第105話

「……結婚して、やっと産まれた子が女の子で主人をがっかりさせてしまったのが、始まりのように思います。私達は恋愛結婚ですが、婿養子のために常に父からの重圧もあり、主人は後を継いでくれる男の子が欲しかったのです。


結局、私の体が弱くて、その後、子供を授かることが出来なかったので、主人にも花音にも可哀想な思いをさせてしまいました」


花音の母は淋しく笑って言った。


「もう子供を望めないと知った主人は、花音を厳しく教育し始めましたが、あの子はなかなか付いて行けなくて、いつも泣いていました。幼稚園からある一貫校を受験したのですが、主人の望む私学には入れませんでした。その時の主人の落ち込みようは、それは酷くて、私も申し訳ない気持ちになりました。


花音が小学校に上がった時、知人に紹介されたと言って、家庭教師を連れてきました。主人は花音にこの先生にしっかり学ぶように、きつく言いました。


大人しい感じの女の人で、はじめは花音も懐いていたのですが、だんだん元気がなくなってきて、食事ものどを通らないと大友さんが言うのです。私もあまり家にいませんでしたから、細かなことは分かりません。家に帰ってみると、やつれた花音が泣きながら抱き着いてきました。訳を聞いても泣いてばかりで何も言いません。


ある日、大友さんから、緊急の電話がかかってきました。その家庭教師を辞めさせるべきだというのです。訳を聞いたら……」


そこまで言うと、花音の母親は黙ってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る