第92話

「ご気分はいかがですか? 今日はお疲れでしょう」


古城がいうと、

「いいえ」

と花音の母は明るく答えた。


「とっても良い気分よ。古城さんのお陰で、もう一度人生をやり直そうと思う気持ちでいっぱいなの! 今日、三田の病院からずっとミラー先生が付き添って下さって、古城さんと先生のハーバード大学時代のお話をいっぱい聞かせてもらって、楽しかったわ」


母は幸せそうに古城に笑って言った。


「あはっ、アンディとは馬鹿な事ばかりしていましたから」


彼は少しはにかんで笑った。


「先生はあなたの事を、一番の親友だとおっしゃっておいででした」


「私も彼の事を尊敬しています」


「男の人の友情って良いものですね!」


古城は嬉しそうに微笑んだ。


「今日は病院の移動でお疲れでしょう。どうぞ体をお休め下さい。明日、また二人で参ります」


「有り難う! 古城さん。私に生きる力を与えて下さって!」


花音の母は古城の手を取るとギュッと握って礼を言った。


「では、私たちはこれで失礼いたします」


「もう帰られるんですか? もう少しだけお話したいわ!」


花音のママは寂しそうな顔をして言った。

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