第106話
「無理にお話にならなくても……」
「いいえ、古城さんに聞いていただきたいのです。花音は覚えていないかもしれませんが、今のあの子の性格に深く関わっていると思うのです」
花音の母は、胸が苦しいのか手を当てた。
「休まれた方がいいです。また伺いますから」
「いいえ、いいえ。聞いてください」
花音の母は、ギュッと古城の手を握り締めた。
「大友さんが家庭教師に虐待をされているとようだと言ったのです」
「虐待?」
古城の体が強張った。
「はい・・・ 私も大友さんの言葉が信じられなかったのですが、抓ったり叩かれたりしているのを見たと何度も言うので、花音に問い正したのですが、そんな事はされて無いと、ただ首を振るばかりで」
古城は、ただ黙って聞いていた。
「大友さんも、主人が紹介した人だから困った事でしょう。花音の体には、あっちこっちにあざが出来ていて、可哀想で見ていられませんでした」
「ご主人は、その家庭教師を、どうされましたか?」
「私はびっくりして、すぐに主人に辞めさせるよう言いましたが、取り合いません。大の大人が子どもに手を上げるなんて馬鹿げてると言って信じないのです。自分の親戚の大学生だったからかも知れません。結局、私の独断で辞めさせましたけど、花音は、それまでのように朗らかに笑うことが無くなったように思います」
「幼い頃に、大人から受けた傷は心に大きな障害として、残りますからね」
古城は母の言葉にうなずいた。
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