第90話

食事を終えて母のいる病院へと向かった。


母の病室の扉を開けると、花音の父、幸次郎が先に来ていた。


思いがけず父が来ていたので、花音は緊張して固まってしまった。


古城は軽くポンポンと花音の背をたたくと、古城は幸次郎に向かって一礼をした。


「初めまして、私は…」


「古城さんですね。伺っております。私は花音の父親の伊藤幸次郎と申します。この度は妻の為に、アンドリュー・ミラー先生をご紹介くださり、感謝しております。それに妻が無理を言いましたようで……」


幸次郎は、深々と頭を下げた。


「娘と一緒にこちらへ?」


「はい」


「花音……母さんを頼んだぞ」


父の呼びかけに花音は目を合わせることが出来ず、伏せたままだ。


「……はい」


花音はつぶやくような返事をした。そこへアンディが入ってきた。


「あ、アンディ」


「お、賢、来てたのか!」


賢の隣にいる暗い顔の花音を見て、少し怪訝そうな顔をした。


「どうしたの? 花音ちゃん、元気ないネ」


すると幸次郎が、


「こら花音、挨拶しなさい。この子はいつもこうなんです。いやはや申し訳ありません」


花音は、幸次郎の視界に自分が入らないようにしたいのか古城の後ろに隠れた。


アンディは不思議そうに花音を見る。


(もしかしたら、花音ちゃんは父親恐怖症?)


そんな花音を母も困ったように見ている。アンディの視線に気づいた母は目で会釈しながら挨拶した。


「アンディ先生、今日は有り難うございました」


「移動でお疲れでしょう。良く頑張られましたね」


花音の母は、横になったまま答える。


「有り難うございます。アンディ先生のお陰でございます」


「明日、明後日は体の負担の無いように、検査をしますので心の準備をお願いしますね」


「はい。アンディ先生」


花音の母は、落ち着いた表情で頷いた。

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