第28話
外に出ると、真っ暗だった。
ポツンポツンと街灯があり、道路を照らしている。全くと言っていいほど人通りはない。
でも、少しも怖くなかった。まるで二人のための空間のように感じられた。
古城をそっと見上げると、ほんとに綺麗で、この世の人じゃないようだった。少しだけ先を行く彼の腕を思わずつかんだ。
「どうしたの?」
彼が振り返って訊ねた。
「え? あ、あの、ち、違います。あ、あの……」
花音は自分のしたことが信じられなくて、慌てて手を離すと小さくなった。
古城は可笑しそうに笑うと、手を差し出して「おいで」と言った。
花音はおずおずと手を乗せると、軽く握られた。胸が熱くなる。
(恋人達って、きっとこんな気持ちね。大好きな人と歩くってこんなに幸せなのね!)
花音が嬉しさにそっと彼を見上げると、優しく笑い返してくれた。その時、花音は、はっと気が付いた。
彼はケーキの袋を二つとも持っている。
「あの、一つ持ちます」
「え? いいよ。大丈夫だよ」
「私も持ちたいんです!」
花音が手を出すと「そう?」と少し小首をかしげて笑い、花音にケーキをひとつ渡した。駅に着くと、花音の分の切符を買ってくれた。彼もスマホを出すと改札を通った。
「え? あの……」
「心配だから家まで送るよ。行こう」
花音は嬉しくなって、スキップしたい気持ちになった。
「あ、あの、ケーキ、一緒に食べましょうね!」
花音はドキドキしながら言うと、彼は優しく笑った。
電車の中は空いていたので、二人はゆっくり座れた。彼は疲れているのか座るとウトウトしはじめた。それが気を許してくれているようで嬉しくなる。
ふと前を見ると、向かい側の席には誰も座っていないので窓ガラスに花音と彼が映っていた。
(素敵だなぁ……)
少し俯き加減の角度からみえる横顔のラインが流れるようで、組まれた長い指は男らしい。ずっと見ていられる。次に自分の姿を見てみると至って平凡だ。彼と並んでいると、なんとも不釣り合いで、花音は落ち込んでしまった。
「あれ、寝てた? あ……次、中津だね?」
「はい」
ちょうど到着のアナウンスが流れてきた。家までの帰り道、花音はもう一つのケーキの行方が気になって仕方なかった。
(誰に渡すのかしら……。彼の家に行く前は、家で誰か待っているのではとヤキモキしたけど、違うみたいだし……。う~んん……。この後、誰かに会うのかしら……)
花音は気になりすぎて探偵のような気持ちになっていた。
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