第104話

女子社員の視線が痛くて散々な一日だった花音。スマホを見ると、古城からラインが入っていた。それだけで花音の心は温かくなる。


古城は先に仕事を終えているようだった。慌てて電話する。会社の外に出ると、古城が待って居てくれて、助手席の扉を開けてくれた。


「今日は大丈夫だった?」


「え? はい!」


ほんとは嫌なことがたくさんあったけど、古城の顔を見ると、元気が出てきた。


「あ、中華、大丈夫かな?」


「大好きです」


「良かった。聞かずに決めてしまったから」


「え?」


「病院の食堂を借りることが出来たから、ケータリング頼んだんだ」


「ケータリング?」


「出前みたいな…ものかな」


「私、中華、大好きです。楽しみです!」


嬉しそうに笑った。


病院の駐車場につくと、花音は沈んだ表情になった。


「どうしたの?」


「今日も、父は来るんでしょうか……」


「次は、手術の日に来ると仰ってたけど……」


「……そうですか……」


花音はホッとしたように笑った。


古城は今朝、花音の母親の様子を見に行った時のことを思い出した。


「まあ、古城さん! あら、お仕事は?」


花音の母は嬉しそうに笑った。アンディを送ってきた次いでと言ってはなんだが、花音の母の様子が気になり病室に立ち寄ったのだ。


「このまま、行きます。後で、アンディも来ると思いますので」


「まあ、有難うございます。少しお時間ありますか?」


「はい」


「お話したい事があるんです」


「何でしょうか?」


「昨日の花音の様子見てどう思われました?」


「伺ったように、ご主人に怯えているように見えました」


「あの子が父を信用しない理由は、他にもあるんです。だから、あの子を悪く思わないでやってほしいのです」

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