第93話

「ママ、疲れるのが一番いけないっ言われてただろう」


幸次郎がたしなめた。


「分かっています。でも……」


「必ず来るから、ママ、待っててね」


花音は父親がいるせいか気ごちない笑顔で言った。


「待ってるわ。必ず来てね」


「うん、約束するから」


緊張気味だが、母と話すといつもの花音に少し戻るようだった。花音はまるで母親のようにママを抱きしめた。ママも娘のように甘えている。


「これじゃ、母子の立場が逆じゃないか!」


その姿に花音の父は苦笑して言った。花音はぎこちない笑顔を浮かべて小さく会釈した。


「ママ、お休みなさい。じゃあ、明日ね」


「ええ、また明日……」


母にお休みを行った後、父に向き直って、ペコリと頭を下げた。


「私はこれで帰ります」


「ん? ああ……中津に帰るのか?」


「はい。お父さんは?」


「仕事が片付いてないから、会社に戻る」


「はい」


花音はもう一度、丁寧に頭を下げて病室から出ようとすると父が声を掛けた。


「花音、困っている事は無いのか?」


「はい。ありません。有難うございます」


花音はまた頭を下げると逃げるように病室を出た。古城も一礼すると、花音に続いて病室を出た。

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