第15話マリエッタの願い
「
六角堂の入り口の階段で膝を突き合わせ見つめ合って座る二人を見て、
「俺ってもしかして、すごくタイミングが悪い?」
「な、なんでもないの!」
マリエッタは慌てて立ち上がって
思っていた以上に
「もうすぐ天灯祭りが始まる。天灯を空に浮かべるんだ」
「行こう」
「はい、筆。みんな天灯に願い事をしたためてそれを空に浮かべるの」
会場では、
「私の願い事」
じっと白い天灯を見つめる。見据えたところで自分の願い事が映し出されるわけではない。
自分が望んでいることはなんだろう、とマリエッタは思う。
会場にいる門弟たちは、思い思いに自分たちの願い事を白い点灯に託している。マリエッタには、それが羨ましい。
今まで生きてきて求め続けたのは、「婚約破棄をされても処刑されないこと」だった。だから、婚約者になる可能性が高いアレクセイとは親しくならないようにした。公爵家の令嬢は結婚に向かないと評価されるように、女騎士にもなった。
その戦略が功を奏して、国外追放にはなったものの、今こうして生きている。
三度目にして手にした始めての人生だ。
(私は、何を願うのだろう)
マリエッタは、自分に問いかけてみても答えは出なかった。
マリエッタが願い事を一向に書きそうに無いのを、
仙洞門で修行する門弟たちは、将来は有望な人材だ。目標を高く掲げている者も多い中、マリエッタは、これからの事を話さない。
仙洞門での修行が終わった後、
「マリエッタは何を書いたんだ?」
自分の願い事を書き終わった
「読めない。マリエッタの国の言葉?」
「神様に祈るときの言葉よ。願い事は思いつかなかったから」
結局、マリエッタは二番目の人生で散々口にした祈りの言葉を書いた。おそらく死刑になった時も、この祈りの言葉を唱えながら死んでいったのだろうと、マリエッタは思っている。
——穏やかな日と、静かな眠りと、安らかな死を
「それが願いか?」
「神様への祈りの言葉よ」
太陽が徐々に地平線へと沈んでいく。ひとつ、またひとつと、空に天灯が昇っていく。上昇気流に乗りゆらゆらと天灯は空を泳いでいた。マリエッタも自分の蝋燭に火をつけて手を離した。ゆっくりと天灯が空に上がっていく。
夜空にたくさんの天灯が浮かぶのは幻想的な光景だった。
「うわぁ、綺麗」
マリエッタは感嘆の声を上げた。挿絵で見た時よりもずっと、何倍も幻想的で美しい風景だ。
「たくさん作った甲斐があったわ」
「迷える魂を天へ導くとも言われている」
「私も導いてくれないかな」
「え?」
「なんでもない」
マリエッタは、
(天へ導く天灯。もし、私が死んだら今度こそ)
今度こそ、生まれ変わりなんてしたくない。
安らかに死ぬことこそ、今のマリエッタの願いだった。
「マリエッタ、明日、
武術大会の後は、しばらく授業は休みとなる。マリエッタは仙洞門を色々と探検したがそれも飽きたところだ。校舎内をうろうろしていたところを
「
「気晴らしにどうだ?」
「行く!」
マリエッタは深く考えずに即答した。マリエッタは、三回生まれ変わっても色恋沙汰の問題といえば冤罪で処刑されることだった。そのため、これが逢引きの誘いだと気がつかないのだ。
「では、明日。迎えに行く」
マリエッタが即答して、機嫌の良い
翌日、
今日のマリエッタは、一段と可愛らしい服装をしていた。普段と変わらない姿で外出しようとしたマリエッタを
マリエッタは、
(
マリエッタが思っていた以上に
街の中央にある一番の大通りを二人で並んで歩いた。通りの左右には商店がひしめき合っている。売られているものが全てが珍しくてマリエッタはキョロキョロと視線を動かすのに忙しい。
「枇杷を売っているわ」
売り子が枇杷を枝つきでカゴに入れて売っている。
「ひと籠買って食べるか?」
「うん、そうする」
マリエッタは、枇杷のカゴを買うために売り子に声をかけた。
「お二人さん、仲が良いね。おまけしておくよ」
売り子は、枇杷のカゴに幾つか枇杷を追加してマリエッタに渡す。売りの子の「仲が良い」という言葉を仲間同士仲が良いと受け取ったマリエッタは嬉しそうに笑ってカゴを受け取った。懐から、小銭を出して売り子に渡す。
マリエッタは振り返って、
「うん……? なんでそこで
「照れてはいない」
「頬が赤いよ」
「気のせいだ」
マリエッタは知らなかった。枇杷を誰かに贈ると言う行為は、枇杷をあげた相手に愛の告白を表す意味がこの国ではあることを。
マリエッタは、
もうひとつ枇杷の皮を剥こうとするマリエッタを
「どこかお店で休憩しよう」
「お連れさんは先にお見えですよ」
店員の返答にマリエッタは警戒した。
「ここに何の用が?」
店員に案内されたのは、店の中でも限られた客しか使えない個室だ。マリエッタはすぐにでも引き返したくなった。部屋の扉が開き、上座には、よく知る人物が座っていた。
「待っていたよ、マリエッタ」
「
マリエッタと
「
「武術大会の時に、君が炎術を暴走させただろう。それについて、ね」
マリエッタの個人的な話になると思った
「
「マリエッタ、君は私の目の色をどう思う?」
マリエッタは、無遠慮に
「赤色でとても綺麗だと思います」
「異国人である君はそう言うと思っていたよ。この国の人は赤い瞳は禁忌に思うだろう」
「え?珍しい色だとは思いますが、何故でしょうか」
「禁術を使ったらどうなるのかというのを李先生は説明したかな?」
「いえ、何故使ってはいけないかの説明を受けました」
「瞳が赤いのは禁術を使った証だ」
「え?では
マリエッタは言葉を失った。あのように美しい赤い瞳は、禁術を使った証なのだ。
「私の場合、先祖が禁術を使った呪いで夏家代々の直系は目の色が赤い」
マリエッタの言葉を夏宗主は、遮った。
「君は、力を暴走させると目が赤くなるそうだね。二回とも
「私、禁術なんて使っていません」
マリエッタは緋国に来るまで、鬼道のことを知らなかった。二回生まれ変わったが、どちらも鬼道は身近ではなかった。今だって軌道を使うのに四苦八苦しているのに禁術まで手は回らない。
「赤い目は強力な仙術が使える証には違いないよ。今後、何度も力を暴走させるようなら仙洞門が黙ってはいないだろう」
マリエッタは、
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