第89話
「お前、それ、どうにかならない? 変だぞ。いつも通りにしろよ」
「変じゃない。お客様にはいつもこうだよ。お前が、女性を連れてくるなんて初めてだから失礼の無いようにしてるのさ。……何にする?」
おどけて訊ねる支配人に古城は笑った。
「お前のおすすめで良いよ」
「分かった。良いエビが入ったんだ。アレルギーとか大丈夫?」
「はい。何でも食べられます」
「それは良かった」
支配人はそう言うと、スタスタと席を離れて入った。
「支配人さんとお知り合いなのですね」
「うん。彼は三友商事の同じ秘書課で働いていたんだ。親父さんが亡くなって、このレストランを継いだんだよ」
「素敵な人ですね」
「ああ、良い奴だよ」
「はい」
嬉しそうに笑う花音に安心して、古城が聞いた。
「さっきどうして、あんな暗い顔をしていたの? 何があったんじゃないの?」
古城は真剣な表情だ。
「あ、あの……、大した事じゃないんです。仕事でミスをしてしまって……」
小さく言葉を詰まらせた花音を古城はただ静かに見つめている。
(言ってしまおうか……、苦手な人に求婚されて、困っているって……。でも、断ったんだし……。それにこんなこと話しても、困らせるだけなんじゃ……)
花音が迷っていると、
「言いたくなければ言わなくてもいいけど……悩みがあるなら相談してほしい……」
「……はい」
「もし、何かあれば、君のお母さんに合わせる顔がなくなるしね」
「はい。相談します」
「約束だよ」
古城は、優しい笑顔を向けた。
「はい、約束します」
花音は古城の優しい心遣いに胸が温かくなって、悩んでいたことが小さなことのように感じた。
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