はじまりはじまり3

 翌日となり、教皇の使者に連れられ昨日集った館に集められた。道中は自国の護衛に守られていたが、昨日同様護衛を連れて入ることはできなかった。館内の護衛については教会側が行うという取り決めがされているためだった。確執がある国同士が刀傷沙汰になるという事態を避けるための措置であった。とはいっても今の大陸において教会の影響力は凄まじい。その教会を敵に回してでも刀傷沙汰をおこしたり、万が一にも暗殺しようとしたりする可能性は限りなく低いだろう。この島の各国のために用意された館においても同様のことがいえる。


 そうして集まった中、魔物の活性化に対する議論が開始された。最初に他にもこの会議に参加する者が2人いることが発表され、教皇から紹介された。


 一人目は、ザイン・ヘットラーという軍人らしい体つきに紫髪翠眼の男だった。帝国の貴族であり、最近発生した大量の魔物による暴走を鎮圧した当事者なのもあり、今回の会議に参加することになった。

 二人目は、青髪青眼でやせ型な研究者らしき男だった。名をレーシュ・ソレイといい、その風貌通り研究者であり、魔物の生態をテーマとしていた。おそらくこの大陸上で最も魔物に精通しているだろう人物である。それもあってこの場に呼ばれた。


 その二人を加えて計10人で始まったが、最初からいきなりどうするべきかを考えるよりも、まずは各国の状況を共有することを優先した結果、午前はそこで終了した。


 一段落したのもあり昼食をとろうとしたところで、おかしなことが起こっていることに気づいた。最初教皇が合図として手を叩いたが、誰も入ってこなかった。参加者の一部から失笑が起きたが、教皇が恥ずかしながらももう一度してもダメで、首をひねりつつもう一度繰り返しても何もなかった。


 ここで、皆が何かおかしいと感じ始めた。そこで、ザインを先頭に全員で部屋から廊下へと出た。出たが、廊下の奥まで人の気配が感じられなかった。人がいれば、足音や息遣いが聞こえるそれがなかったのである。これは何か良からぬことが起こっていると直感した。


 ひとまずこの館を出るべきだと考えた結果、玄関を目指して急ぐこととなった。そうして館の入り口へ向かう途中、通ることになる中庭に人影があるのが分かった。何か事情を知っている可能性がある、そう考えるのは当然の帰結だった。


 急いで中庭に向かうとその人影はまだそこにあった。人影の正体は金髪碧眼の女性だったが、何か様子がおかしい。見かけた時から今までその場に立ったまま全く動いていない。後ろから声もかけているが、振り向く様子もない。


 そこで回り込もうとしたとき、突如女性の下の地面が開いた。その様は巨大な怪物の口が開いたようにも見えた。当然、女性は下に落ちていき、それに驚いた声は悲鳴に変わり、次第に小さくなっていき、聞こえなくなったと思った時地面は閉じた。先ほどまで開いていたはずだが現在はそんなことがあったとは微塵も感じさせない。


 今、一人の女性が目の前で亡くなった。あんな状況では生きているとは思えない以上確かなことだった。早くこの館から出なくては、その思いを強くした者たちの足はあの地面を超えて玄関に向かっていった。


 しかし、その足はその玄関の扉の前で止まった。開かなかったのである。押しても引いてもびくとも。まだ幼い少年には先ほどから続く異常事態によるショックは大きかったのだろう。開かない扉を叩きながら泣き叫んでいた。他の者の中にも彼に近い心理状態の者もいたが彼の様子を見て冷静になっていた。そこで、緊急事態なら魔法で扉を破壊してもいいだろうと思いついた女王が教皇に確認をとり、この中で最も魔法を使いこなせるだろう混乱中の彼を落ち着かせて、扉の破壊を依頼した。落ち着きを取り戻した彼は先ほどまでの混乱ぶりが嘘だったように冷静に魔法を使って見せた。しかし、その魔法は何かに吸い込まれるように消えていった。その現象に皆が驚いているまさにその時、声が響きだした。


「紳士淑女の皆さん!ご機嫌いかがでしょうか?まあ、聞くまでもないか。」


 こんな状況には不釣り合いな明るい声だった。だからこそその不気味さが際立った。


「さてさて、いきなり知らない人が目の前で地面の裂け目に吸い込まれていって、あげく扉は開かないで大変だよねー。あ、ちなみに窓とか壁とかも壊れないから、試してもいいけど無駄だと思うよ。」


 物は試しにと、窓を叩いてみるが壁を叩いてるような感触がするだけだった。


「うんうん、無駄だと言われても試す姿勢嫌いじゃないよ。言われたからって本当とは限らないしね!」


「じゃあ、何が起こっているか説明していくよ。」


「今起きているのは時を超えた復讐劇、さっきのはその一幕。復讐対象は君たちで、実際に手を下すのは僕の協力者たち。実を言うと僕はゴーストみたいなものでねー、君たちに直接手を下せないんだよね。こうやって声を届けてるのもかなりまどろっこしい手段を使ってるわけ。」


「復讐対象なんていわれても困る人もいるよね。正直僕もこの中の数名は助けてもいいんじゃないかなーなんて思うんだけど、事情があるからできないんだ、これが。」


「さて、君たちが復讐対象となった理由は1000年前にあるんだ。」


「1000年って数字で察しがついたかもしれないけど、10人の英雄について、が理由だ。」


「魔王殺しの英雄といわれ持て囃されているけど、それは嘘。」


「そんな偽物によって歪められた者が偽物の残滓を消していくことが今回の演目。」


「絶対に逃がしはしないから。」





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