第100話

昨日の花音と課長の話を知っている山野たちが、複数の女性と交際している吉原のことを知らないなんて、花音には不思議だった。


吉原さんとの結婚に夢を描いていたあの人は、あんなにショックを受けていたのに……


あんな話を聞いた後では、吉原さんの人柄を疑ってしまいそうになる。


仕事が出来て、みんなに信頼されていても、人としての大切な何かが欠けているように思ってしまう。


「やっぱり……ね」


山野が忌々しそうに言った。


「え? なにがですか?」


「あんた、お母さんの病気をネタにして、吉原さんを振り回してるって聞いたから」


「ええ?」


「やめなさいよ。同情買うなんて……カッコ悪いわよ」


花音は唖然とした。


「同情買うなんて……」


……したことない。……と言える雰囲気ではない。


(吉原さんの交際してる人やご両親の事情を知ってる人もいるはずなのに、なんでそんな……)


花音は混乱した。


(私の知ってる吉原さんと、みんなの知ってる吉原さんは違うみたい…)


「人の親切心に付け込むような事止めなさいよ」


「カマトトぶって、タチが悪いよ」


山野と佐藤は、落ち込んでいる花音に冷たく言い放って、自分の机に戻って行った。他の人たちも、雑用しながらこっちに聞き耳を立てているのを感じる。


「お母さんが病気の人にプロポーズなんて、吉原さん良い人過ぎる~」


「ねぇ~」


そんな声が聞こえて来る。


(こわい……)


花音はこんなに注目されたのは初めてだった,しかも向けられているのは蔑みや敵意。とても恐ろしかった。

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