第68話

「ごちゃごちゃした人間関係も、利益追求のために仕事をするのも性に合わないよ」


「しかしな、残念に思われただろうなぁ」


「そうでもないよ。親父は賢を後継者にしたいみたいだし」


「えっ、賢。それじゃ……」


社長は古城を見た。古城は軽く首を振った。


「LCMには後継者ふさわしい実績のある人が何人もいます。オレはLCMで勤めた経験もありませんし、親父さんは話の流れで言っただけですよ」


古城は落ち着いたものだ。


「ボクは違うと思うけどね」


アンディは古城を見つめた。


「アンディ……」


古城は困ったような表情でアンディを見返した。


「フフ、賢には悪いけど、ぜひお前に継いで欲しい。そうしたら安心して俺は自分のしたい事が出来るもんネ。だから、社長、俺たちは兄弟と思ってくれたら良いよ。ね、兄ちゃん」


アンディは悪戯っぽく笑った。


「何が、兄ちゃんだ。3ヶ月違うだけだろ」


「デービッド氏の裏切りは堪えただろうから、後継者選びは慎重にならざるを得んだろうなぁ」


社長が考え込んだように言った。


「う~ん。確かにあの頃から本格的に考えてるようだネ」


「こういうことは早くに準備しておかんと火種になるからな」


「親父さんは健在だし、気が早いですよ」


古城が珈琲カップに口をつけながら言った。


「お前が、うんと言えば簡単に済むと思うけどネ」


アンディが古城の肩をグイッと抱いた。その反動でコーヒーをこぼしそうになる。


「おい、危ないだろ。……アンディ、伊藤夫人の手術、頼むぞ」


「ああ、任せろ! その為に日本に来たんだからネ」


アンディはしっかりと頷いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る