鐵斬斗は動けない

備成幸

第1話 鐵斬斗は死んでいる

 俺は死体である。脈はもうない。闇堕ちして旧友と戦い、敗れて死んだのが最後の記憶。そして最初の記憶は、神を見たことだった。しかも俺の神というのは「作者」という、八百万の神の中でも一番傲慢で獰悪な種族だということを後で知った。なんでもこの作者というのは、必要とあれば好みの顔や声をした俺たちを「摂取する」という話である。

 しかし俺の神は、少なくともそういったことはしなかった。神は細い鉛棒で俺を産んだ。数学のノートの端っこだった。横線を邪魔に思いながら、なにげなく作者の顔を見たのが神というものの見始めだろう。この時奇妙だと思った感じが今でも残っている。まず神々は全員が同じ黒髪と黒い瞳。他人との識別のために、ピンクやブルーといった特徴的なカラーであるべき箇所が全て黒一色でまるでモノクロだ。俺も何人か人間を見てきたが、こんなに味気ないベタ塗種族は初めて見た。しかも何故か一様に金属製の薄い板を手にして、俺を比較的上手に描いた時など、作者はそれでパシャパシャ撮影するので、デリカシーに欠けていて困った。それが神々の持つスマホであることを、死んでからようやく知った。

 俺はしばらく数学ノートの端っこで一人だったが、そのうち近くに神はもう一人創造した。旧友である。今産まれたのに旧友という表現はいささか可笑しいようにも感じるが、それは神が旧友の情報を箇条書きした際に、「○○の旧友」と書いたためである。○○とは俺の名前である。神は我々を名付けるのに毎度時間をかけた。しばらくの間、俺は○○で、旧友は××だった。俺たちは生まれながらに旧友だった。

 その箇条書きによると、どうやら俺は闇の魔法を扱うらしく、常に右手から小さな炎を浮かべていた。炎を出すならそれは闇の魔法ではなく炎の魔法なんじゃないかと思っていたのだが、どうやら箇条書きによればこれは「影炎」と呼ばれる闇魔法の一種だそうで、「この世で人が死に続ける限り永遠に消えることはない」とある。この読み方が「かげび」なのか「えいえん」なのか、俺ですらも判別がつかず困ったものだったが、先ほどの説明文にあった「永遠」の上に「、、」と強調がしてあったことを考えると、おそらく「えいえん」と読むのだろう。神というものはどうにもこうした当て字が好きなようであって、我々の設定と元の言葉の意味が近しいほど喜び、しかし真逆であったらそれ以上に喜ぶというのは、不思議なことである。

 次に神は、俺をパソコンの中で作り上げた。文字媒体として俺に付与した設定を基に物語を作り、それを人様にお見せするのである。どうやら神は最初からこうすることを見越して俺を創ったらしく、俺には早速「くろがね斬斗きりと」という名前が付けられた。

 びっくりした。なににびっくりしたって、自分が日本人だったことにである。俺は左半分が白髪で、右半分が黒髪だった。とはいえ神がイラストを描くとたまに逆に描写されることもあるので、気分によって入れ替わる体質と思われる。加えて右の瞳は赤色で、左は青色である。毎日がスリーディーだ。これがどうして日本人といえようか。

 日本人というのは、俺の神と同じベタ塗族を指す。俺は考えたのだけれども、どうもこの神々は自分の容姿が地味でベタ塗なことを自覚しているらしい。それがあまりに味気ないから、こうして俺たちに派手な恰好をさせているのだ。迷惑な話である。加えて神は殊にアシンメトリーを好む種族らしいことを後々知ったが、おそらく俺の髪色や瞳色はその表れだったのだろうが、この時の俺は知らなかった。

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