思うが、皆はどうじゃ?」
反対の声はなかった。教皇への疑いについてはこれで様子を見ることになった。そういえば、とアレフはヘイクレトに問いかけた。
「ここに戻る途中に壁や扉を叩いていたが、あれは何をしていたんだ?」
「ああ、外に出られないように玄関付近の壁や扉が壊れないのは確認されていたが、他についてはどうかわからないからな。確認がてら叩いてみた。」
確かにその通りだった。それならば出ることが可能となる。だが、この皇帝は大人しくこの場まで戻ってきている以上その可能性は低いだろうとも予想できる。
「結果はわかっているだろうが駄目だったな。どこも壊れそうにない。」
皆の予想通りだった。だが、逆に考えろ、そうヘイクレトは続けた。
「この館の扉や壁が全部壊れないなら、部屋の中にこもっていれば内側に何かない限りは殺されることもないということだ。」
それは、確かにその通りだった。部屋の中に誰かを招き入れず一人でいるなら、安全は担保される。これは今の状況下では、状況が好転するものでないにしても良い情報であった。
壁や扉が壊れないのは確認されたが、本来は壊れるものをいかにして壊れないようにしているのか。最もあり得るのは魔法だろう。そうなればこの場で最も詳しいのは魔法国の二人となるか。そのことに気づいたレオルはタブに尋ねる。
「あの現象は魔法によるものかについて、君の見解を聞きたいのだが導師殿?」
問われたタブは考えをまとめるためか数秒の沈黙の後に答えた。
「詳しいことはしっかりと調べてみないとだめですけど、恐らく魔法が原因なのは間違いないです。ただ、これが魔法であるとするとそんなに長くはもたないんじゃないかなあと思います。」
「どの程度持つと考える、今の時点での考えでいい。」
「それなら多分ですけど、3日間です。」
タブの発言にヘイクレトが問いかけ、タブは自分の見立てを伝える。3日間、それだけ耐えれば解放される、そう考えると希望も出てくる。
そこで、空を見ると赤くなってきていた。昼食をとろうとして今までずっと張っていた緊張が、希望が出てきてゆるんでしまった。そのためか誰かの腹が鳴った。タブからだった。とても恥ずかしそうに顔を赤くしてうつむいている。
「お昼からずっと大変だったのだから、仕方ないわ。」
と、フォルトゥナはタブをフォローする。そこにラトスが続ける。
「時間も良いし食事を作ろうか。あまり難しいものは出来んがわしが作ろう。材料はあるはずだのう、教皇殿?他にも手伝ってもらえんか?」
ええ、あるはずです、と教皇は答え、手伝いにフォルトゥナとレオルが手を挙げた。レオルが手を挙げたのは意外だったのか、数名が目を彼に向ける。その視線を無視して、扉から出て行った。
しばらくして、彼らは戻ってきた。有り合わせのもので作ったと言っているが、ステーキにかかってるソースなどは中々凝ったものであることが窺い知れる。そういったものを作ったのがレオルであることがわかると再び彼に視線が殺到した。再び彼はその視線を無視して、食事を進めていった。
食事を終えて、あの声の言った復讐について話が戻った。未だ話が及んでいなかった部分、復讐の原因となぜ自分たちが選ばれたか、だ。
10人の英雄とこの場にいる者の一部に何らかの関係性を見出すなら一つだけ考えられる。アーティファクトだ。神によって英雄達に与えられ、魔王を討った。
その輝かしい話は有名だが、現在存在が確認されているのは9つで1つがこの1000年で行方が分からなくなっている。わかっている9つのうち7つは国のトップに継承されてきている。残りのうちの1つはこの場にいるザインの家がどんなに厳しい状況に追い込まれても手放さず代々受け継いできていたことが分かっている。残る1つはマーメー連邦のある商家が大金でもって手に入れたことも判明しているが、その関係者はここにはいないはずである。仮にもう1つをこの中の誰かが持っていたとしても、関係のない人物がこの場には1人いることになる。その1名が声の言っていた見逃してもいい者なのか。だが、その1名も含めて事情があると言っていた。それにあの地面に吸い込まれていった女性についても一幕と言っていた。ならあの女性も関係者になる。そうすると関係のない人物は2名?
本来話し合われるはずだった魔物については触れられることなく、この話を続けていたが結論として一番可能性があるのはアーティファクトに関してなのだろうとなった。
これからどうすべきかを話すことになる前に一端部屋に戻ることになった。一度一人で考えをまとめる時間を設けるのも良いだろうという判断だった。行きも帰りも部屋が隣同士になるもので固まって行動するのがいいだろうとなり、一時解散となった。
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