第94話

(父親が苦手だとは聞いていたが……)


古城は、花音の父に対する他人行儀な態度に驚いた。


病室を出ても花音は速足だ。


「お父さんにあんな態度は、君らしくないよ」


いつも控えめで優しい花音の思いがけない一面を見て苦笑した。古城の言葉に花音は立ち止まる。


「ごめんなさい。いけないとは分かってるんですけど……、父を前にすると、一秒でも早く逃げ出したくなってしまって……」


花音がションボリして言った。


「こら、賢。花音ちゃんをイジメちゃダメだろ」


アンディがいきなり、後ろから声をかけてきた。


「え? なに言ってるんだ?」


「そうとしか見えなかったよ」


古城は困り顔でアンディを見た。


「で、お前は?」


「賢が来るのが遅いから、迎えに来たんだよ。来てみれば花音ちゃんは元気ないし、お前はこわい顔してるしさ…」


「あのな」


古城は軽くため息をついた。花音が慌てて訳を話す。


「違うんです。アンディ先生、私が悪いんです。父と話すのが苦手で、ちゃんとしなければいけないと思っているのに、すぐに逃げ出したくなってしまうんです。ごめんなさい」


「あ~、親父かぁ、確かに鬱陶しいよね。たまに会っても小言しか言わないし……。分かる分かる」


アンディはウンウンと頷いて言った。

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