第99話

古城はアンディを病院に送った後、会社に直行することになり、花音は一人で出社することになった。古城は母の様子も見てくると言ってくれた。


会社に着くと、何人かの女子社員がこちらを見てる。気になるが、いつものように課の机を拭き始めた。ゴミを捨てて戻って来ると、佐藤真紀と山野美香に声を掛けられた。


「伊藤さん、話があるんだけど…」


「はい?」


「課長から話し合った?」


唐突に言われて何のことか分からなかったらなかった。


「あの……」


「もう! 分かるでしょ? 吉原さんのことよ」


「え?」


「とぼけないでよ。知ってるのよ。昨日、課長から吉原さんとのお話あったでしょ?」


「…………」


あの時、周りにいた誰かが話を広めたのかも知れない。聞こえる距離ではなかったように思ったけど……。離れていれば、ペコペコしている花音を見て、仕事のことで注意を受けているくらいにしか見えなかったはずなのに……


花音は困ってしまった。断った事を正直に言って良いのかどうか……


「伊藤さん。吉原さんの話、断ったんですって?」


山野が先に口を開いた。


「…………」


「黙ってないで答えてよ」


「はい」


「どうして……? 吉原さんに恥かかせて嬉しい?」


「そんなつもりは……」


「吉原さんみたいに、仕事が出来て将来を約束されている人が、なんで伊藤さんなんかに……」


「光栄なお話だとは思いますが……、母が、今週の木曜日に心臓の手術をするんです。だから、母の傍に付いていたくて、それで……」


花音は、ふたりの話に言葉を濁しながら言った。

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