第30話
エレベーターが開くと、例によってチャッピーの大歓迎を受けた。
「珈琲いれますね」
自分の部屋に帰ると、忙しそうにキッチンに立つ花音に彼は微笑んだ。チャッピーは古城の膝の上でもう眠っている。
「ケーキ、どれ食べます?」
花音に尋ねられると、彼はうーんと考えてから、珈琲を口に含んだ。
遅い時間に飲む珈琲は、静かで寛いだ雰囲気がある。
いつもはチャッピーと二人……
今夜はいつもと違う穏やかな空気が流れている。
(古城さんがソファに座って新聞を読んでいる!)
ただそれだけの事なのに、ほのぼのとした幸せを感じる。
長い足を組んでカップを持つ姿は、とても優雅で思わず見惚れてしまう。
いつもは広いだけのリビングルームが、暖かな空間に変わっている。
ゆったりと寛いだ彼の姿に、このままずっとここに居てくれたらどんなに嬉しいか分からないのに……と思う花音だった。
「どうしたの?」
花音があんまり見ているので気づいたようだ。花音はバツが悪くてドギマギした。
「あ、あの……」
「ん?」
「明日はお休みですか?」
「うん」
チャッピーがフクフクと寝言を言っている。
「お休みの日は、どこかに……?」
古城の休日はどんなだろうか? 想像がつかない。遠慮がちに花音は聞いてみた。
「たいていは寝てる……かな。君は?」
(寝てる? 意外だなぁ……)
「私は、いつも母の病院に行っています」
「お母さん、入院されているんだったね。じゃあ、いつもお母さんの所へ?」
「はい!」
「お母さん、確か…」
「母は兵庫県の三田市の病院に居ます」
「ここからだと、結構あるね。えっと……車だと1時間くらい……?」
「あ、私、電車とバスで行ってるんです。恥ずかしいんですけど、運転出来なくて…」
彼は少し考えてから「送るよ」と言ってくれた。思いがけない言葉に、花音は目を輝かせた。
「いいんですか!」
「うん」
「嬉しいです! 夢みたい」
花音はあんまり嬉しくて涙が込み上げてきた。
「大げさだな」
古城は呆れたように微笑んだ。花音は、その笑顔に凛の面影を感じて、凛に無性に会いたくなった。
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