第2話 鐵斬斗は愚痴タレる

 所謂「小説」と呼ばれる媒体になった俺だが、そこで観察するほど、神という種族は実にわがままな存在であると断言するようになった。神は夜になると勉強もさておいて神の父、つまり偉大なる神のおさがりのノートパソコンを開き、俺の話を書く。そして夜が更けるにつれてそれは加速していき、結果として俺もヒロインの脣をむりやり奪ったり、俺が脱退したらしい組織の追手をむごたらしく殺したりした。それだけなら百の仕事のうちの一つ、とわりきるのだけれども、この神は朝になると途端に俺たちの業績をデリートしていくのだ。そうしている時の神というのも不思議なもので、自分で書いたくせにまるで自分より低能な誰かが書いたもののように「信じられない」と言った風に頭を掻き、恥ずかしげな笑みを浮かべながら「あー、うわー」とぼやきながら、昨夜の俺たちの仕事を全部帳消しにしてしまうのである。俺たちの昨夜の頑張りはなんだったのだ。

 特にヒロインなんか可哀想なもので、出番が殆どない。おそらくそれは神が男ゆえに、女のヒロインを作るのが不得手なのだろう。そしてたまに出番がきたと思ったら、大抵敵に攫われたり洗脳されたり触手に絡めとられているのだけれども、やはり翌朝になると神は「ああ、ああああ」とうめきながら彼女の見せ場を全てデリートしてしまうのだ。なんという礼儀を知らぬ神であろうか、俺たちの世界では、ヒロイン(それが紅一点である場合は特に)丁重に扱うのが決まりである。そうでなくては俺たちの職場が成り立たない。

 神もヒロインに対する礼節の無さを自覚したようで、この前「女の子はこう考える」という薄っぺらい本を買ってきた。万引きでもしたのか、という風に周囲を気にしながら、勉強机の下でこっそりそれを読んでいた。ついこの前、俺がクラスのいじめを裏で操っていた金持ちで読書家の鈴木を成敗したときに「本だけじゃ、得れない知識もあるってこった」と言わせたことをこの神はすっかり忘れたようである。いや、むしろ一度本で学ばねばならぬほどにそれに対する経験が不足していたのだろうか。

 ともあれ、勉強の成果もあってかしばらくの間ヒロインは目に見えて雰囲気が変わった。キャラ紹介ページには「男勝り」と書いてあったというのに、毛先のパサつきを気にしたりお気に入りの化粧品を友達と話したりしはじめた。その反面、それまでは俺の事を好きなのに素直になれず、不器用な俺もその気持ちに気づかないという関係性であったのに、近ごろは俺が女について言及すると「まったく、女心がわかってないわねー。女の子っていうのはね」とうんちくをたれるようになった。

 本人も「神は近頃、どうして私にうんちくをたれさせるのかしら」と、と首をかしげていたので「神というのは、得た知識をすぐさま我々に反映させるのが仕事なんだ」と説明してやった。かくいう俺も、何の本を読んだのかは知らないが、アサルトライフルの構造だったり、粉塵爆発の仕組みだったりのうんちくをたれさせられた経験がある。その本は今どこにあるのかも知れないが、机の上に汚く積み重なって埃をかぶっているもののどれかだろう。翌月からヒロインはうんちくを言わなくなったし、女らしさもなくなった。なんと忘れっぽい神だろうか。そんなに忘れてしまうなら、自分の設定を箇条書きにしてキャラクターリストに載せておけばいいのに。神というのは俺たちが思っている以上に不憫な生き物らしい。

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