第16話王子の結婚
「隣国、レアノール王国のオレンジはいかがかな?」
夏宗主との話し合いが終わり、マリエッタと炎輝は店の外に出た。ちょうど露天で果物を販売している物売りの声がした。
隣国レアノール王国は、マリエッタの出身国である。故郷でよく食べた果物に惹かれてマリエッタは露天商に話しかける。
「ね、レアノール王国から来たの?」
店の主人は、マリエッタや炎輝と同年代だ。レアノール王国の国民の大半が来ている服装だ。
「そうさ。お客さんは、レアノール王国出身だね?」
マリエッタの容貌はレアノール王国の特徴がよく出ている。服装は緋国の物でも、レアノール王国出身であるとすぐにわかる。
「うん。最近は帰っていないの」
マリエッタの言葉に、店の主人がマリエッタの隣にる炎輝に視線を向けた。
「良い人がいたら帰れないね。王国では殿下の御成婚話で持ちきりだよ」
店の主人は、マリエッタと炎輝が夫婦だと勘違いをした。しかし、マリエッタが気になったのは別のことだ。
「殿下? サーシャ殿下のこと? メンショフ公爵様のところに御子息がいらしたでしょう」
マリエッタが国外追放された時、もう一人の従兄弟であるサーシャは婚約はしていたものの結婚はまだ先の予定だった。国外追放の原因となったメンショフ公爵家の一人息子、アレクセイがエレーナと結婚していないことが気になった。
「さあ? そこまでお貴族様のことは詳しくはわかりませんで。サーシャ殿下と婚約なされたのは男爵家の娘でエレーナ様とか。玉の輿だっていうんで大盛り上がりです」
「エレーナですって」
マリエッタは顔色を変えた。
店主はそれに気が付かず話を続ける。
「なんでも長い間エレーナ様はサーシャ殿下に片思いをしていてようやく実ったそうです。サーシャ殿下には婚約者がいたようですが、婚約解消してまでエレーナ様をお選びになったそうですよ」
「へぇ……他に面白い話はあるかしら?」
マリエッタは言いたいことを飲み込んで、店主に話を促す。祖国を追放された時とだいぶ事情が変わっている。
「あとは、景気の悪い話ですね。サーシャ殿下の結婚に先立って奸臣を討つとかで、お偉い貴族様が処刑されましたね……えっと名前はなんと言ったか」
「奸臣を討つ」
マリエッタは言葉を繰り返した。
嫌な予感がする。
「ドロリナ公爵一家ですね! 悪事を暴いたのもエレーナ様って言うのだから、凄いものです」
「マリエッタ、マリエッタ! どこへ行く」
店主へのお礼もそこそこに、マリエッタは血相を変えて街から出て行こうとする。その後を炎輝がオレンジの入った袋を抱えて追いかける。
炎輝は、手を伸ばしマリエッタの片腕を掴んだ。
「マリエッタ!」
「離して! 私、行かなきゃ」
炎輝の手を振り解こうとするが、しっかりと手首を掴まれて振り解くことができない。
「どこへ?」
「レアノール王国よ。決まってるでしょ」
マリエッタは、炎輝の手を振り解こうと右腕を振るが炎輝は逆にマリエッタの手首を引っ張り自分の方へと引き寄せた。
「行ってどうするんだ」
「エレーナを殺すわ」
マリエッタは低く冷たい声で呟いた。
「殺してどうするんだ? 君まで殺される」
「命なんか惜しくないわ。あの女、私だけではなく家族も、サーシャも陥れて」
従兄弟のサーシャは、最初に生きた時も、二回目の転生時もマリエッタの噂に動じない数少ない人物だった。
一回目の時も、二回目の時も自分はさっさと死んでしまっていたがもし、自分が死んだ後に家族も死に、アレクセイを踏み台にしサーシャと結婚していたとしたら。
殺すしかない。
「落ち着け、マリエッタ。無駄死にするだけだ。協力する」
「協力?」
「だから、教えてほしい。マリエッタの事情を」
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