はじまりはじまり2

「お集まりいただき、ありがとうございます、皆さま。」


 そう言った男を含めて、白いクロスが引かれたテーブルについているのは8人の男女。全員が品の良い服装をしている。それも当然だろう。皆国や組織を率いる者たちであり、そんな彼ら彼女らが一堂に会する以上、国の威信を示すためにも着飾る必要があった。


「いや集まるのは当然だ、教皇よ。」


 そんな中の一人が答える。金髪碧眼の30代後半と見られる男で、その受け答えも上に立つ者としての風格が感じられる。そんな彼の名前はアレフ・インタンジという。この大陸にある3つの大国の一つ彼の姓と同じ名を持つインタンジ王国の国王である。


 そして、最初にこの場の者に対して感謝を伝えていたのが、クリファ新教会教皇ガユカII世である。クリファ新教会は、400年前に出来上がった組織である。前身はクリファ教会という組織であった。ともに大陸と同じ名を関する組織で、その名はこの世界を作ったとされる神の名でもある。そんな神を信仰する組織であったがいつしか腐敗が進み信仰心の欠片もないものがのさばっていた。それらを排除し神を信仰する組織として再出発を果たしたのが、新教会であった。


「全くもってアレフ王の言うとおりだ。この件にはどこも同じように頭を痛めている。」


 次に声を上げたのは、金髪紅眼の偉丈夫だった。彼はヘイクレト・ノシング。先のインタンジ王国同様、この大陸では大国とされるノシング帝国の若き皇帝である。昨年他の継承権を持つ者を排し帝位を得たばかりの彼だったが、早々にこの問題、魔物の活性化による被害に悩まされることになった。


 国の頂点に立って早々この問題に直面することになったのはあと2名いた。

 一人は、2年前にハベキー聖王国の女王になったフォルトゥナ3世である。大陸東部に位置するこの国は魔王を倒したといわれる10人の英雄の一人である聖女の系譜といわれる。故に強い癒しの力を持つ者が王位につく。彼女もその法の下に女王となっている。銀髪紫眼で美しい容姿から彼女の伴侶に名乗りを上げる者は国内外問わずに後を絶たないとも言われるが、その声に答えたことは未だない。

 もう一人は、5か月程前に前の代表に後継指名された少年だった。齢13歳にして、アウクイノス魔法国の代表である導師に指名された彼の名はタブ・アウクイノスという。その魔法に関する才能は既に最高位にあると言われているが、まだまだ幼く経験が少ない彼にとってこの場にいることの重圧は凄まじいのか顔は青く体が震えている。


「ええ、ええ、本当に。この問題のおかげで流通にも滞りが出て、我が国としても早急に片をつけたいところですねえ。」


 そう声を上げたのは、緑髪金眼の小太りな男性だった。年のころは50歳前後といった彼は、ラメド・ハグドメムと言い、ハーシ共和国の元首である。この国は100年ほど前にクーデターが起こった結果、共和制をとったという経緯がある。そんな彼は5年前にこの問題が顕在化し始めた頃にこの地位に就いたが、この問題への有効的な対処ができずにいた。今年行われる次の元首を決める会合で再任されるためにもここで成果と彼らとのつながりをもっておきたいという魂胆であった。ただその目線は聖王国の女王に向けられており、その視線を向けられている彼女は居心地悪そうにしている。


「ならさっさと始めるべきだろう。」


 言葉少なめにそう主張したのは、レオル・ダルクという男だった。39歳といわれているが紅髪碧眼のその容姿からは20代後半にみられる。そんな彼が代表する国はダルク公国といい、300年ほど前に帝国から独立してできた国である。


 その声に教皇が答える。


「いえ、到着されて早々に始めても良い結論が得られるとも限りませんので、本日はこちらで親睦を深めてもらおうかと思い、用意をさせてもらっています。どうぞ本日はゆっくりとお過ごしください。ああ、この島には国ごとに代表とその随伴の方々が宿泊できるように設備も整えていますが、代表の方々にはこちらにもお部屋を用意しておりますのでそちらも良ければお使いください。」

「そうじゃのう。この道中は老骨には答えたわ。」


 先のレオルの意見のようにできるだけ早く話し合いたいというのが本音ではあったが、長い陸路と慣れない船での移動もあった国の代表者の顔には疲労の色が浮かんでいた。そんな中での議論よりも一晩たって疲労が抜けた状態での議論の方がより良い議論が可能となる。皆そういった考えに至ったのか反論の声は上がらなかった。

 そしてそんな考えに賛同するようにいち早く声を上げたのはこの中で一番の年長者であった。ラトス・ペーコフという白髪碧眼の老人だが、老いたという雰囲気は感じられない。彼自身そもそもは狩りを生業にしており、今でも趣味がてら狩りに出ているらしいから、そう感じられるのだろう。そんな彼は、マーメー連邦という合議制の国の代表である。この国は単一の職業によって運営されている地域が集合してできている。その専門性から大陸に名を轟かせるようなものも多い。


「では、明日からということで。こちらから迎えの者を行かせますので、そちらに従ってお越しください。」


 その後すぐ、アレフ、フォルトゥナ、タブ、ラトスは他の人に先に休む旨を伝えて席を立った。お目当ての女王が席を立ったからかラメドも続いて出て行った。そこに続いて何にも言わずにレオルが席を立った。残されたヘイクレトも一人になっては交流もないなと言い、教皇に折角の用意を無駄にしたことに詫びを入れて戻っていった。






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