第95話

「お前の場合は、親父さんの方が可哀そうだったと思うけど」


「なんでだよ!」


「そりゃ、一人息子のお前が、ジャングルや未開の土地ばかり選んで行けば、心配してうるさく言うのが当たり前だろう?」


「ええ! ジャングルに!? どうして? 先生」


花音は目を丸くした。


「どうしてって、行きたかったからだよ。都会の喧騒の中に居れば、ふっとそこから離れたくなる時があるんだよ。俺は学生の頃は親父とよくぶつかっていたからなあ」


アンディは当然のように答えて、心配そうな顔で見つめる花音に、笑いながら話を続けた。


「俺の親父は強欲でね。息子が医者になって人の体を治すより、薬を作ってガバッと儲ける方が好きだから、よく喧嘩したんだよ。一人を助けるより、良薬を作って一度に大勢の人を治す方が手っ取り早いとか言ってる顔を見てると嫌になって、その度に親父から離れたくなって、自然を求めてあっちこっち行きたくなってね。人間本来の姿に戻りたくなるんだろうね」


「バカバカしい。お前がアマゾンやら北極に行く度、一緒に行ってくれと頼まれる俺の身にもなってくれ」


古城が、呆れたようにアンディを見て笑った。

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