第4話
ふと私は、あることを不思議に思い、彼から体を離した。
「そういえば、今日早かったね。遅くなるかもって言ってたのに。」
そう言うと、彼は視線を彷徨わせた。私はじっと彼の顔を見つめた。
「今日は、ナナの誕生日じゃん。だからちょっと、驚かせたかったというか、サプライズというか...。」
私が駅へ行ってしまったから、彼のサプライズは失敗に終わったわけだ。彼は困ったような顔をしたが、私は可愛いなと思ってしまった。
夕飯は、彼と二人が良いと思っていた。それは、今日が私の誕生日だ
からというわけではない。今朝、洗面台に行くまでは少なくとも、今日は出前を頼もうと考えていたのだから。
コンビニで彼が買って来てくれた飲み物と少しのおつまみ、メインは出前のピザだ。せっかくの誕生日なのにこれでいいのか、と彼には聞かれたが、私はこれが良かった。一ヶ月ほど前に一人でピザを頼んだ時、一人で食べるには大きさすぎるため諦めたピザだった。いつか彼と食べる時があったら、これを頼もうと思っていたのだ。
よほど嬉しそうな顔をしていたのか、彼は好きなだけ食べな、と言ってくれたので、お言葉に甘えることにした。人生で1番食べたのではないか、と思うぐらいお腹いっぱいになるまで食べた。
テーブルの上が飲み物の缶だけになった頃には、私の意識は夢と現実を行き来していた。缶を倒さないようにと、テーブルへ突っ伏した。頭を大きな手で撫でられながら、寝るならベッドへ行きな、と言う彼の声が聞こえる。
「今日ね、すっごく嬉しかったの。」
彼への返答としては、おかしな言葉だったと思う。けれど彼は、何も言わず私の頭を撫で続けた。
「朝ね、箱を見つけた時、すっごく嬉しかった。だからどうしても、今日は一緒に食べたかったんだ。このピザね、この前ネットで見つけて、一人で食べるには大きすぎるから、二人だったらちょうどいいかなって思ってて。」
お酒と眠気のせいで、口から出ていこうとする言葉を止めることができなかった。
彼の手が、私に頭から離れていった。同時に顔を上げると、彼の目とぶつかった。
「ナナ、もう寝よっか。」
そう言葉を発する前に、一瞬彼が口をギュッと結んだのを、私は少しも気に留めなかった。
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