第7話

 それから私は、週1回の通院をすることになった。特に検査をすることはなく、ただおじいちゃん先生とお話をするだけ。


 あの食事会以来、私は大学に行けていない。次に彼に会った時、自分が何をしてしまうのか怖かった。


「まだ、大学には行けていないんだ。外に出るのもちょっと怖くて...。」


「そっかそっか。ここまで頑張ってきてくれたんだね、ありがとう。よく頑張ったね。」


 おじいちゃん先生は、大きくてしわしわな手を私の頭に乗せた。病院のためにそとへでるのは不思議と怖くない、ということは言わなかった。



 おじいちゃん先生とのお話が終わって、私はまた中庭のベンチに座った。あの後、おじいちゃん先生は言った。「病院が管轄している施設に入ることも、一つの治療法だ」と。ホタル病の人のほとんどは、外へ出ることが怖くなるらしい。特に学校や仕事へ行けない場合は、普通の生活が送れるようになるまで施設で過ごすそうだ。私も、考えた方が良さそうだ。

 施設に入る。安心してこの先生活をするためには、必要なことなのかもしれない。けれど、あの場ですぐに答えを出すことができなかった。すこし考えさせて欲しい、そう言って病室を出てきた。おじいちゃん先生は、ゆっくり考えて、私のしたいようにしていい、と言ってくれた。

 

 空を見上げた。なんだか、雨が降り出しそうな空だ。風も冷たくなってきた。乾いた紅葉が少し先で舞っていた。


 そろそろ帰ろう、そう思い腰を上げようとすると、目の前にペットボトルが現れた。驚いてまたベンチに腰を落としてしまった。


「ミルクティー、嫌いでしたか?」


「ミルクティー、好きです。」

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